青色申告で確定申告をすると「青色申告特別控除」で所得を減らせる以外にもさまざまなメリットがある。
※この連載は「開業から1年目までの個人事業・フリーランスの始め方と手続き・税金」(望月重樹著)の第2章を、著者と出版社の許可の下、一部修正して転載するものです。内容は、書籍出版時(2014年1月現在)の法令などに基づきます。実際に開業される場合は、最新の情報をご確認ください。
税金の掛かり方は、大きく分けて2種類あります。1つは「賦課課税方式」、もう1つが「申告納税方式」です。
賦課課税方式とは、納税通知書が自動的に送られてきて、その納税通知書に従って税金を納付する方法です。申告納税方式は、納税者が税金を自分で算出して申告・納付を行う方法のことです。
個人事業主に掛かる所得税は申告納税方式をとっています。自らの申告が求められている以上、自分で正確に計算する必要があります。
そこで、開業届を提出すると同時に検討したいのが、申告の方法を「青色申告」にするか「白色申告」にするかということです。青色申告とは、複式簿記により必要な帳簿を作成する代わりに、青色申告でしか得られない特典を利用できる制度です。
白色申告と青色申告の違いをごく簡単に表わせば、「白色より青色の方がトク」「手続きに掛ける手間はそれほど変わらない」。つまり、基本的に青色申告にした方がよいということです。
青色申告の特典はいくつもありますが、中でもメリットの大きい3つのポイントを説明しましょう。
一定の金額を所得から控除できる制度で、手続きの方法によって「10万円控除」と「65万円控除」の2種類があります。
所得税は下記の算式で求められます。青色申告特別控除を活用すれば、「青色申告特別控除額(10万円または65万円)×税率」で算出された金額だけ節税できるわけです。白色申告には1円の控除もありませんので、青色の方がお得といえるでしょう。
所得税額=(所得−所得控除−青色申告特別控除)×税率
家族の協力によって事業が成り立っている場合、家族に支払う給料を経費として処理できる制度です。白色申告の場合は「事業専従者控除額」として、控除できる金額が下記のように決まっています。
寝る間を惜しんで一生懸命働いた家族に対しても、この金額以上支払った分については経費で落とせません。年間を通して上記以上の金額を支払いたい場合には、青色申告にした方が得だということです。
純損失の繰越控除とは、前年に赤字が出た場合の赤字分を、例外的に翌年以降に繰り越して、その年の所得からマイナスして税金を計算できる制度です。
「1 青色申告特別控除」で示した算式から分かるように、利益(所得)が出た分だけ税金はたくさん掛かります。つまり原則的には、たとえ前年が赤字だったとしても、当該年に利益が出ていたら、その所得に対して税金が掛かる仕組みとなっています。
所得税=(所得−所得控除−青色申告特別控除−純損失の繰越控除)×税率
開業1年目はお客さまも付きにくく、赤字になるケースが非常に多いものです。この純損失の繰越控除という特典は、3年間にわたっての繰越しが可能です。
仮に1年目に500万円の大幅な赤字を出したとしましょう。たとえ2年目以降に事業が安定して何とか黒字化したとしても、初年度の赤字分を回収できていない状態では、2年目以降の税金を払い続けるのは非常に苦しくなります。そこで、2〜4年目の期間内であれば、赤字分の500万円が0円になるまで、所得から控除できるのです。
青色申告のメリットは、一般的に「1」の青色申告特別控除の効果が強調されることが多いのですが、現場で確定申告の計算を行っていると、「2」「3」に見られるように、トータルで青色申告の節税効果を実感します。ぜひとも、青色申告を採用するようにしてください。
青色申告を受けるための手続きを確認していきましょう。まず「所得税の青色申告承認申請書」を、納税地を管轄する税務署に提出します。開業日が何月何日に該当するかによって、提出期限が下記のように異なりますので、注意が必要です。
3月の確定申告直前に慌てて青色申告承認申請書を出そうとする方が少なくありませんが、それでは開業した最初の年の分からの適用は受けられず、翌年からの適用となってしまいます。
A 開業日が1月1日〜1月15日の場合→開業した年の3月15日まで
B 開業日が1月16日〜12月31日→開業日から2カ月以内
前回の「個人事業の開業・廃業等届出書」の提出期限は開業日から1カ月以内ですので、これと同時に青色申告承認申請書を提出することをおすすめします。
次回は、減価償却について解説します。
開業から1年目までの 個人事業・フリーランスの始め方と手続き・税金
望月重樹著
日本実業出版社 1600円(税別)
開業準備、帳簿の付け方、青色申告、資金繰り、1年目の経営分析……たった1人で開業する人が、1年目を乗り切って2年目以降の経営に弾みを付けるために、何をすべきか、どの順番でやるべきかを網羅した1冊。
望月重樹
税理士法人羅針盤代表社員。2002年税理士試験合格。税理士でありながら社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、MAS監査プランナーの資格を持ち、個人事業主の経営・労務管理や起業家のスタートアップをトータルでサポートしている。著書に「わかりやすい減価償却の実務処理と節税ポイント」「わかりやすい役員給与の実務処理と節税ポイント」(ともに日本実業出版社)がある。
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