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クラウド戦略を文書化する10の構成要素Gartner Insights Pickup(212)(1/2 ページ)

クラウド戦略を策定し、文書化するために網羅すべき構成要素とは?

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ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 組織の将来目標にステークホルダーや意思決定、行動のベクトルを合わせるには、目標達成に向けた戦略を持つことが重要だ。ビジネスリーダーは、頭ではこのことを分かっているが、多くの場合はこうした戦略を実際に策定するのに苦労している。しかし、明確な戦略を持つ組織の方が、ビジネス価値を獲得しやすい。クラウドコンピューティングでは特にそうだ。

 クラウド戦略は、自社におけるクラウドコンピューティングの役割についての簡潔な見解だ。クラウド実装計画は、クラウドコンピューティングを「どのように(How)」実現するかを定義するのに対し、クラウド戦略はクラウドコンピューティングによって、「何を(What)」「何のために(Why)」行うかを定義する。クラウド戦略は全てを解決しようとすることではなく、全てをクラウドに移行する計画でもない。

 クラウドコンピューティングに関する疑問の多くは、実はクラウド戦略に関するものだ。「クラウド戦略とは何か、なぜ必要なのか」「どうすれば包括的なクラウド戦略を策定できるか」といった具合だ。こうした疑問に答えを出して実践することがますます急務となっている。

 クラウド戦略の策定が早ければ早いほど、組織におけるクラウド利用のメリットとデメリットを予測できる。また、クラウド戦略を策定するのに遅過ぎるということはない。クラウド戦略を文書化するための10の構成要素について以下で解説する。


(出所:Gartner クラウド戦略文書のアウトライン)

エグゼクティブサマリー

 エグゼクティブサマリーは、クラウド実装の大局的な方向性に関する経営上層部とのコミュニケーションの出発点になる。IT部門以外の人々にクラウド実装の価値が伝わるよう、戦略文書の内容を要約する必要がある。クラウド諮問委員会のメンバーや、クラウドを検証し必要な場合はサポートを進める組織横断的なステークホルダーの名前と、その役割といった詳細も盛り込む。エグゼクティブサマリーは人々がクラウド戦略文書で最初に見るものだが、全体を要約するため、最後に書くとよい。

クラウドコンピューティングベースライン

 ベースラインでは、クラウド戦略の説明に使用する全ての用語とその定義を網羅する。

 クラウドコンピューティングの多くの新しい用語(マルチクラウド、クラウドネイティブ、分散クラウドなど)は、クラウド戦略の中核部分の説明に使われることが多い。だが、これらの意味はあまり確立されていない。用語を再発明してはならず、既存の用語を使うようにする。また、用語を詳しく解説した付録を設け、このベースラインセクションでは、用語については付録を参照するよう促してもよい。

 重要なのは、全てのステークホルダーが用語の定義を同じように理解することだ。クラウドコンピューティングについて話し合うときは混乱が生じないようにし、用語を一貫した形で使うのが肝心だ。

ビジネスベースライン

 このセクションでは、ビジネス目標と、クラウドコンピューティングによって得られると潜在的なメリットをマッピングするとともに、潜在的な課題をどのように克服するかを説明しなければならない。組織がクラウドに関心を持つそもそもの理由も、述べる必要がある。

 「ビジネスが何を達成しようとしているか」「既存のデータセンター戦略と整合性を取る必要があるかどうか」「考慮すべき例外的な状況があるかどうか」――そしてもちろん、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)のような不確実性への対応の影響」も検討し、記述する。

サービス戦略

 サービス戦略についての議論は、今後の指針となる原則を決めるためのブレーンストーミングの良い出発点になる。「どんな場合にパブリッククラウドプロバイダーのクラウドサービスを利用するのか、あるいはオンプレミスや他の場所で機能を構築または維持するのか」を決める必要がある。

 さらに、IaaS(Infrastructure-as-a-Service)、PaaS(Platform-as-a-Service)、SaaS(Software-as-a-Service)のユースケースを区別する。また、クラウドコンピューティングにおけるあらゆる役割(利用者、提供者、仲介者)の適用を検討する。通常、クラウドサービスの構築には大変な労力がかかることに留意が必要だ。

財務上の懸案事項

 ほとんどのテクノロジー投資と同様に、クラウドコンピューティングにも財務上の問題がある。社内の期待に応えるには、価格モデルの傾向を理解することが不可欠だ。

 例えば、IaaSの料金は、主にハードウェアコストと連動する。そのため、時間とともに単価が徐々に下がる傾向がある。多くの場合、IaaSは従量課金モデルを採用しており、契約は必要ない。これに対し、SaaSはサブスクリプションベースのモデルが主流であり、料金単価は時間とともに上がる傾向がある。

 何よりも重要なことは、クラウドに関する最大の誤解――つまり、「クラウドに移行すれば、必ずコストを削減できる」という誤解に陥らないことだ。

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