検索
ニュース

ハイブリッドクラウドも簡単じゃない、DX企業が語る本音とはIBMによる調査結果

IBMはDXに向けたクラウドの活用状況に関する世界12カ国での調査結果を発表した。ハイブリッドクラウドの導入はDXに役立つものの、3つの要因によってうまくいかないことが分かった。IBMは今回の調査に基づくDXの進捗評価ツールを数カ月後に公開する予定だ。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 IBMは2022年9月28日(米国時間)、デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けたクラウドの活用状況について発表した。日本を含めた世界12カ国での調査「IBM Transformation Index: State of Cloud」の結果だ。

 調査結果の総論として、「回答者の77%以上が、DXの推進に役立つハイブリッドクラウドアプローチを採用している。だが、回答者の大半は、全てのクラウド環境を連携させる難しさに苦労していることが分かった」とした。

 企業は求めるスキルを持つ人材が不足していること(スキルギャップ)の他、セキュリティ上の課題、コンプライアンス上の障害に直面しており、全世界にわたるハイブリッドクラウド環境を包括的に管理していると答えた回答者は全体の25%に満たない。これではセキュリティ上の盲点が生じ、データをリスクにさらす可能性が高まると警告している。

クラウドとDXの関係、最大の問題は何か?

 調査結果は、ハイブリッドクラウドの導入とDXの進展に強い相関関係があることを示している。実際、回答者の71%は、確固としたハイブリッドクラウド戦略を進めなければ、DXの可能性をフルに引き出すことは難しいと考えている。だが、その一方で、回答者の所属企業のうち、DXの取り組みが「先進的」と評価されるために必要な特性を備えているところは27%にすぎない。

 企業が抱える「スキル」「セキュリティ」「コンプライアンス」に関する問題が、こうした意識と実態のギャップにつながっている。IBMはこの3つの観点から、調査結果を次のようにまとめている。


業務の統合の障害となる3大要因はしてセキュリティ、スキル(複雑な環境の管理)、コンプライアンス(左)だった 回答者の77%以上がDXの推進に役立つハイブリッドクラウドアプローチを採用しているものの、複数の環境におけるワークロードを包括的に管理しているという回答は23%にすぎなかった(右)。ヘルスケアや政府機関、金融機関などの規制の厳しい業界は、ハイブリッドクラウドの導入でかなり後れを取っている(提供:IBM)

(1)適切なスキルが欠如、取り組みが進まない

 クラウドアプリケーションの管理に関して、円滑に進めるために必要なスキルが自社のチームに欠けていると、回答者の69%が答えている。これはイノベーションの大きな障害であり、回答者の4分の1以上が、スキルと人材の不足がクラウドに関する自社の目標達成を妨げていると答えている。

 これらの制約は、企業がパートナーの力を活用する上でも問題になっている。技術スキルの不足がビジネスエコシステムパートナーをクラウド環境に統合する妨げになっていると、回答者の3分の1以上が答えている。特に米国では、約40%がこのスキル不足を認識している。

(2)セキュリティ技術を導入、しかしサイバー脅威は残る

 金融業や通信業、政府機関に属する回答者の90%以上が、コンフィデンシャルコンピューティング機能や多要素認証といったセキュリティツールを導入している。だが、セキュリティギャップがまだ残っており、イノベーションの推進を妨げている。

 実際、環境全体にわたってワークロードを統合する最大の障壁として、回答者全体の32%がセキュリティを挙げている。さらに、セキュリティ上の懸念が、クラウドに関する自社の目標達成の障害となっていると、回答者の4分の1以上が答えている。

 セキュリティ上の懸念により、企業はパートナーシップの可能性をフルに引き出すことも困難になっている。潜在的なセキュリティギャップがサードパーティー(第三者)やフォースパーティー(第四者)のリスクを招くことから、データガバナンス(回答者の49%)とサイバーセキュリティ(同47%)が、ビジネスエコシステムをクラウドに完全に統合する上で最大の課題だと回答している。

(3)規制要件とコンプライアンス要件が大きなネックに

 政府や業界の規制強化に伴い、コンプライアンスの課題も増大している。現状ではクラウドにおけるコンプライアンス確保が非常に難しいと、回答者の53%が考えている。さらにプライベートIT環境とパブリックIT環境のワークロードを統合する上での主な障壁として、規制コンプライアンスの問題を約3分の1が挙げている。

 例えば、金融サービス業界では、業界要件を満たすことがクラウド目標を完全に達成する妨げになっていると、回答者の4分の1以上が考えている。

DXの進捗を測定できる対話型ツールを公開

 IBMは今回の調査に基づき、企業がクラウドによるDXの進捗(しんちょく)を測定できる継続的なフィードバック源として機能する「対話型ツール」を開発中だ。このツールにより、DXが進んでいる領域や停滞している領域を特定することが可能となり、クラウドによるDXの複雑さという現実的な問題を効率的に診断し、行動に移すことができると、IBMは説明している。

 IBMは今後数カ月内に、このツールを公開する予定だ。また、世界中の企業や政府が直面する経営や経済上の問題に焦点を当てたビジネス研究機関であるIBM Institute for Business Valueは、新しいレポート「A Comparative Look at Enterprise Cloud Strategy」を発表した。このレポートでは、リーダーが組織のDXを進めるために、今回の調査結果と新ツールをどのように活用できるのかを解説している。

 なお、今回の調査はIBMの委託を受けて独立調査会社Harris Pollが実施した。企業がクラウドを利用したDXの明確な計画を策定し、その進捗を自己評価するのに役立つように設計されている。

 Harris Pollは2022年6〜7月に、この調査を金融や製造、政府機関、通信、医療など15業種にわたって、年間売上高5億ドル以上の企業のビジネスとITリーダーを対象にオンラインで実施し、3014人から回答を得た。調査が行われた12カ国の内訳は、日本(回答数251)の他、米国とカナダ、英国、ドイツ、フランス、インド、中国、ブラジル、スペイン、シンガポール、オーストラリアだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る