自動運航船を“動く技術”から“使える技術”へ 「MEGURI2040」に見る社会実装の速度:開発と運用のギャップを埋める技術戦略(1/3 ページ)
PoCで動いたシステムをいかに本番環境へ載せるか。船舶自動航行プロジェクト「MEGURI2040」は、個別企業の技術開発にとどまらず、オールジャパンで社会実装と国際ルール形成に挑む巨大プロジェクトだ。業界の垣根を超えた巻き込み方や実運用での調整手法は、ITエンジニアにとっても多くのヒントに満ちている。
PoCで動く技術を、どう本番運用に入れるのか
ソフトウェア開発の現場では、PoC(概念実証)で動いたシステムを本番環境へ持ち込めない事例が起こりがちだ。限られた条件で機能を確認することと、実際の業務の中で長く使い続けることでは求められる要件が異なるからだ。
本番環境では、既存システムとの接続や監視、障害時の切り分け、セキュリティ、運用手順、利用者への説明、責任分界など、日々稼働し続ける確実性、異常発生時の迅速な状況把握、ユーザーが迷わず扱える操作性が求められる。
船舶業界における先端技術の“いま”を紹介する本連載、前回記事では、「MEGURI2040」(※)で開発された自動運航船を、認知、判断、制御、陸上からの支援を組み合わせた統合運用システムとして解説した。センサーで周囲の状況を把握し、システムが航路選定や避航を判断し、操船装置が船を駆動する。陸上支援センターは、自動航行に介入するのではなく、船上の自動運航システムが自律的に動作している前提で遠隔から確認し、状況に応じて船上や運航側を支援する構成だ。
しかし、これらの技術を実船に搭載し、実際の航路で運用するには、単にシステムを組むだけでは不十分である。対象とする船種の選定をはじめ、「既存船に後付けする(レトロフィット)のか、新造船として作るのか」「旅客や貨物を載せる実際の航海で使えるのか」。
「着桟にどれだけ時間がかかるのか」「船員が見て直感的に理解しやすい表示画面になっているか」「実際に運航して得たデータを、ルール作りにどうフィードバックするのか」など、一見すると技術の外側にあるように思えるこれらの条件こそが、「使える技術」にするための欠かせない鍵となる。
今回は、日本財団常務理事 海野光行氏へのインタビューを通じ、MEGURI2040(※)が自動運航船を実証技術から実運用に近い技術へ進めるために、どのように企業を束ね、実船で検証し、制度や国際ルールへ接続しようとしたのかを見ていく。
MEGURI2040は、技術開発だけを目的にしたプロジェクトではない
ソフトウェアの世界でシステムに新しい機能を追加する際は、多岐にわたる「すり合わせ」が必要となる。利用者が使える形にし、既存の基盤とつなぎ、運用フローを整え、障害時の対応を決める。その仕組みを複数の組織で横断利用するなら、データ形式やインタフェース、責任範囲もそろえなければならない。
自動運航船でも、同じ構図が起きる。船を自動で動かす要素技術を磨いても、それ単体では海上輸送の現場には導入できない。船に搭載できる装置形態にし、実際の航路で動かすこと、乗組員や運航会社が扱えるレベルに落とし込むこと、そして、行政や船級、保険、港湾などの仕組みと整合させることが必要だ。自動運航船を社会で使える技術にするには、船上のシステムだけでなく、それを取り巻く運用とルール整備の一体化が不可欠なのだ。
日本財団が進める無人運航船プロジェクトMEGURI2040は、前回見てきた要素技術に加え、この「各種調整」を強く意識して設計されている。名称にある「2040」は、2040年までに内航船の50%を自動運航化するという明確な目標に由来する。
目指しているのは、特定の船を1隻だけ自動で走らせることではない。人口減少や船員の高齢化が進む中で、日本の海上輸送を将来も維持するために、自動運航技術を実際の船と航海に社会的同意の下で導入することにある。
MEGURI2040は、ここまでフェーズを分けて実証を進めてきた。第1ステージの実証実験(2022年1〜3月)では、コンテナ船「すざく」「みかげ」、大型カーフェリー「それいゆ」「さんふらわあ しれとこ」、小型観光旅客船「Sea Friend Zero」、水陸両用船「八ッ場にゃがてん号」といった多彩な船種で無人運航の実証を行い、自動航行、自動離着桟、長距離・長時間航行などの可能性を確認した。
第2ステージは2022年10月にプロジェクトを開始し、離島航路船、コンテナ船、RORO船、新造内航コンテナ船を対象に、商用運航下での自動運航を可能にすべく開発を行った。
プロジェクトの特徴は、造船・海運会社だけでなく、舶用機器、AI、ICT、通信などの企業が加わっている点にある。船舶の自動運航は、船体、機関、操船装置、センサー、通信、判断システム、陸上支援を組み合わせて初めて成立する。どれか1つの技術だけでは完結しない領域なのだ。
MEGURI2040第2ステージの活動内容全体像。日本財団は「2025年までに無人運航船を実用化する」という目標に向け、技術実証、ルール整備、社会的理解の醸成を並行して進めた。実証で得た成果を国土交通省や業界団体にフィードバックし、国内ルール整備やIMO/ISOでの国際ルール検討につなげる構成となっている
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