自動車界を開拓する「DeNA」が、カーシェアリングサービス「Anyca」で目指す未来:クルマがつながる、クルマでつながる(3/4 ページ)
自家用車のシェアリングサービス「Anyca」は、入社3年目の2人のエンジニアの発案から始まった。さまざまな業種とのコラボレーションで守備範囲を広げ続けている同サービスは、どのような体制でプロジェクトを回しているのだろうか。事業責任者とリードエンジニアにお話を伺った。
10時間、試行錯誤した思い出
Anycaは、自社システムだけで完結するサービスとは違う。保険会社との連携や「無人レンタカー」の試みでは、他社システムと連携するための開発作業が重要だ。
無人レンタカーは、Anycaのアプリを介してJR東日本の駅レンタカーを予約できる(※)。クルマには、スマートフォン鍵を解錠するためのスマートデバイスを装着する。この仕組みの作り込みでは思わぬ苦労もあったという。
馬場さんは、それまでIT系のサービスだけを作ってきた。Webなどを対象に開発してきたソフトウェア開発者としては「1個作って動けば全部動くだろう」と考えてしまう。ところが実際のクルマにスマートデバイスを取り付けてみたら、メーカー、モデル、年式で挙動が変わってくる。
「開くはず、と思っていたクルマの鍵が開かなくて、地方駅のレンタカー乗り場で10時間も試行錯誤しました」と馬場さんは苦笑いする。ハードも経験していた畑中さんはもう少し落ち着いたもので、「何とか動くもの、動かないものを識別して対策を立てました」と振り返る。
保険会社のシステム連携も大仕事だった。Anycaはカーシェアリングサービスに合わせた形の自動車保険に簡単に加入できることが1つの「売り」だが、それを実現するには保険会社のシステムとの連携が必要だ。
「両社にとって新しい取り組みだったので、どうネットワークをつなぐのか、セキュリティレベルをどのように決めるのか――そうした段階から話し合って決めていかないといけませんでした」(馬場さん)
どのような手段で、どんなタイミングでデータを受け渡すかといった、細かな点から検討を重ねていく必要があった。
開発文化の違いもあった。保険会社のシステムは、仕様書をきっちり作って、それを基に開発していくスタイルだ。一方のAnycaチームは、作りながら仕様を修正していくスタイルに慣れ親しんでいる。
そこで毎週のミーティングで双方が顔を合わせ、すり合わせていった。このような場では、会議出席メンバーが仕様変更の権限を持っているかいないかでスピード感が変わってくる。
「Anycaチームはエンジニアサイドに多くの権限を持たせてくれるので、検討事項を持ち帰らずにその場で決められるのが助かります」(畑中さん)
Anycaは、この他にも他の企業と連動したキャンペーンを展開している。例えば、ホンダアクセスと組み、「Modulo X」のクルマに試乗できるキャンペーン。クルマは24時間、無料でシェアされる。「長時間、これだけ気軽に試乗できるサービスは他にない」と馬場さんは胸を張る。一般消費者が、営業店で試乗するより低いハードルで、より長い時間クルマに乗れる機会を提供する取り組みだ。
講談社とは、漫画「頭文字D」に登場する車種に乗ることができるイベントを実施した。中古車販売の「ガリバー」を運営する「IDOM」ともコラボレーションする。これらの取り組みは、協力する双方にとって顧客との接点を増やすメリットがある。
今、自動車の国内需要は減少傾向にある。一方、カーシェアリングやレンタカーの市場は伸びている。つまり「所有から利用へ」の移行がある。このような状況で、自動車業界の各社も従来とは異なる取り組みをしようとしている。Anycaとのコラボレーションは、そのような業界のニーズをくみ上げた格好だ。
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