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Apple Watchやゲノム解析とも連携――「クラウド型電子カルテ」をプラットフォームとする新しい「医療」の可能性ヘルスケアだけで終わらせない医療IT(5)(2/2 ページ)

日本で構築が急がれている「地域包括ケアシステム」の重要な基盤と考えられている「電子カルテ」システム。クラウド型電子カルテが医療データ蓄積のためのプラットフォームとなることにより、医療そのものの進化を後押しする可能性も生まれているという。

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「クラウド」のメリットに対する理解が電子カルテ普及の契機に

 「全国に10万ある開業医のうち、レセプトの電子化は約9割で行われているものの、電子カルテについては、まだ2割強」(LSC、営業本部本部長の中台倫之氏)というのが現状だ。原因は複数あるだろうが、中でも「一般的な開業医にとって、これまで電子カルテシステムの導入と運用にかかる負担が大き過ぎた」ことが大きな理由として挙げられる。


ライフサイエンス コンピューティング 代表取締役社長 小林亮一氏

 従来、患者の診療データは「基本的に院内で保管する」ことが原則とされていた。つまり、電子カルテを導入する場合には、医療施設内に自前でサーバーを立て、そこにデータを保管することになる。そのサーバーの運用を、小規模な医療機関で独自に行うことが難しいのは明らかだ。導入業者にサポートを依頼するとしても、そのために掛かるコストは電子カルテ導入による効率化に見合うものではない。さらに、サーバーの設置スペースや電力コストも無視できないものになる。

 ただ近年では、そうした「原則」そのものに変化が起きているようだと小林氏は言う。

 「ここ数年、特に東日本大震災以降には、医療界のクラウドに対する考え方も大きく変わってきました。災害発生時のデータ保全の観点だけでなく、より現実的な問題として、サーバーのバックアップや故障対応、データ漏えいリスクの低減、電気代の削減といった観点からも、クラウドのメリットが理解されるようになっています。OpenDolphinクラウドは、従来電子カルテの導入が難しかった小規模な医療機関にも、広く使ってもらえるものになっています」(小林氏)

 実際、福島県の医療福祉情報ネットワーク「キビタン健康ネット」において、10施設の医療機関に「OpenDolphinクラウド」の導入が行われるなど、着実に実績も生まれつつある。

クラウド上の診療データが医療の進歩に貢献できる可能性

 クラウド上で医療データを管理することが一般的になれば、それは単に「地域内の医療機関、行政機関での情報共有の効率化」以上の価値を生み出す可能性があると小林氏は指摘する。

 例えば、医師が処方した薬に対し、患者が「きちんと服用したか」「その薬が効いたか」「副作用があったか」といったフィードバックを、スマートフォンなどを通じてクリニックに送信する仕組みがあればどうだろう。その患者個人に合った、よりきめの細かい医療サービスの提供が可能になるだけではなく、そうしたデータが全国規模で大量に蓄積されることにより、より一般的に効果が高く副作用が少ない新薬の開発などにも役立てられるのではないかというわけだ。


患者が処方箋をどうしたかについてクリニックに送信するiPhoneアプリ。後ろにあるのはiPad miniで動いている電子カルテアプリ

 LSCは2015年6月1日に、医療法人社団清陽会と共同で豊島区の新区庁舎に「池袋ドルフィンクリニック」という医療施設を開設。ここでは、クラウド電子カルテシステムをベースにした、医療における新たなIT活用のトライアルをスタートしている。先ほど例として挙げた「診療内容に関する情報を患者に提供し、それに対するフィードバックを収集するiPhoneアプリ」についても、テスト運用を始めている。


池袋ドルフィンクリニックの様子

 「次の段階では、Apple Watchなどのようなウェアラブルデバイスから収集したデータ(EHR、Electronic Health Records)を、診療システムに取り込む仕組みについても検討している」(皆川氏)という。また、ゲノム解析による「がん」の早期発見、治療と合わせて、そこで蓄積されたデータを新薬の開発、治験に活用するといった取り組みも進めていくという。


ライフサイエンス コンピューティング 取締役 皆川和史氏

 クラウドなど、新たな情報技術に対する医療界の意識が変化しつつあるとはいえ、やはり医療業界は「医師法」「薬事法」など、さまざまな法律によって厳格なルールが定められている分野だ。そうした意味でもITによる医療情報の共有、活用を押し進めるためには「医療機関とIT企業、医師とIT技術者の連携、協力関係がさらに重要になってくる」と小林氏は言う。

 OpenDolphinでは、現在サポートするMMLに加え、世界標準のEHR規格である「ISO 13606」への対応も進めていく計画だ。「ISO 13606に対応することで、患者の医療データを、海外発のものを含む多様なシステムと共有しやすくなる」(皆川氏)という。また、OpenDolphinの海外への展開も、これまで以上に容易になるはずだ。

 小林氏は「日本の医療が、高品質、先進的であり続けるために、ITの力が不可欠であることは間違いない。クラウドベースの電子カルテは、そのプラットフォームとして重要な役割を果たすだろう。医療の可能性を広げる基盤技術としてOpenDolphinの開発と提供を続け、世界に貢献できるものに育てていきたい」と語った。

次回は、医療向けのOSSが集結した勉強会

 今回紹介したOpenDolphinはOSSであることが大きな特徴であり、それにより大きな発展性を秘めている。同様に医療向けのOSSは電子カルテのみならず、多種多様なものが存在する。次回は、そんな医療向けのOSSが集結した勉強会の模様を紹介しよう。

特集:ヘルスケアだけで終わらせない医療IT

IoTやウェアラブル機器の普及で広まりつつあるヘルスケアIT。しかし、そこで集まる生態データは電子カルテや医療で生かされていないのが、現状だ。本特集ではヘルスケア/医療ITベンダーへのインタビューやイベントリポートなどから、個人のヘルスケアだけにとどまらない、医療に貢献できるヘルスケアITの形を探る。



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