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自動運航船を“動く技術”から“使える技術”へ 「MEGURI2040」に見る社会実装の速度開発と運用のギャップを埋める技術戦略(2/3 ページ)

PoCで動いたシステムをいかに本番環境へ載せるか。船舶自動航行プロジェクト「MEGURI2040」は、個別企業の技術開発にとどまらず、オールジャパンで社会実装と国際ルール形成に挑む巨大プロジェクトだ。業界の垣根を超えた巻き込み方や実運用での調整手法は、ITエンジニアにとっても多くのヒントに満ちている。

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個社開発だけでは、社会インフラは変えられない

 特定の企業に特化した高度な機能(システム)を開発しても、それだけでは業界全体の業務プロセスやエコシステム構造の変革までには至らない。複数の事業者が使うシステムでは、データ形式、インタフェース、認証基盤、監視手法、障害時のハンドリング、責任範囲などを標準化する必要がある。個別の製品としては完成度が高くても、他社のシステムや既存の業務とつながらなければ、広く使われる仕組み(プラットフォーム)にはならない。

 自動運航船でも同じ問題がある。造船会社、海運会社、舶用機器メーカー、通信事業者、AIやICTの企業は、それぞれ独自に培ってきた技術を持っている。センサー、航路計画、避航判断、操船制御、機関監視、通信、陸上支援など、個別の要素技術は各社で開発できる。しかし、船を実際に動かすには、それらを1つの運航システムとして統合しなければならない。

 さらに、船は社会インフラの側面を持つ。技術が動作するだけでは、旅客や貨物を載せる商用運航には導入できない。船舶検査、船級、運航管理体制、港湾との接続、乗組員の操作性、事故時の責任範囲、国際ルールとの整合が必要になる。これらは、特定の企業だけで決められる領域を超えている。

 日本財団が主導してMEGURI2040を推進する大きな理由も、この点にある。日本国内には、自動運航に関わる優れた技術を持つ企業がたくさんある。だが、それぞれの企業が別々に開発を進めるだけでは、実船での検証、制度への反映、国際基準化まで道筋を描くことが難しい。個社の技術を並べるだけでは、自動運航船を社会で使える仕組みにはできない。

 MEGURI2040では、日本財団が「ノード(ハブ)」となることで、海運、造船、舶用機器、AI、ICT、通信など、多くの企業や関係機関が参加できた。目的は、単に開発費を支援することではない。異なる企業の技術を実船で組み合わせ、実際の航路で検証・データ取得を行い、その結果を安全性評価やルール作りに反映させるエコシステムを作ることである。

 MEGURI2040の成果を元に国土交通省で自動運航船の定義や船舶検査体制が整えられ、今後の自動運航船の普及に大きな弾みをつけたこともエコシステム形成の大きな成果の一つだ。

MEGURI2040alljapan
MEGURI2040を推進するオールジャパン体制。国、大学、業界団体に加え、造船、海運、舶用機器、AI、ICT、通信、商社などから計53社が参加した。自動運航船は、船体、操船装置、センサー、通信、判断システム、陸上支援などを組み合わせて成立するため、個社開発だけでは社会実装に結び付けにくいことが分かる

 この取り組みは、IT分野でいえば、単独のアプリケーション開発ではなく、「複数の事業者が使う共通基盤を作る」アクションに近い。個別の技術を動かすだけでなく、接続仕様を決め、運用条件をそろえ、障害や例外を扱い、利用者が使える形にする必要がある。

 内閣府・デジタル庁が主導する「データ連携基盤(スマートシティプラットフォーム)」プロジェクトや、JR各社、大手私鉄、バス事業者、通信キャリアが結集して構築された、「交通系ICカード全国相互利用サービス(共通決済・乗車基盤)」などをイメージしてもらえば、分かりやすいだろうか。

 自動運航船の社会実装では、個々の企業間における技術開発競争だけでなく、誰が実運用のデータを持ち、誰が安全性を説明(立証)し、誰が国際ルール作りに関わるかが重要になる。個別の技術開発に加えて、実船と実航路を使った共通の検証を通じて、自動運航船を社会インフラとして扱える段階へ進めるための取り組みといえる。

4隻の実証船で、異なる運用条件を試す

 システム開発では、同じ機能でも、使われる環境が変われば求められる非機能要件も変わる。社内の管理画面で使う機能と、24時間止められない業務システムに入れる機能では、監視、権限、例外処理、応答時間(レイテンシ)、利用者への見せ方が異なる。船舶の自動運航でも、船の種類や航路が変われば、確認すべき内容は変わる。

 MEGURI2040の第2ステージでは、離島航路船「おりんぴあどりーむせと」、コンテナ船「みかげ」、RORO船「第二ほくれん丸」、新造内航コンテナ船「げんぶ」といった4隻の実証船が対象になった。旅客を運ぶ船、貨物を運ぶ船、トラックやトレーラーを積むRORO船、新造段階から自動運航機能を組み込む船が含まれており、船種も運航条件も一様ではない。

第2ステージ実証船
MEGURI2040第2ステージで実証対象となった4隻の自動運航船。離島航路船、コンテナ船、RORO船、新造内航コンテナ船という異なる船種と航路で、自動運航機能の実用化に向けた検証を進めた。事業期間は2022年10月から2026年9月まで、技術開発事業費は約103億円に上る

 「おりんぴあどりーむせと」(新岡山港〜小豆島の土庄港)のような離島定期航路では、航路上の他船の検知、港への接近、離着桟時の制御などが重要になる。自動航行だけでなく、自動離着桟や陸上からの支援を含めたトータルでの運用が試された。

 内航コンテナ船「みかげ」は、国内物流で最も普及しているサイズのコンテナ船に自動運航機能を載せることで、貨物船としての運用条件に対応できるかどうかを確認した。「第二ほくれん丸」(釧路〜日立)は、より長い航路で貨物輸送を担うRORO船としての運航条件を試す対象になった。

 「げんぶ」は、新造内航コンテナ船として、自動運航機能を前提に建造された。既存船に機器を後付けするレトロフィットと異なり、船橋や機関部を含めた自動化を最初から組み込めるため、船上のセンサー、航路計画、安全性評価、操船制御、機関監視、通信、陸上支援との接続を、船全体の設計に組み入れられたという。


離島航路船「おりんぴあどりーむせと」

 4隻の実証で扱われた要素技術には、周囲の状況を把握するセンサー、避航ルートを作るプランナー、安全性を評価する仕組み、舵(かじ)や主機を制御する操船制御、自動離着桟、機関状態の監視、陸上支援センターとの通信などがある。前回の記事で見た認知、判断、制御、遠隔からの支援を、異なる船種と航路に載せて確かめた形だ。

 MEGURI2040は、特定の一隻だけで成果を示すのではなく、旅客船、コンテナ船、RORO船、新造船という異なる条件で実証を進めた。これは、船舶の自動運航を社会で使える技術にするには、船種や航路、運航形態が変わっても、認知、判断、制御、遠隔からの支援という基本構成を適用できるかどうかを確かめる必要があったからといえる。

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