主要IaaSの料金、どこに向かっているのか:料金以外の部分に競争がシフト
調査会社のRedMonkは、主要なIaaSの料金のパターンとトレンドの調査結果を発表した。特定のリソースに対する料金のばらつきは収束しており、サービス料金の積極的な値下げが少なくなっている。クラウドプロバイダーの競争の本質が変わったというのが同社の結論だ。
米国の調査会社RedMonkは2021年12月17日(米国時間)、主要なIaaS(Infrastructure as a Service)の料金のパターンとトレンドの調査結果を発表した。
調査対象のクラウドプロバイダーはAmazon Web Services(AWS)、Google、IBM、Microsoft、Oracle、Alibaba、Tencentの7社。
調査結果は2つある。1つは「IaaSにおいて、一定の時間単価でどのプロバイダーが最も多くのコンピュート、ディスク、メモリを提供しているか」。もう1つは「各プロバイダーのIaaSの平均基本料金が時系列でどのように推移しているか」だ。
クラウド市場の規模と重要性が拡大し、中小企業、大企業を問わず、さまざまな業種の企業でクラウドの導入が急速に進んでいる。
そのためIaaSの価格比較に注目が集まる。だが、RedMonkは、「クラウドプロバイダーのIaaSの競争力を適切に評価するのは困難だ。各社のIaaSパッケージは標準化されていないため、IaaSを対等に比較するのは事実上不可能だ」との見解を示す。
そこで同社は条件を絞った上での比較を試みている。プロバイダー各社が料金モデルによってどのように差別化しているのかを明らかにするため、次のような前提条件を設けて、各社のIaaSを比較分析し、結果をまとめた。
・仮想マシンの時間単価を調べる
・特別な料金プログラム(β版など)は対象外とする
・OSとして、Linuxの使用を想定する
・予約済み/確約利用インスタンスは対象外とする
・特別なパッケージ(大容量メモリ、コンピュート最適化、優先ネットワーク、カスタムチップなど)は対象外とする
・料金は最も安価な米国のリージョンを基準とする
これは意味のある比較なのか
RedMonkは、これまでの調査結果について寄せられた意見の中から、前提条件に対する典型的な反論を取り上げ、次のように回答している。
・反論:これは同じ条件での比較ではない
回答:「これは事実だ。プロバイダー各社のサービスパッケージの違いから、同じ条件での比較は不可能だ」
・反論:定価料金を比較している。多くの顧客は料金を定価で支払っていない
回答:「これも事実だ。ただし、定価で支払っている顧客も多い。この調査結果は定価料金に関する評価として受け止めていただきたい」
・反論:帯域幅などを確保するコストが考慮されていない
回答:「その通りだ。この分析はサーバのみを対象としている。帯域幅やストレージのコストは、別途調べる必要がある」
コンピュート、ディスク、メモリのIaaS料金比較
RedMonkの調査結果はコンピュート、ディスク、メモリに分かれている。3種類のグラフでは、傾斜が急なほど、ユーザーから見て有利な料金設定になっている。
- コンピュート(仮想コア数)
Oracle(最も傾斜が急な紫色の線)のコンピュートインスタンスは、他のプロバイダーの同等規模のインスタンスと比べて、時間単価が最も低い。他のプロバイダー群はいずれも、互いに似通った傾斜となっており、明確な競争力を示すことができていない。
コンピュートキャパシティーの強化が進められており、ほぼ全てのプロバイダーが、64個以上の仮想コアを利用できるインスタンスを提供している。100個以上の仮想コアを備えるインスタンスを提供しているプロバイダーも3社あった。
- ディスク容量
ほとんどのプロバイダーにとって、ディスク容量は差別化の観点から見て、主な焦点ではないことが分かった。
Alibaba、Google、Oracle、Tencentは、基本料金にストレージが含まれていないため、このグラフから除外されている。
- メモリ容量
時間単価当たりのメモリ容量について、Oracle以外のほとんどのプロバイダーは、競争上の差別化ができていない。Oracleは積極的な料金設定をしており、Oracleのインスタンスは全インスタンスの中で、一定の時間単価で使用可能なメモリ量が最も多い。
IaaSの料金はどのように推移しているのか
この図は、2012年以降のIaaS料金の推移を示しており、長期的な視点でプロバイダーごとの料金変動を把握できる。ただし、プロバイダーごとに年々変わっていく新世代のサービスを調査対象としているため、対象サービスの内容は時間とともに変わっている。
つまり、この図を使ってある年のプロバイダー各社の平均料金を互いに比較することにはあまり意味がない(例えば2022年に最も安価なプロバイダーはどこか、など)。ある時点での各社の調査対象サービスの内容は、先ほど取り上げたコンピュート料金など各コンポーネントの料金調査の場合とは異なり、プロバイダー間での比較可能性を考慮して調整したものではないからだ。
なお、この図が対象とするプロバイダーやサービスの変動について、RedMonkは次のように説明している。
・HPは2014年まで調査対象
・Rackspaceは、2016年まで調査対象
・CenturyLinkは、2016〜2019年に調査対象
・OracleとAlibabaは、2018年に調査対象に追加
・AWSとMicrosoftは、2018年時点の新世代インスタンスを含む
・Tencentは、2021年に調査対象に追加
・Alibaba、Google、IBM、Microsoftは、2021年時点の新世代インスタンスを含む
リソースごとの料金は安定、料金以外での勝負になる
RedMonkによれば、ここ数年、この調査分析で得られた結論のテーマは一貫して、「クラウドプロバイダーの競争の本質が変わった」というものだった。
現在では、特定のリソース(コンピュート、ディスク、メモリ)に対する料金設定パターンのばらつきは、業界全体でほぼ収束している。調査を開始した当初と比べると、特にその傾向が強いという。特定のリソースに対する料金戦略が、あるプロバイダーと他のプロバイダーで顕著に異なるケースは少なくなっている。
さらに、クラウドプロバイダーが既存サービスの料金を積極的に引き下げることも少なくなっている。インスタンスの規模を考慮すると、標準的なインフラの料金は、ここ数年でほぼ横ばいになっている。
RedMonkはクラウドサービスの競争が料金以外の部分にシフトしてきていると述べ、新たな競争の焦点として次の点を挙げている。
・独自チップの製造と採用
・ARMサポート、GPU、ベアメタル製品など、より広範なインフラ機能の採用
・イグレスコスト(クラウドから外部への通信)コスト
・高いレベルの抽象化や、独自の製品、サービス
プロバイダーと調査プロセスに関する注意点
RedMonkは今回の調査の対象プロバイダーとプロセスについて、前回調査からの変更点を次のように説明している。
・Tencentの追加
Tencentの米国でのサービスに関する料金情報やドキュメントが大幅に改善されたため、今回の調査対象にTencentを加えることが可能になった
・インスタンスファミリーの更新
各プロバイダーの料金を最もよく表していると思われる最新の比較可能なインスタンスを、調査に使用するよう努めている。今回の調査では、Google、Microsoft、IBM、Alibabaの新しいインスタンスを追加した
・外れ値の扱い
これまでの調査では、48コアを超えるインスタンスは外れ値と見なしてきたが、大規模インスタンスの提供が進んでいるため、今回は、96コアまでのインスタンスを調査対象とした
なお、RedMonkは従来と同様に、今回の調査で集計したデータセットを公開している。事実確認を可能にするとともに、他者が独自に調査したり、調査対象プロバイダーの範囲を広げたりできるようにするためだ。
なお、RedMonkによると、AWSとGoogle Cloud、IBM、Microsoft、Oracleは、同社の現在の顧客であり、Alibaba、CenturyLink、HP/HPE、Rackspace、Samsung(Joyent)、Tencentは現在、顧客ではない。
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