七転び八起き エンジニアだから何度でも立ち上がれる:Go AbekawaのGo Global!〜Jon Kiefer Yap(後)(3/3 ページ)
グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。前回に引き続き今回もソフトウェアエンジニアのJon Kiefer Yap(ジョン・ヤップ・キーファー)さんにお話を伺う。念願の来日を果たし、日本の企業に就職するが、仕事中心で自分の時間が取れないという状況に陥る。そこでヤップさんは心機一転し、「英語教師」になることにした。
七転び八起きの心が大切
阿部川 日本で8年間、さまざまな国籍の方と仕事をする機会も多いと思いますが、コミュニケーションの悩みなどはありますか。
ヤップさん そうですね……、悩みではないのですが、みんなフォローし合っているところが良いと思います。メンバーの中には日本語を勉強中の人もいるのですが、それ以外のメンバーが頑張ってコミュニケーションを取ろうとしていて。それがすごく気持ち良いことだと感じています。
阿部川 お互いに一生懸命コミュニケーションを取って分かり合おうとしている。コーポレートカルチャーとして、それができているんでしょうね。若いエンジニアの読者にアドバイスやメッセージをいただけますか。
ヤップさん 「七転び八起きの精神で、リスクを取りながらでも挑戦することが大事」だと思います。
Amazon.comとかTwitter(現、X)などの規模の大きなIT企業は、ほとんどが米国の企業です。日本にもそういう企業があったら、とてもいいですよね。そのためには、リスクを受けて挑戦することが重要だと思います。もちろん、挑戦した結果、失敗することもあると思いますが、だからこそ七転び八起きの心で、諦めずに挑戦することが重要です。
編集中村 七転び八起きって、すごくいい言葉だと思いますけれど、転んだ後、起き上がることって結構大変だと思います。ヤップさんは起き上がるときに、どういったことをして起き上がっていますか。例えば、リフレッシュするとか、勉強するとか。
ヤップさん 転んだことを後悔するのではなく、反省することです。何が起こったか、転んだ理由は何か、次回もし同じシチュエーションになったらどうした方がいいか、どうしたら良くなるのか。そういうことをよく考えると、「起きやすい」と思います。
編集鈴木 答えにくいお話かもしれませんので無理に答えなくても大丈夫です。生まれ育った国から他の国に国籍を移そうと考えるのって、すごい決断だと思うんですけれども、何か理由がありますか。
ヤップさん 子どものころからずっと、日本に興味を持っていました。そして実際に来日して日本の文化を学んで、こちらの方が個人的に合うなと思いました。自分の性格的にも、フィリピンより日本の方が合うと思ったんです。
編集鈴木 どういうところが日本は自分の性格に合うと思いましたか。
ヤップさん ハイコンテキスト、ローコンテキストの違いがあると思います。ローコンテキストが主流の文化だとコミュニケーションの責任は話す方が重い。ハイコンテキストの文化だと、聞く方の責任の方が重くなります。日本はこちらですね。ハイコンテキストだと多くを語らなくても理解し合えるので、そういったところが個人的に合うと思いました。
編集鈴木 全部まで言わなくても、察するとか、気を使うとか、そういうところ。
ヤップさん そうです。ちょっと話しただけでも分かってくれるので、話が早いなと思いました。
ハイコンテキストの文化は、米国などのローコンテキスト文化と比較したときにどちらかといえばネガティブなニュアンスで語られることが多いと思います。ただ、以前インタビューした方は「丁寧な仕事が評価される日本は働きやすいけど、それ以外の国だったら『あなたは細か過ぎる』と言われる気がする」とコメントされていました。生まれた場所や過ごした環境を前提とするのではなく、自分に合った文化を見つけることも大切ですね。
編集鈴木 ありがとうございます。後、フィリピンと日本ってご飯がだいぶ違うと思うんですけど、フィリピンのご飯は恋しくなりませんか。
ヤップさん フィリピンのご飯は「甘いか、しょっぱいか」なので、日本食は落ち着きます。ご飯についても日本の方が居心地よいと感じます(笑)。
Go’s thinking aloud インタビューを終えて
日本のことを、それも文化的な側面を褒められるのは純粋にうれしい(残業が多いことは褒められたことではないが)。
厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和4年10月末現在))によれば、2022年10月現在でフィリピンからの労働者は20万6050人、ベトナム、中国に次いで第3位だ。もしこの方々がみな日本の文化を愛(め)で、国籍を取得してくれたら「2025の崖」も難なく越えられるだろう。
ハイコンテキストのコミュニケーションとは「痒(かゆ)いところに手が届く」、あるいは「一を聞いて十を知る」ことだ。しかし間違うと、それは単なる押しつけにもなり得る。「分からないそっちが悪い」と決めつけ、違う立場の人を排除もする。AIの開発で難しいのは、この喜ばれる「先回り(〜のハズだ)」と迷惑な「思い込み」(〜に決まっている)の見極め、どこまでが許容範囲で、どこからが強制かの分水嶺(れい)の判断だ。
知識の蓄積やデータの解析では、人間はAIにはかなわない。だからきっといつか、全てのコールセンター業務をAIが担うようになるだろう。そのときを想像し、今と違った新しい文化をどうすれば創造できるかは、今のAIに聞いても答えは出ない。けだし、すぐに答えの出ない問いを考え続けることは、当分は人間の領分に思えるが、それも時間の問題かもしれない。
阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)
アイティメディア 事業開発局 グローバルビジネス戦略室、情報経営イノベーション専門職大学(iU)教授、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD) 訪問教授 インタビュアー、作家、翻訳家
コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時から通訳、翻訳も行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在情報経営イノベーション専門職大学教授も兼務。神戸大学経営学部非常勤講師、立教大学大学院MBAコース非常勤講師、フェローアカデミー翻訳学校講師。英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーとして講座、講演を行う他、作家、翻訳家としても活躍中。
編集部から
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