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うまくいってもいかなくても、お金はください「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(69)(3/3 ページ)

初期費用を負担する代わりに、売り上げに応じて永久にチャリンチャリン。レベニューシェア型契約は、ベンダーにとっておいしい話か、否か──。

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東京地方裁判所 平成30年2月27日判決から(つづき)

B社とA社との間で収益分配の比率などの詳細が詰められるに至ってはいなかったものの、B社がA社に提案し、A社がこれに応じたとおり、B社は、開発するシステムに基づくサービスが開始されることにより得られる収益を分配することにより開発に要した費用を回収して利益を上げることを前提に、システム開発を行っていたのであるから、当事者のかかる合理的意思を前提とするならば、本件において商法512条に基づく報酬請求権が発生するには、B社が単に労力を投じたに止まらず、少なくとも、B社がシステムを開発し、A社がこれに基づきサービスを開始することができる状態に至ったことが必要というべきであるが、かかる状態には至らなかったことが認められる。

 裁判所は、B社の請求を認めなかった。

 実質的にレベニューシェア型の契約が成立しているので、A社のサービスが開始されていない状態で費用の請求は認められない。商法512条に基づく費用の請求はできないという判断だ。

レベニューシェア型契約への備え

 今回、私がこの判決を取り上げたのは、今後こうした事案が増えてくるであろうことを予測してのことだ。

 判例の事案は、遅延の原因がベンダーにあるので、通常みられるIT紛争に比べ、ある意味単純である。だが、こうしたケースは少ないのではあるまいか。

 要件に関する意思決定が遅れる、社内の意見のとりまとめができていない。各種の情報提供や受け入れテストの準備を怠った――多くの場合、開発遅延の原因の一端はユーザーにもある。

 この場合、もしもソフトウェアがリリースされなくても、請負契約であれば、ユーザーの協力義務違反を理由に費用の一部か全てを請求することが可能だろう。商法512条であれ、新しい民法における請負契約の規定であれ、請求するための根拠がある(準委任契約の場合は、そもそも完成する義務を負わない)。

 しかしレベニューシェア型契約は、約束したモノを作ったことも、約束した時間働いたことも、原則的には費用請求の理由にならないのだ。

 ユーザーに、「おたくが何を作ろうと、いくら働こうと、関係ない。ウチがサイトを開けず売り上げが上がっていないのだから、一銭も払わない。サイトが出来上がって、売り上げが上がったら、その時に支払うつもりだった」と言われてしまえば、そこまでなのだ。

 それではベンダーの経営が著しく不安定になる。従って、レベニューシェア型契約を結ぶ場合、ベンダーには幾つかの備えが必要ではないかと筆者は考える。

 まず、例えレベニューシェアであっても、極端にサービス開始が遅れる場合は、一定の金額をある時点で払ってもらえるような契約とすること。「サービスの開始予定から1年以上遅れることが分かったら、そこまでの費用をいったん精算する」というような契約にしておくと、安全だ。

 もっとも、レベニューシェアでやろうとしているユーザーは、こうした契約に抵抗するかもしれない。であるなら、ベンダーは、せめてユーザーの非で開発が遅延したことを、後々証明できるようにしておく必要がある。

 まずは、例えアジャイル開発であっても、プロジェクトの進捗やリスク、課題に関わる記録を残しておくこと。きちんとした帳票でなくても、各種プロジェクト管理ツール上の記録でも、ホワイトボードの写真でも、とにかく、プロジェクトの遅延や破綻の原因がユーザーにもあることをきちんと残しておくことだ。

 また、ベンダーの作業時間記録とソフトウェアのリリース記録も残しておくこと。レベニューシェア型契約ではこの辺りは対価の対象ではないが、ユーザーに金銭を要求するのなら、その算出根拠は必要だ。作業時間の記録は必須ということになる。古臭い感じもするが、いざというとき、ベンダーが自分たちを守るためには必要なことではあるまいか。

 レベニューシェア型契約は、うまくいけばベンダーに大きな利益をもたらすが、失敗したら一銭ももらえないハイリスクハイリターンの契約だ。

 下手をすれば経営に大きな影響を与えるものである以上、慎重にことを運んでいただきたい。アジャイル型開発やレベニューシェア型では、ルーズになりそうな気もするが、成果物のハッキリしないプロジェクトであるからこそ、なおさら注意が必要だと筆者は考える。

細川義洋

細川義洋

政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員

NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。

独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。

2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる

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