多重下請け構造であえいでいるエンジニアが知っておきたいIT業界の仕組み:SESや下請け構造自体に問題はない。では何が?(2/3 ページ)
わが社は、なぜ頂点を、せめて少しでも上のポジションを目指さないのだろうか――IT業界解説シリーズ、第2弾は「多重下請け構造」の闇に迫ります。
現状を容認する経営層と、ぬるま湯につかったままの営業
例えば、三次請け以降の企業が、「営業努力をしてより上の商流と契約する」という道はないのだろうか? その点を高井氏に聞いてみた。
「基礎知識として知っておきたいのは、多重下請け構造の中でのポジションは企業によって固定されているわけではないということです。プロジェクトによって、四次請けになることも、三次請けになることも、五次請けになることもあります」
どういうことかというと、これらの下請け企業は、自社で受託した案件の足りない開発リソースを、パートナー企業として互いに融通し合っているのだ。従って、例えばA社が受託した案件にB社がSESで人を出し、B社が受託した案件にA社がSESで人を出すということもある。そのため、商流の上下関係が入れ替わることも珍しくないのだ。1000社を超えるパートナー企業と取引きしているSES企業も珍しくないという。
ならば、より上位の二次請けや元請けのポジションを狙うのはどうだろうか。
「三次請け以降の企業が一次請けへ変革しようとすると、取引き口座の開設や信用面、さらには上流工程を担える人材やPM(プロジェクトマネジャー)といったヒューマンリソースの調達面で難しいものがあるかもしれません。しかし二次請けに変われる可能性はあります。ただし、これは経営層や営業スタッフに相当な覚悟と熱意がなければ実現しません。三次請け以降の企業の営業は、ある意味「楽」なんですよ」
「楽」とはどういう意味だろうか。
三次請け以降の企業は互いに持ちつ持たれつであることは先ほども述べたが、そうした企業の営業スタッフの元へは、何のアクションを起こさずとも一定数の案件が舞い込んでくる。商流がより上の企業から、希望する開発リソースのリストが電子メールで回って来るのだ。例えば次のようなものだ。
案件:流通系業務システムの開発
期間:2018年11月1日〜
技術要件:Java、Seasar2、Oracle
フェーズ:詳細設計以降
単価:月80万円
必要人員:7人
勤務地:恵比寿
これを受け取った営業スタッフは、自社のエンジニアをアサインし、リソースが足りなければ「単価の部分を70万円に書き換えて」パートナー企業に情報を流す。受け取ったパートナー企業も自社のエンジニアをアサインして、足りなければ「単価の部分を60万円に書き換えて」別のパートナー企業へ……といったことを繰り返すのである。こうして、積極的に営業をしなくても、仕事は上から降りてくるのだ。
この過程で、例えば一次請けで150〜300万円/月だった単価が、二次請けで80〜120万円/月、三次請けで55〜75万円/月と減り、その後は1社経由するごとに3〜5万円ずつ抜かれていく。
エンジニアが見るとショックな部分もあるかもしれない。しかし、これでも会社の経営はうまく回ってしまうのだ。そのため、経営層や営業スタッフが、苦労して元請け企業との信頼関係を構築し、少しずつ実績を作って、商流の上位に食い込めるエンジニアを育成する、といった必要性を感じていないケースも多いという。
冒頭で高井氏が語ってくれた通り、SESや下請け構造自体に問題はない。SESや下請け構造の意義を基に、自社の社会的価値を発揮する手段として取り組んでいるのではなく、こうした「楽」な営業、あるいは「楽」な経営を良しとして多重下請けに甘んじている企業の姿勢こそが、問題にされるべきなのである。
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