コードを手で書いた経験のある最後の世代は、AI時代をどう生きるか:技術力はコミュニティーで伸ばせ(3/3 ページ)
エンジニアがAI時代を生きのこるために必要な「技術力」と「仕事力」。自分で負荷をかけねばならない「ホワイト社会」で、どのようにこの2つの力を獲得すればいいのか、具体的な行動指針を「きのこる先生」が提示する。
仕事力は上司で伸ばす
さて、技術力と対になる「仕事力」はどうやって伸ばすのか。それには「上司」を使うのが一番効果的です。
大前提として、「部下を成長させる」のは上司の重要な仕事です。つまり、部下であるあなたが「成長のためにチャレンジしたいです」と言い出したら、全力で応援してくれるはずです。成長の機会としてチャレンジを求めていることを伝え、支援をお願いしましょう。
もしパッとチャレンジのネタが出てこないようだったら、「上司の仕事を奪う」のがお勧めです。「その仕事やらせてくれませんか?」と部下に言われたら、上司は大喜びしてくれるはずです。
チャレンジするときに大切なポイントは、「いまより責任が大きい」ことです。自分で責任が取れる範囲の仕事では、成長に必要な負荷は得られないでしょう。
技術的な仕事を奪う
上司もエンジニアであれば、部下よりも抽象度の高い仕事をしているはずです。ソフトウェア、データベース、インフラなどの設計、アーキテクチャの選定、デプロイパイプラインの構築など、実装としてのプログラムを書く外側の仕事へのチャレンジは、成長に直結するチャレンジです。
コードレビューや新人のオンボーディングなど、チームメンバーとのコミュニケーションもいい題材です。どちらも自分で理解していることが求められますから、現状で理解が甘いところを明らかにできます。
コミュニケーションの仕事を奪う
ソフトウェアは1人で開発するものではありません。業務で開発するソフトウェアには多くのステークホルダーがいるはずですから、彼らとのコミュニケーションも責任が大きい仕事です。そして、自分のチームから距離が離れるほど難易度が上がる傾向があります。
例えばバックエンドチームのエンジニアだったら、フロントエンドのクライアント開発チームとAPIの仕様を検討する機会などがあるでしょう。インフラやSRE(サイト信頼性エンジニアリング)、QAなどのチームとも関わりがありそうです。こういったコミュニケーションに参加することで、相手チームの視点を知ることができます。また、自分のチームへの理解が不足しているとコミュニケーションに不都合がありますよね。そこを埋めることでチームへの解像度が上げるのも、仕事力として重要なスキルです。
コミュニケーションの幅が広がっていくと、その先にはビジネスサイドなど別の部門があったり、外部サービスのベンダーがいたり、取引先や顧客なども登場したりするかもしれません。上司がこうしたステークホルダーとのコミュニケーションを担当しているなら、それを奪うのは仕事力を上げるためにとても良いチャレンジになるでしょう。
会社員は守られている
こうしたチャレンジに、失敗のリスクを感じる人もいるでしょう。ですが、上司の仕事は「部下を成長させること」です。そのためのチャレンジであれば全力で支援してくれるはずです。大き過ぎる責任を追い過ぎるとか、高過ぎるリスクを取るとか、多過ぎるタスク量を背負うとか、そういったむちゃもケアしてくれます。だって、その仕事を成功させたいのは上司も同じですからね。
さらに、仕事におけるチャレンジには「うまくいったら自分の手柄、失敗したら上司の責任」という「おいしい」ポイントがあります。もちろん成功のために全力を尽くすのは当然ですが、その前提さえあれば、部下は成長するのが仕事、上司は責任を取るのが仕事です。そう考えると、チャレンジに過度なリスクを感じなくなるはずです。
会社員にとって最悪の事態は「クビになること」です。でも大丈夫。どうにもならない失敗をしたとしても、成功のために全力を尽くし、法的、倫理的に問題があるミスでなければ、損害賠償などそれ以上の訴追を受けることもありません。
ちゃんとした会社であれば、そのようなミスからも貴重な学びを得ることができた、と喜んでくれるでしょう。全力を尽くしたのであれば、堂々と失敗してもいいのです。1つの失敗で会社も部下も大けがすることがないように「ガードレール」を設置するのも、上司の仕事ですからね。
まとめ
ホワイト化とAI導入が進み、若い優秀な力が台頭してくる現代において、エンジニアとして生きのこりキャリアを積むために必要なことをお話ししてきました。おさらいをしておきましょう。
- 社会のホワイト化によって、個人の成長は自己責任になりました。自分から成長に不可欠なチャレンジに飛び込み、技術力と仕事力を伸ばす習慣を身に付けましょう
- 技術の発展は高速かつ不可逆です。変化に対応するために過去の経験を生かし、新しいことを学びましょう
- 技術力はコミュニティーで、仕事力は上司で伸ばしましょう
今回は2部構成の長い記事になりました。皆さんが変化の速い時代に合わせて自分をアップデートしていくために、少しでも参考になれば幸いです。
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私がベンチャー企業を渡り歩きVPoEになるまでの経歴と、活躍している多数のエンジニアたちと出会い、一緒に仕事をしてきた経験を基に、外部の状況にかかわらず必要とされるエンジニアに共通するスキルやスタンスをお伝えします。

