「AIコーディングブーム」が去ったUSで、エンジニアに求められる「本体の強さ」:Go AbekawaのGo Global! 牛尾剛さん AI vs.人間編(前編)(2/2 ページ)
米国MS開発の最前線では「コーディングエージェントブーム」は既に終息し、AIは日常の文房具に。AI時代に本当に求められる「人間の本体の強さ」と、思考を手放さない新たなAI活用術について、シニアソフトウェアエンジニアの牛尾剛さんに聞いた。
AIが道具になった時代に差を生むのは「本体の強さ」
AIがコードを書き、障害対応すら自動化しつつある現在。「もはや人間はプログラミングを深く理解する必要はなく、仕様だけを考えればいいのではないか」という風潮も一部でささかれている。しかし牛尾さんは、それに強く異を唱える。
「インターネットとかで、『もうフェーズが変わったんだから、これからは仕様だけ考えてればいいだろう』みたいなのがよく流れてくるけど、僕はスーパー反対ですね。本体(人間)の力がすごい重要なんです。だからいいエンジニアは、いまもいいエンジニアなんですよ。
AIって人間の力を10倍にするアーマーみたいなもんなんで、本体の力が強ければそれが10倍になる。掛け算なんでね。逆に“しょぼにゃんにゃん”の人がコーディングエージェントを使って動いてるかのように見えるものを作ると、10倍のスピードでゴミを生産するんですよ」
元の実力がゼロであれば、AIを使ってもゼロのままである。だからこそ、優秀なエンジニアはコードを自分で書かなくなっても、決して「理解」を手放してはいない。それが本体を強くする最良の方法だと知っているからだ。
ここで一つの懸念が生じる。今後若手のエンジニアは、かつてのような「自分でコードを大量に書く」という「場数」を踏めなくなるのではないかという問題だ。しかし牛尾さんは、AI時代にはAI時代ならではの場数の踏み方があるという。
「例えばエージェント様が何か解いてくれたとするじゃないですか。それをコピペして終わりだったら、思考を手放してるんですよね。でもそこでエージェントを出して『何で君はこうやって考えたんですか』とか『どのエビデンスを見てそう思ったんですか』とか『ここで書いたこれってどういう意味ですか』とか質問する。別にコードを書かなくてもそうやって理解はできるわけですよね。
1番やったらええのは、何かのプルリクエストを『俺はまだ全然理解してない』と思ったら、エージェントに『このプルリクエストを作ったやつのアーキテクチャを解説してください』とお願いする。それを読んで自分が理解できへんポイントがあったら、エージェントに追加で聞いていく。最初はちょっとめんどくさいけど、そういうのやってるとだんだんショートカットできるようになる」
人間は、AIが生成したコードやアーキテクチャをAI自身に解説させることで、理解のプロセスを高速でショートカットできる。自らが手を動かす代わりに、AIの解説を通じて思考のプロセスをなぞる。これこそが、これからの若手が積むべき新しい「場数」なのだ。
ツヨツヨと働ける、という福利厚生
本体の力が不十分な状態でAIを使うと「間違えた課題設定」をしてしまうのではないかという恐怖がつきまとう。本質的な問いの立て方を間違えれば、AIは間違った方向へ全力で走り出してしまう。しかし、牛尾さんはこの不安を笑い飛ばす。
「それは気にしなくてもいいと思いますね。失敗してなんぼなんじゃないですかね。僕らは失敗して成長していくわけなんで。例えばダイエットでAIの言う通りにやったけど全然痩せてないやんけってなったら、AIにさらにぶち込んで他の知識を引き出しす。『お前は信用ならへんから、取りあえず代表的なメソッドの本を紹介して』とかしてもいいじゃないですか。失敗したら失敗したって分かるんで、それもエクスペリエンス(経験)なわけですよ」
失敗したときに「なぜ失敗したのか」を深掘りし、自分の頭で仮説(アサンプション)を立て直し、AIに問い直す。そのフィードバックサイクルを回すことが、本体の強さ(インサイト)へとつながっていく。
そもそも、AIの出す答えが常に「深い」とは限らない。
「音楽関係のことを『ChatGPT』とかに聞いても回答がシャロー(浅い)やなと思いません? 専門分野やと分かるですよね。AIはめっちゃ知識あるけど、ちょっと詰めが甘いというか」
だからこそ、人間同士のコミュニケーションの価値は、AI時代においてむしろ高まっている。
「僕、『お前、椅子に座ってばっかりやけどみんなと話すといいよ』って言われたんです。で、実際に話すと、やっぱり人間最強かなって思う。AIよりもイケてる。専門的にやってる人の方が最強感がすごいある。『君はそういうのやってるんや』ってインスパイアー(刺激)を得ることもできるし、『君がそれやってるんやったら、俺はそれはやらんとこれをしようか』って話になるかもしれんし。ほんまにツヨツヨとやれるのは会社員の福利厚生みたいなとこあります」
ヨワヨワな人間がAIと組んでも弱いだけだ。AIという強力な部下を持ちながらも、人間の本質的な成長を促すのは、やはり生身のツヨツヨな人間同士のぶつかり合いなのである。
後編に続く。
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