「新造人間キャシャーン」を2021年のテクノロジーで解説しよう:キャシャーンがやらねば誰がやる(1/4 ページ)
スピルバーグが、手塚治虫が、そして全世界の子どもたちがあのころ夢見たテクノロジーは、2021年現在どこまで実現できているのだろうか?――映画や漫画、小説、テレビドラマに登場したコンピュータやロボットを、現代のテクノロジーで徹底解説する「テクノロジー名作劇場」、第7回は「新造人間キャシャーン」だ。
「新造人間キャシャーン」は、1973年から1974年にかけて放映された、吉田竜夫原作、タツノコプロ制作のテレビアニメシリーズである。「キャシャーンがやらねば誰がやる!?」のナレーションを覚えておられる方も多いことだろう。
ロボット研究の権威、東(あづま)博士が公害処理ロボットとして開発した「BK-1」が、フランケンシュタインよろしくカミナリによって悪玉化し「ブライキングボス」を名乗り、「アンドロ軍団」を結成。人類を滅ぼし、地球征服を目指す。東博士はこれに対抗するため、息子の鉄也を「新造人間キャシャーン」として生まれ変わらせ、アンドロ軍団の侵略を阻止する、というストーリーだ。
母親のみどりは、東博士によって白鳥ロボット「スワニー」にその人格を封入され、スパイとして基地に潜り込みブライキングボスのペットになる。時折、月明かりによってホログラムで姿を現し、短時間キャシャーンと情報交換をする。飼い犬のハッピーは、ロボット犬「フレンダー」となり、キャシャーンと共に戦う。フレンダーは、「フレンダージェット!」「フレンダーカー!」「フレンダータンク!」といったキャシャーンの呼びかけで飛行機、バイク、戦車などに変身する。東博士の友人上月(こうづき)博士の娘ルナは生身の人間だが、上月博士が発明したロボットを破壊できるMF光線を出す「MF銃」を持ち、キャシャーンと共に戦う。
最初のテレビシリーズは35話構成で、漫画連載もあった。後に、現代風の画風とメカデザインでリメイクした「OVA」、ディストピア風のその後のシナリオっぽい「Sins」、唐沢寿明がブライキングボスを、伊勢谷友介がキャシャーンを演じた実写版映画「CASSHERN」などもある。
本記事では、1973年の昭和のアニメ作品を対象に解説する。また、キャシャーンは「不死身の新造人間」という超人的な設定となっており、「人の心を持つ」など、現代のテクノロジーと懸け離れ過ぎているため、キャシャーンの身体やロボット犬フレンダーを中心に語ることとする。
キャシャーンの自己治癒技術
ストーリーを支えている重要な設定の一つが、「キャシャーンは不死身」である。アンドロ軍団は何千体という戦闘ロボットを所有しているが、人間側は、キャシャーン、フレンダー、ルナの2体と1人で立ち向かう。少数精鋭のキャシャーンは戦いの中で傷つくこともあるが、自然治癒してしまう。
人工物は「強く長持ち」というイメージがあるが、「壊れる」という事実もある。数千年前に作られた宮殿が発掘され、何千年ものあいだ保持された状態で見つかることがあり、「人工物は強い」と思われがちだが、形を留めているのは自然にできた「石」であり、人はそれを削ったにすぎない。人工素材である「コンクリート」は、木材に比べて風水に強く加工が楽であるため採用されがちだが、何百年も持つわけではない。
そして、多くの人工物の寿命は人間の寿命より短い。コンピュータ系のシステムはなおさらで、現代のハイテク系製品の寿命は10年程度だ。
人間を含む地球の生命体のうち、比較的複雑な多細胞生物には「自己治癒能力」がある。多細胞生物のほとんどは、1個の細胞から分裂したさまざまな役割に分かれた細胞の集合体で作られており、その分裂活動を続けることで生態全体が作られている。個体、すなわち細胞のクラスタが少し傷ついても、その細胞分裂をある程度「やり直す」ことで修復ができるわけだ。ロボットのような人工物は「組み立てる」ことで出来上がっているため、細胞分裂をやり直せない。
筆者はこの分野に詳しくないが、現代の技術による人工物の自己治癒の例を解説しよう。
今日の人工物のほとんどには比較的短い寿命があり、エンジニアによるメインテナンスが必要だ。人の手によってメインテナンスが行われずに長期にわたって運用されているものは人工衛星や惑星探査ロボットくらいだろう。非常に長く運用されている宇宙探査機「ボイジャー」は、1977年に打ち上げられてから44年たち、先日太陽の外延部に到達し、今でも観測データを送ってくれる。そんなボイジャーも、壊れれば修復できない。ちなみに、SF小説や漫画の中には、原子力が積まれているものが何百年も何万年も動作するという設定があるが、原子炉こそ細やかで継続的なメインテナンスが必要だ。
保守が必要なく自然治癒する技術として、「自己治癒コンクリート」がある。コンクリートにある種の休眠状態にしたバクテリアを混ぜ込んでおくと、ひび割れなどができた際に、空気と水に触れてバクテリアが目覚め、一緒に混ぜ込んでおいた乳酸カルシウムから炭酸カルシウムを生成してひび割れを補修する、という技術である。自然治癒コンクリートは、人による保守が難しい橋脚などに使うと、保守コストを大幅に抑制できるそうだ。ただし修復は数回程度が限界で、永遠に修復されるわけではない。一度活性化したバクテリアは再度休眠するわけではないし、乳酸カルシウムを使い果たせばそれ以上は修復できない。
樹脂などの世界では「ポリロタキサン」という分子構造が注目されている。樹脂をカッターで切り離し、くっつけると元に戻る、という紹介映像を見たことがある人もいるだろう。このような技術は徐々に実用化が進められている。現代のロボットは金属やプラスチックなどで外装が作られていることが多いため、転倒はとても負荷が大きく、破損の原因になりやすい。自己修復樹脂をロボットの外装に適用できれば、多少外装が壊れても「くっつければ修復する」という使い方ができるかもしれない。
Point!
キャシャーンの外装は自己修復樹脂で作られている
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