Apple Watchやゲノム解析とも連携――「クラウド型電子カルテ」をプラットフォームとする新しい「医療」の可能性:ヘルスケアだけで終わらせない医療IT(5)(1/2 ページ)
日本で構築が急がれている「地域包括ケアシステム」の重要な基盤と考えられている「電子カルテ」システム。クラウド型電子カルテが医療データ蓄積のためのプラットフォームとなることにより、医療そのものの進化を後押しする可能性も生まれているという。
編集部より
IoTやウェアラブル機器の普及で広まりつつあるヘルスケアIT。しかし、そこで集まる生態データは電子カルテや医療で生かされていないのが、現状だ。@IT特集「ヘルスケアだけで終わらせない医療IT」ではヘルスケア/医療ITベンダーへのインタビューやイベントリポートなどから、個人のヘルスケアだけにとどまらない、医療に貢献できるヘルスケアITの形を探る。
今回は、OSSの電子カルテである「OpenDolphin」の開発と提供を行っているライフサイエンス コンピューティングに、電子カルテの現状と、今後のビジョンを聞いた。
「地域包括ケアシステム」を構成する重要な要素の一つ「電子カルテ」
どの地域や場所に住んでいても、その人にとってふさわしい医療、介護サービスが受けられる「地域包括ケアシステム」の構築は、「高齢化先進国」である日本における喫緊の課題の一つになっている。
地域包括ケアシステムにおいては、それぞれに役割を持った地域内の専門病院、医療機関、行政機関の間で、効率的に連携を行える環境作りが必要であり、その実現に当たってITに大きな期待が懸けられている。中でも地域包括ケアシステムを構成する重要な要素の一つと考えられているのが、患者の診療情報を電子化して保存し、複数のシステムで共有する「電子カルテ」だ。しかしながら、その普及は思うように進んでいないというのが現実のようだ。
だが今後、この状況が急速に変化していく兆しも見え始めている。電子カルテの普及を加速させるキーワードとして、「クラウド」が浮上しているのだ。
東京都豊島区に本社を置くライフサイエンス コンピューティング(以下、LSC)では、オープンソースソフトウエア(以下、OSS)の電子カルテシステム「OpenDolphin」などの開発と提供を行っている。同社にOpenDolphinを中心とした電子カルテシステムの現状と、今後のビジョンについて話を聞いた。
日本発のOSS電子カルテ「OpenDolphin」とは
OpenDolphinは、2000年に経済産業省が推進した「地域医療連携プロジェクト」の公募事業として開発された電子カルテシステム「eDolphin」を、2004年にOSS化したものだ。eDolphinは、診療データの相互交換のために策定されたXML定義「MML(Medical Markup Language)」に準拠したデータをサーバー上に保存し、複数のクライアント間で共有できるようにしたものだ。
一足早く普及していた日医(日本医師会)標準の電子レセプト(処方箋発行や会計処理を行う)システム「ORCA」との接続が可能な点が、その特徴の一つだ。
OpenDolphinの開発者は、現在LSCで取締役を務める皆川和史氏だ。皆川氏は、開発コンセプトとして「現場での使い勝手を考え、旧来のフォームベースの業務アプリ的なものではなく、柔軟性の高い電子ノートアプリ的な環境を目指した」と話す。
OpenDolphinのクライアントは、Windowsだけではなく医療関係者にユーザーが多いMac上でも動作する。また現在では、iOSデバイス向けのクライアントソフト「SuperEHRTouch」「VisitTouch」の提供も同社が行っている。入力端末では、高精度な医療画像やテキストをユーザーの要件に合わせて柔軟にカルテ上に配置できる他、頻繁に入力する薬品名などの定型入力をワンタッチで行える「スタンプ機能」などが利用でき、使いやすさが高く評価されているという。
OpenDolphinのライセンスはGNU GPL v3とされており、条件に従えば自由にプログラムの改変や再配布を行うことが可能だ。ソースコードはGitHub上で公開されている。JavaをベースとしたWildFly 8.2で動くプログラムで、Java EEでの開発経験があるエンジニアであれば、すぐにでもシステムの動作を試してみることができる。OSS化後も、セキュリティを意識したVPN上での動作や、クラウド化のための仮想化技術への対応など、継続的な機能追加が行われている。
LSCでは、ORCAやPACS(医療画像処理システム)などと連携したOpenDolphinの構築、カスタマイズ、サポート、iOSデバイス向けクライアントなどを「OpenDolphin Pro」の名称で提供している。
また、SI事業者やパッケージベンダーが、自社が提供する医療機関向けシステムの一部としてOpenDolphinを組み込んで提供するケースも増えているという。例えば、コニカミノルタは医療用画像オールインワンシステム「Unitea α(ユニティア アルファ)」に組み込んでいる。
2014年からは、本来は個別に構築する必要があったサーバー環境をクラウドとして提供する「OpenDolphinクラウドZERO」と呼ばれるサービスも開始した。LSC、代表取締役社長の小林亮一氏は、このクラウドサービスが、電子カルテの普及拡大だけではなく「医療そのものの発展にも貢献できる可能性を持っている」と語る。
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