パワハラのリスクを回避しつつ、伝えるべきことを伝える方法:仕事が「つまんない」ままでいいの?(116)(3/3 ページ)
パワハラ、モラハラ的な言動は気を付けたいもの。しかし、パワハラ、モラハラを意識し過ぎるがあまりにコミュニケーションの難しさを感じているのなら、本末転倒です。指摘すべきところは指摘できないと、人や組織の成長は望めません。
「問題の指摘」ではなく「行動の改善点」を伝える
何かしらの問題が起こったとき、「あなたの○○が問題だね」のように、問題点を指摘するケースが多いでしょう。ですが、否定的な言動は受け取り手が嫌な気持ちになりがちです。強い言い方をすると、パワハラ、モラハラと受け取られるリスクもあります。
そこで、「問題点」ではなく「改善点」を指摘するのはどうでしょうか?
例えば、「あなたの○○が問題だね」の場合、「○○を□□にすると、もっと良くなるよ」のように行動の改善点を伝えるイメージです。このようにすると、問題ではなく「さらに良くするための方策」を伝えることになるため、印象が肯定的になります。
現状に対して「新たな何か」を加えてより良くする。足し算をしていく感じです。僕はこの伝え方を「足し算指導法」と呼んでいます。
「なぜ」ではなく「どうすれば」で質問する
問題が発生したとき、「なぜ、この問題が起こったのだろう?」のように、「なぜ?」と問題の原因を探る問いを使うケースも多いと思います。
原因を探ることも大切ですが、「なぜ?」「どうして?」と繰り返し問われると、受け取り手は責め立てられているように感じます。
そういうときは、「どうすれば、この問題は解決できるだろう?」のように、「どうすれば?」という問いを意識してみましょう。「なぜ?」という問いは、相手の思考を「過去の問題」の範囲にとどめてしまいます。「どうすれば?」は「未来の問題解決策」を考える問いです。
意識が「問題の原因(過去)」ではなく、「問題の解決(未来)」に向くため、肯定的な印象になります。
主語を「あなた」ではなく「私」にする
問題が起こったとき「なぜ、あなたは……」のように、「あなた」を主語にして話すケースも多いと思います。システム開発で不具合が起こったときなら「なぜ、あなたはこの不具合に気付かなかったの?」のように。
ですが、「なぜ、あなたは……」と言われ続けると、受け手は問い詰められているように感じます。
そういうときは、主語を「私」にするように意識してみましょう。「この不具合が起こったことについて、私は○○が問題ではないかと思っています。なぜなら〜」のようにです。こうすることで、「あなた」を責めているのではなく、「私」の考えを伝えることになります。さらに「でも、これは安定的なシステムにしていく機会でもあるよね」といった「肯定的な意味付け」を追加すると、前向きな印象になるでしょう。
事実は変えられませんが、解釈なら肯定的に変えられる。これが、コミュニケーションの可能性です。
「目的」や「意味」を伝える
先ほどお話しした「指示、命令」にも通じますが、相手に対して何かしらの指示や命令をする場合、「これ、やっておいて」のようにあいまいに指示することがあります。あるいは「そんなことも分からないの?」のように、「こんなこと、知っていて当然」のように伝えてしまうこともあるでしょう。
また、相手の経験が少ないのに「取りあえず、僕が言った通りにやってみて。やれば分かるよ」「前からこうだから」のように、目的や意味をあいまいにしたまま指示や命令するケースもあります。
しかし、目的や意味があいまいなままでは「何のためにそれをやるのか?」を理解できないので、受けては自分が「作業員」であるかのように感じますし。「大切にされていない」印象も残ります。
そこで、指示や命令をする際には、「これを○○にしてくれる? なぜなら……(意味)」「これを○○にすると、□□になれる(目的)よ」「大切なのは○○(目的)だよ」のように、目的や意味も合わせて伝えるようにしましょう。
目的や意味を伝えることで「なぜ、これをするのか?」が理解でき、行動に意味付けができるようになり、さらに「それが目的なら、○○にした方がいいんじゃないか?」のように、仕事をより良くする改善点を考えるきっかけにもなります。
大切なのは「ちょっとした言葉の工夫」
ここに示したのは、ちょっとした言葉の工夫です。「そんなの、知っているよ」「そんなの、当たり前でしょ?」みたいなものもあったでしょう。
でも案外、その「当たり前」が難しかったりするもの。言い方を変えると、その「当たり前」を意識し、実践することが大切だとも言えます。
自分の発言がパワハラ、モラハラと受け取られるのは、誰もが嫌なもの。ビジネスパーソンとしての存続を揺るがすリスクだと言ってもいいでしょう(最近、ちょっとしたSNSの一言で、信頼を失ったケースがありましたよね)。しかし、自分ではなかなか気付けないこともあります。
ここに紹介した方法を意識して、「肯定的なコミュニケーション」を意識していけば、パワハラ、モラハラをそれほど恐れなくてもよくなります。より良い関係を構築しながら、人や組織の成長を支援できるようにしていきましょう。
筆者プロフィール
しごとのみらい理事長 竹内義晴
「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティーの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。
著書「Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)」「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。
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