エンジニアなら「アナログ電話」を知っておこう:羽ばたけ!ネットワークエンジニア(19)
現在、ネットワーク技術の最先端といえば「5G」。しかし5Gは10年もたてば「6G」に取って代わられて消えてしまう。だが、130年前に国内に登場したアナログ電話は今も企業ネットワークに不可欠で、おそらく今後30年たってもそれは変わらない。今回はアナログ電話の重要性について解説する。
筆者はネットワークの仕事を始めた1987年から現在に至るまで、企業ネットワーク全体を仕事の対象にしている。企業ネットワークにはデータ通信と音声通信があるが、これらを統合するのが企業ネットワーク構築の基本だ。1980年代後半はTDM(時分割多重化)装置、1990年代はフレームリレーとATM(非同期転送モード)、2000年代に入るとIPでデータと音声を統合した。
インターネット時代以降、つまり1990年代後半以降にネットワークエンジニアになった技術者は、IPさえ分かっていれば企業ネットワークを構築できると思っているかもしれない。このコラムも「Master of IP Network」に分類されている。しかし、IPだけで企業ネットワークは作れない。「アナログ電話」が半永久的に必要なのだ。アナログ電話を知らないネットワークエンジニアに、企業ネットワーク全体の構築はできない。
例えば、筆者が運用している2000店舗を超える多店舗ネットワークでは5000台以上のアナログ電話やファクシミリ(FAX)が使われている。現在はISDNが多いものの、NTTグループの「ひかり電話」へとシフトしつつある。ISDNもひかり電話も回線自体はデジタルだが、端末は「アナログ」なのだ。
アナログ電話とは?
そもそもアナログ電話とはどのようなものなのか、その仕組みを簡略に示したのが図1だ。
アナログ電話は銅線2本で交換機と接続されている。受話器を上げると電話機内部のスイッチが閉じて交換機と電話機の間に回路ができる。そして交換機から電話機に「ツー」という発信音が流れる(図1の上段)。
相手の電話番号を入力すると、ダイヤル信号またはPB(プッシュボタン)信号で、電話番号を交換機に送る。ダイヤル信号はパルスの形をしているが、電流を短時間切断するとそれが1個のパルスになる。「3」というボタンを押すと3回連続して電流が切断される。
PB信号では、周波数の異なる2つの音の組み合わせで0から9までの数字を表す。「3」というボタンを押すとそれを表す音の組み合わせを送出する。
電話番号を受信した交換機は、中継回線を介して選択信号を相手側交換機に送る。相手側交換機は着信すべき電話機の呼び出し音を鳴らす(図1の中段)。
相手が受話器を上げると発信側と受信側の回路がつながり、アナログ音声が流れ始める(図1の下段)。
糸電話は音声(空気の振動)を糸の振動として相手に伝える。アナログ電話は空気の振動を電流の強弱として相手に伝える。原理は糸電話と同じであり、電流というアナログ信号自体が音声を表している。デジタルでもないし、いわんやIPパケットは関係ない。
フレッツのホームゲートウェイはアナログ電話しかつながらない
NTTグループの「ひかり電話」では電話機の接続やつながり方はどうなるのか、図2、図3、図4に示す。
家庭や店舗、中小規模のオフィスでひかり電話を使うには「ホームゲートウェイ」や「オフィスゲートウェイ」が必要だ。ホームゲートウェイには電話機やFAXを接続する電話ポートがある。電話ポートにはアナログ電話しか接続できない。
図2においてホームゲートウェイは電話機に対して図1の交換機の役割を果たす。電話ポートのコネクターはRJ11で銅線が2本内蔵されている。受話器を上げるとホームゲートウェイから電話機へ通話音を送出する。
ダイヤルはPB信号を使う。電話番号を受け取ったホームゲートウェイは呼制御プロトコルである「SIP」(Session Initiation Protocol)を使って呼接続要求(Call Request)をひかり電話網(網内のSIPサーバ)に送る。ひかり電話網は公衆電話網に選択信号を送り、公衆電話網の交換機が相手電話機の呼び出し音を鳴らす(図3)。
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