エンジニアはなぜ、ちょっとした契約外作業を請けてはいけないのか:ちりも積もれば何とやら(3/3 ページ)
せっかくコンサルタントに来てもらったんだから、企画書も作ってもらおう。翻訳も頼もうかな――お気を付けあそばせ。あなたがしているそれ、偽装請負ですよ。IT“業界”解説シリーズ、第9弾も偽装請負を解説します。
請負契約は人助けじゃない
もちろん世のユーザー企業の社員が、常に悪意に基づいて契約外作業を依頼しているわけではありません。しかし、悪意なく「ちょっとした融通」程度の気持ちで契約違反を犯す例がまん延しているのは、私の経験、裁判所で見聞きした事象などからも間違いありません。
ユーザー企業の担当者が請負契約とは何かを知らない、あるいは契約を軽視して、ベンダーの社員を直接管理し指示を出すケースがかなりあります。
予定よりも早くテスト仕様書を見たいと思ったとき、仕様書を作っているベンダー社員が目の前で働いていれば、「テスト仕様書、明日までに見られないかな? 急ぎなんで、先にやってくれない?」と気軽に声をかけたくもなるでしょう。
「その都度聞きたいことがあるし、防災管理のこともあるから、朝9時には出勤してくれますか? 終わりは一応17時ということにしてください」といった依頼だってしてしまいがちです。「ちょっとPCの操作を教えてくれないかな」と頼めば、すぐに対応してくれるベンダー社員がいる。ユーザーにとってはとても便利でしょう。
これらは皆、立派な法律違反です。こうした偽装請負がまん延すれば、ベンダー社員の生活や健康を脅かす危険がありますし、ベンダー企業の経営にも響きます。無理な作業を詰め込めば、本来の目的であるシステム導入にも納期遅延、品質劣化が起こるリスクがあります。
目先の都合の良さに甘えて偽装請負を軽視することが、皆を不幸にする可能性があるのです。
請負契約がもたらす存在意義
これは日本のIT業界を大きな不幸に陥れる「リスク」であり、既に顕在化している「課題」でもあります。
偽装請負が違法であることを理解せずに便利にITエンジニアを使いまわすユーザー企業、見て見ぬふりをするベンダー企業、そしてそれを受け入れてしまうエンジニアたち。こうした人々に法律をきちんと理解してもらい、事実を知ってもらって、しかるべき対応を取ってもらうよう、皆の意識を変えなければならないのです。
違法行為を行う顧客からの受注を受けなければベンダーの経営が成り立たないのであれば、ビジネスモデルの方が間違っています。法を犯さなければビジネスが成り立たないなんて、反社会団体と同じです。
経営や営業からすれば顧客満足度向上のためには「どうしても……」と思うかもしれません。しかし、法を犯す企業のご機嫌をとっても、正直未来はありません。
企業の存在意義とは、商品やサービスを享受する人と、その売り上げで暮らしを立てる人たちの幸せのはずです。人の不幸、あるいは人を不幸にするリスクの上に立つ企業など、そもそも存在意義がないのではないでしょうか。
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