金融庁はFinTech革命にどう向き合うのか?――新たな決済サービス、キャッシュマネジメントサービス、電子記録債権、XML電文、国際ローバリュー送金、そして規制改正:特集:FinTech入門(6)(4/4 ページ)
金融とITの融合によって多様で革新的な金融サービスを生み出す原動力になると期待されるFinTech。FinTechは日本の金融システムに何をもたらそうとしているのか? 1月20日に開催された「BINET倶楽部セミナー」では、金融庁総務企画局企画課で企画官を務める神田潤一氏が「日本におけるFinTechの活性化に向けた金融庁の取り組み」と題して講演を行った。
金融/ITイノベーションに向けた新たな3つの取り組み
決済ワーキンググループでは、仮想通貨以外にも、金融/ITイノベーションに向けた新たな3つの取り組みについて検討を進めている。
携帯電話番号を利用した送金サービス
1つは、既存のオンラインバンキングを活用して、銀行口座番号の代わりに携帯電話番号やメールアドレスを使って、個人間での振込を可能にするサービスで、現在、メガバンク3行を中心に銀行が提携することで実現すべく、検討が進められている。
ブロックチェーン技術の活用
2つ目は、ブロックチェーン技術の活用だ。この技術を決済システムに利用することによって、安全で止まらないシステムを非常に安価に構築できると期待されている。
日本では現在、メガバンク3行を中心に、ブロックチェーン技術の金融業務での活用や標準化を検討する国際的な枠組み「Distributed Ledger Group」に参加している他、大手金融機関42行がブロックチェーン技術の活用を目指して提携するなどの取り組みを行っている。
- 「SmartCoin」のOrbが参加:オリックス、静岡銀行らがブロックチェーンでNTTデータらと共同研究
- JPXはIBMとHyperledgerで、みずほはISIDらとAzure上で:JPX、みずほがブロックチェーン技術の実証実験を開始
- 創設メンバー30社も発表:OSSのブロックチェーン技術「Hyperledger Project」が間もなくソースコードを公開
- IT大手も参加するOpen Ledger Project:Linux FoundationがOSS分散台帳フレームワークの開発を発表――ブロックチェーン技術の企業への展開を視野に
- 15カ国から167件の申し込み:ブロックチェーンの実証実験に取り組む国内企業20社の社名が公開、その利用用途とは
神田氏は「2016年度は、銀行界においてブロックチェーン技術の活用について集中的に検討を進め、そこに金融庁も積極的に関わっていく」と決意を示す。
オープンAPIの推進
もう1つが、オープンAPIの推進だ。これは、金融機関のシステムの機能を外部システムから容易に利用可能にするための接続仕様を積極的に開示することによって、FinTechを推進していくというもの。
- 特集:FinTech入門(2):FinTechの要はAPI公開――公開側、利用側、ソリューション提供側が語る、その実践ノウハウとは
- デジタル決済を促進:Visaが決済サービスなどのAPIをオープンに提供、開発者向けプログラムを開始
金融庁では、「API開示の安全性を確保するためのガイドラインなどを検討する作業部会を設置し、2016年度中に報告書としてまとめる」(神田氏)計画という。
金融グループ規制改正案の国会提出を準備
FinTechに関連する金融庁の取り組みとしてもう1つ挙げられるのが、金融環境の急激な変化に対応するための金融グループの改革だ。金融審議会は、麻生金融担当大臣による「金融グループを巡る制度のあり方に関する検討」の諮問を受け、2015年5月に「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」を発足させている。
このワーキンググループでは、金融グループの経営形態の多様化やITイノベーションの急速な進展に対応するため、持株会社が果たすべき機能を明確化するなど、金融グループの経営管理の充実を図るとともに、共通/重複業務の集約などを通じてシナジー効果、コスト削減効果を生み出すための検討を進めてきた。
神田氏によると、ワーキンググループには、銀行グループの業務範囲の拡大について3つの要望が寄せられているという。
1つ目は、ECビジネスへの出資を可能にすることだ。もともとECと金融サービスは親和性が高く、アマゾンなどのEC事業者は、出店者に対する融資などのサービスを既に展開している。一方、銀行はECビジネスなどへの出資は許されておらず、これを可能にしてほしいという要望が強いそうだ。
2つ目は、金融関係ITベンチャー企業への出資を可能にすることだ。欧米の金融機関は、これからの競争相手はグーグルやフェイスブックであると見なしており、金融関連のITベンチャー企業の買収や出資を活発化させている。日本の銀行グループにも、金融関連のITベンチャー企業への出資を可能にし、戦略的なIT投資の道を広げて欲しいという要望も寄せられている。
3つ目は、銀行間での決済関連事務の受託を可能にすることだ。金融機関においては、決済関連業務の合理化などを通じてコスト構造の見直しを図る動きが活発化すると見られており、「銀行間での決済関連事務の受託を容易化し、銀行間や銀行グループ内での連携、協働を容易にしてほしい」という要望も多いとのことだ。
金融庁では現在、こうした要望を受けて、今国会中に銀行法の改正案や関連する法案を提出する準備を進めているという。神田氏は、「関連する改正案や法案を、3月ぐらいをめどに国会に提出し、5月か6月の成立を目指したい」と見通しを語った。
金融庁はFinTechへの挑戦を強力にサポート
金融庁は今後も、2つのワーキンググループでの検討を踏まえて、決済業務の高度化と金融グループの新しい規制の在り方について議論する取り組みを推進していく。神田氏は、「これらの取り組みを通じて、FinTechにおける新しい挑戦を強力にサポートしていくことが金融庁のメッセージだ」と強調する。
こうしたメッセージを具現化する取り組みの1つとして、金融庁は2015年12月に、FinTechに関する一元的な相談/情報交換窓口となる「FinTechサポートデスク」を設置した。これは、FinTechをはじめとするイノベーションを伴う新たな事業分野を対象に、金融に関わる具体的な事業や事業計画に関連するさまざまな点について幅広く相談を電話で受け付けるものだ。毎週数件のペースで相談が寄せられているという。
日本の政府と金融庁は今後、FinTechにどのように向き合っていくのか。政府は2015年6月30日に閣議決定した「日本再興戦略」改訂2015の中で、金融、資本市場の活性化に関する戦略の新たに講ずべき具体施策の最初の項目に、「決済高度化及び金融グループを巡る制度のあり方等に関する検討」を掲げている。
また、金融庁は、2015年9月に公表した2015年事務年度の金融行政方針の中で、「金融業/市場の変革への戦略的な対応」の具体的重点施策の最初の項目に「FinTechへの対応」を掲げ、「金融庁としては、FinTechの動きに速やかに対応し、……技術革新がわが国の経済、金融の発展につながるような環境を整備する」と宣言している。
神田氏は最後に、「金融庁は、政府とも連携し、FinTechへの取り組みを加速していく」と強調し、講演を締めくくった。
特集:FinTech入門――2016年以降の金融ビジネスを拡張する技術
「Finance(金融)」と「Technology(技術)」を足した造語である「FinTech」。その旗印の下、IT技術によって金融に関わるさまざまな業務や処理を利便化し、ビジネスの拡大を図る動きが国内金融業界から大きな注目を浴びている。大手銀行からスタートアップまで「FinTech」という言葉を用い、新しいビジネスを展開するニュースが相次いでいる。言葉が氾濫する一方で、必要な技術について理解し、どのように生かすべきか戦略を立てられている企業は、まだ多くないのではないだろうか。本特集では金融業界がFinTechでビジネスを拡大するために必要な技術要件を浮き彫りにし、一つ一つ解説していく。
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