PCは4年、インターホンは6年――備品の減価償却費は毎年固定とは限らず、償却にかかる期間も決まっている。
※この連載は「開業から1年目までの個人事業・フリーランスの始め方と手続き・税金」(望月重樹著)の第2章を、著者と出版社の許可の下、一部修正して転載するものです。内容は、書籍出版時(2014年1月現在)の法令などに基づきます。実際に開業される場合は、最新の情報をご確認ください。
「開業時の設備投資は少ないほど良い」と何度も述べてきましたが、最低限必要な物もあります。ただし、それらの購入に要した費用は、全額がその年の経費として落ちるとは限りません。
備品や車両などは、時間の経過とともに徐々に価値は下がっていくものの、1年間でその全てを使い切ってしまうわけでもありません。そういった物に関しては、購入に要した取得価額を、それぞれの物に応じて決められた期間で分割して費用化していく方法がとられています。この仕組みを「減価償却」といいます。
減価償却の対象となる資産は「減価償却資産」と呼ばれ、下のものが当てはまります。大ざっぱにいうと、1つ当たりの金額が10万円以上の資産については、1度に経費として処理できないと考えてください。
建物、建物附属設備、構築物、機械装置、車両運搬具、工具器具備品、ソフトウェア
減価償却資産の種類は、一つ一つの資産ごとに細かく区分され、それぞれの区分ごとに法定耐用年数が定められています。法定耐用年数とは、それぞれの取得価額を費用化するためにかかる総年数のことをいいます。
費用化していくための主な償却方法には「定額法」と「定率法」があり、資産の種類ごとに選べます。
特徴 毎年、減価償却できる金額が同じ
計算式 減価償却費=取得価額×定額法償却率
定額法は、償却できる金額が毎年一定となる方法で、法定耐用年数ごとに償却率が決まっています。
「取得価額」とは買った時の値段のことですから、上記計算式から算出される減価償却費は、毎年変わらないことを意味しています。
特徴 減価償却できる金額が、毎年一定の割合で減少していく
計算式 減価償却費=期首帳簿価額×定率法償却率
一方、定率法は、初期段階の償却費を多めにとって、毎年一定の割合で徐々に減らしていく計算方法です。
上記計算式中の期首帳簿価額とは「取得価額─既償却額」、つまり買った値段から前年までに減価償却した金額を引いた金額のことです。既償却額は毎年増えるので、結果として減価償却費の金額は毎年減っていきます。
法定耐用年数の期間内で取得価額を経費化していくという点では、定額法も定率法も変わりません。法定耐用年数が経過したときに残されている未償却部分は同額になります。
異なるのは、経費化していくスピードです。定率法は最初からトップギアで多額の減価償却費を計上できるが、いずれ失速して定額法に抜かれてしまうというイメージです。最終的な減価償却費の合計額は同じになりますが、毎年の損益に少なからず影響を与えることになります。
なお、建物、無形固定資産、ソフトウェア、生物に関しては無条件で定額法が採用され、定率法を選択できません。
償却方法を決めたら、「所得税の減価償却資産の償却方法の届出書」を税務署へ届け出ます。この書類を提出しなかった場合、自動的に定額法を選択したものと見なされます。すなわち定額法のままでよいと思えば、手続きは一切必要ありません。
減価償却資産については、それぞれ耐用年数の定められた耐用年数表というものがあります。この耐用年数表は、「減価償却資産の種類」ごとに定められています。そして、機械装置については「設備の種類」、それ以外の減価償却資産については、「構造又は用途、細目」まで区分されています。耐用年数表の一部を抜粋したものが下表です。
届出書の記入について見ていきましょう。記入サンプルと照らし合わせながらご覧ください。
まず「減価償却資産の種類」は、建物・建物附属設備・構築物・車両運搬具・工具器具備品といった種類が該当します。また「設備の種類」は、機械装置の中に区分けされている○○製造設備というものが該当します。
「構造又は用途、細目」というのは、建物・建物附属設備・構築物・車両運搬具・工具器具備品という資産の種類の中に、さらに細かく分類されているものをいいます。例えば器具備品は、「事務機器及び通信機器」「看板及び広告器具」といったように、構造または用途で区分されています。
具体例を見ていきましょう。記入例の、真ん中より少し下の部分「2 減価償却資産の償却方法」の欄をご覧ください。
上のように記入すると、器具備品に属する「構造又は用途、細目」を全て定率法で償却することになります。
こちらは、器具備品という資産の種類の中で、「事務機器及び通信機器」という「構造又は用途、細目」に属する電子計算機という細目について、定率法を採用するということになります。
つまり、この中に含まれない器具備品については、届出を出していないのと同様に扱われ、定額法で償却することになります。
この償却方法の届出書は、初年度の確定申告書の提出期限までに届け出ればよいため、事前の提出が義務付けられている青色申告の承認申請書と異なり、開業年の翌年3月15日まででよいことになります。
次回は、棚卸資産の評価について解説します。
開業から1年目までの 個人事業・フリーランスの始め方と手続き・税金
望月重樹著
日本実業出版社 1600円(税別)
開業準備、帳簿の付け方、青色申告、資金繰り、1年目の経営分析……たった1人で開業する人が、1年目を乗り切って2年目以降の経営に弾みを付けるために、何をすべきか、どの順番でやるべきかを網羅した1冊。
望月重樹
税理士法人羅針盤代表社員。2002年税理士試験合格。税理士でありながら社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、MAS監査プランナーの資格を持ち、個人事業主の経営・労務管理や起業家のスタートアップをトータルでサポートしている。著書に「わかりやすい減価償却の実務処理と節税ポイント」「わかりやすい役員給与の実務処理と節税ポイント」(ともに日本実業出版社)がある。
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