HPEがJuniperを買収へ、Ciscoにどう対抗していくのか:「AIインフラ」がカギ
Hewlett Packard EnterpriseがJuniper Networksを買収すると発表した。両社のネットワーク事業を統合し、Cisco Systemsに一矢を報いることができるのか。
Hewlett Packard Enterprise(HPE)とJuniper Networks(Juniper)は2024年1月9日(米国時間)、HPEによるJuniperの買収で両社が合意したことを発表した。HPEはJuniperに、現金で140億ドルを支払う。買収プロセスは2024年中に完了の予定。その後は現Juniper CEO(最高経営責任者)のラミ・ラヒム氏がネットワーク事業を率いる。
今回の買収で、HPEのネットワーク事業の売上高は倍増し、マージンも向上する。2023会計年度の数字で見ると、ネットワーク事業の売上高はHPEの全社の18%。これが買収後は31%に上昇する。営業総利益ではネットワーク事業が56%以上を占めることになるという。
HPEとJuniper、2社の補完性は高い
プレスリリースで、HPEは次のように説明している。
「この買収により、HPEのネットワーキング事業の規模は2倍となり、包括的なポートフォリオを備えた新たなネットワーキングのリーダー企業が誕生する。(中略)AI/ハイブリッドクラウドドリブンなビジネスの爆発的な拡大により、エッジからクラウドまで企業のデータを接続、保護、分析できる、セキュアで統合されたテクノロジーソリューションへのニーズが加速している。 HPEはこうした重要なITトレンドに対応するため、接続コンポーネントとしてネットワークポートフォリオを整備してきた」
これを踏まえて、買収により「拡大し、複雑化する接続ニーズの管理と簡素化に必要なネットワーキングアーキテクチャを実現する」としている。
表現が分かりにくいが、具体的には何を意味しているのか。
HPEのネットワーク事業の歴史は古い。1990年代にLAN(Local Area Network)の規格がイーサネットにほぼ収束した頃から、「ProCurve」という製品名でイーサネットのハブ/スイッチを展開していた。その後3Comの買収で有線ネットワーク製品事業を拡大した。
社内ネットワークの主流が無線LANとなることが明確化した2015年にはAruba Networksを買収、Aruba主導の形でネットワーク事業を再編した。
2020年にはSilver Peak Systemsを買収し、SD-WANに本格的に参入した。これらの買収は大きな効果をもたらし、現在もHPEはWi-Fi、SD-WANで主要なベンダーの一社となっている。さらにAxis Securityの買収でSSE(Secure Service Edge)分野に進出し、Silver PeakとのコンビネーションでSASE(Secure Access Service Edge)も提供している。
一方Juniperは、長年Ciscoのライバルとして活動してきた。特にWANルーター、キャリアネットワーク製品、データセンタースイッチにおける存在感は大きい。また、セキュリティゲートウェイ/ソフトウェア/サービスでも活発に活動してきた。さらに物理ネットワーク機器に加え、セキュリティ機能のソフトウェアとしての提供や、SDN(Software Defined Networking)のContrailを通じて、マルチクラウド/クラウドネイティブなネットワークの世界にも足を踏み入れている。
別の動きとして、Juniperは2019年、AI(人工知能)を使った管理に強みを持つ無線LANベンダーのMist Systemsを買収、その運用管理プラットフォームを全製品へ展開する取り組みを進めてきた。
こうして両社の特徴をまとめてみると、(無線LANとコアスイッチでは重複があるものの、)全体として補完性が高いことがあらためて分かる。両社の製品を組み合わせれば、無線LAN、キャンパススイッチ、データセンタースイッチ、WANルーター、SDNなど、企業、キャリア、クラウド向けネットワークの主要な分野全てで存在感を発揮できる。
買収で目指す、具体的なCiscoに対する優位性は発揮できるのか
HPEは買収に際して、ネットワークがビジネスの新たな中核になると宣言している。これはどういう意味なのか。
同社は、エッジやクラウドのインフラサービス「HPE GreenLake」を主力製品として展開している。サーバ、ストレージ、ネットワークの他、データ活用/機械学習/AIに関するツールやコンサルティングまでを提供している。
カギは一言で表せば、「AIインフラ」だ。上記の引用部分で、HPEは「AIドリブン」という言葉を使っているが、今後企業のIT投資を左右するのは「生成AI」という言葉に象徴される機械学習/AIへの取り組み。そこではネットワーク/セキュリティの制御が重要性を増す。
まず、データセンター内では大量のデータ通信が行われるため、帯域幅の拡大と動的な優先制御が必要になってくることを、調査会社のGartnerなども指摘している(付け加えると、GartnerはAIによりサーバのコンポーザブル化が進むと予測しており、この点でも低遅延ネットワークの重要性が高まる)。
さらに大きいのは、データの取得、保存、処理、AI学習、推論、LLM(大規模言語モデル)の運用・アクセスを、エッジからキャリア、企業のプライベートデータセンター、クラウドのデータセンターのどんな組み合わせで行うのかという問題だ。おそらく1カ所で完結するケースは少ない。また、AIワークロード(AIアプリケーション/システム)ごとに組み合わせや構成は異なる。
AIアプリケーションを機動的にデプロイ/配備し、その後のダイナミックな構成変化に備えるためには、サーバやストレージなどに加え、複雑化するネットワークの統合運用およびきめ細かな制御、運用の自動化が求められる。
HPEはキャリアにもまたがるマルチクラウドネットワークという新たな武器を得て、「AIインフラ」を包括的に支えるITベンダーとしての地位を固める意図があるようだ。
Juniperは、現状ではCiscoに遠く及ばない。だが、「AIインフラ」という新たな切り口により、存在価値を高めていくと考えられる。もちろん、Ciscoにも同様な取り組みは見られるが、統合管理の点では今一つなところがある。
「AIインフラ」は新たな戦場の一つであり、今後の両社の動きが注目される。
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