【トレンド解説】
10ギガを超えて
さらなる進化を続けるイーサネット
〜 10GBASE-T、Power over Ethernet、RPR 〜
鈴木淳也
2003/9/4
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イーサネットの進化は止まらない。安価で高速にコンピュータ同士をネットワーク接続するために登場したイーサネット。当初は近距離接続のLAN限定で、速度も10Mbps未満程度だった。だが、いまではその1000倍に当たる10Gbpsの速度にまで対応し、接続距離も数百km、電話交換網並みの信頼性を備えるまでに至っている。
この概要については、すでに「トレンド解説:進化するイーサネットWANは第2フェイズへ」において解説したが、それから後もイーサネットはさらなる進化を続けている。今回は、イーサネット周辺の最新トレンドならびに、イーサネットの規格を定めているIEEEで、いったいどのような規格の標準化が進められているのか、この辺りをまとめてみよう。
■10ギガビット・イーサネットにメタル版が登場
10ギガビット・イーサネットについてすでにご存じの方は、「10ギガビット・イーサネットは光ファイバ・ケーブルを前提とした規格」という認識をお持ちではないだろうか。実際、長距離接続以外のLAN用途においても、10ギガビット・イーサネットはSMF(シングル・モード・ファイバ)ならびにMMF(マルチ・モード・ファイバ)の2つを使うことが前提となっている。「メタル・ケーブル」と呼ばれるツイスト・ペア・ケーブル(UTP)の登場が当初から予定されていた、1世代前のギガビット・イーサネットとは対照的だ。
だがその10ギガビット・イーサネットにも、間もなくUTP版の規格が登場しようとしている。「IEEE P802.3」は、これまでのイーサネット規格で使用してきたカテゴリ5のUTPを、そのまま10ギガビット・イーサネットで使用可能にする規格だ。通信距離は、これまで同様に100mまでとなっており、ケーブル同士はスイッチで接続される。その意図はもちろん、取り回しの難しい光ファイバではなく、すでに配線済みのUTPケーブル網をそのまま流用可能にするためである。
すでに規格化が進められている以上、不可能な技術ではないのだろうが、気になる点はある。それはパフォーマンスだ。ギガビット・イーサネットのUTP版であるIEEE 802.3ab(1000BASE-T)では、実効パフォーマンスは1000Mbpsとは程遠い30〜40%だとされていた。実際にはさらに低く、15〜20%程度だともいわれている。その大きな原因の1つは、CSMA/CD動作の限界によるパケット転送効率の低下である。ギガビット・イーサネットでは転送速度が高速過ぎるために、短いサイズのフレームではCSMA/CDによる衝突検出が行えない。そこで、このような短いフレームが送られてきた場合には、パディングというダミーのデータで埋め合わせをしてフレーム・サイズの拡張を行っており、これが性能低下につながっている。「ジャンボ・フレーム」という8000バイト級のフレームを使って効率的な転送を実現する技術も存在するが、一般に1000BASE-Tのパフォーマンスは高くないというのが現状だ。
では、IEEE P802.3で審議されている10GBASE-Tでは、どの程度のパフォーマンスを実現するのだろうか? すでにCSMA/CDは廃止されている。1000BASE-Tよりは高い転送効率を実現しそうだと考えられてはているが、どこまで性能をアップさせることができるのか? 10ギガビット・イーサネットの次世代規格の策定が進む中、メタル技術の限界がどこまで延びるか、楽しみな点ではある。
■IP電話時代の必須技術「Power over Ethernet」
イーサネット関連でいま注目を浴びているもう1つの技術が、「Power over Ethernet(PoE)」と呼ばれるもので、現在IEEE 802.3afで標準化が進められている。これはその名のとおり、UTPケーブル上にネットワーク機器が動作するのに必要なだけの電流を通す技術である。UTPケーブルが張り巡らされている環境でさえあれば、新たに電源ケーブルを設置せずともネットワーク機器を動作させることが可能になる。
その最大の用途と目されているのが、IP電話への適用だ。現在のIP電話では、イーサネットの配線に加え、別途電源ケーブルも用意する必要がある。その原因は、電話線から電源を得ている通常のビジネスフォンや一般加入電話とは異なり、イーサネットからは電源を得ることができないからである。IP電話の利用が拡大する中、これは大きなデメリットとなる可能性がある。そこでPoEの登場だ。PoEを利用すれば、IP電話はUTPケーブルの接続のみでネットワークへの接続と電源供給を一度に得られることになる。
IP電話以外では、無線LANアクセス・ポイントやWebを利用した監視カメラなどでの利用が想定されている。これらの機器は、天井近くに配置したほうが使い勝手がアップするものだが、UTPと電源ケーブルの両方が必要となるため、それもなかなか難しい。もしPoEを使ってUTPケーブルによる接続だけに絞ることができれば、この問題も解決できる。また今後、Webを利用した各種センサーが登場することになるだろうが、PoEを使えばその配置は難しくない。イーサネット経由で電源のオン/オフ管理も可能になるため、ネットワーク管理の都合上からも非常にありがたいものだ。
PoEの使用条件は、機器とその接続先となるスイッチがPoE対応であること、そして機器の消費電力が12.95W以下であることである。この技術を使うことで、ネットワーク機器の7割近くが電源いらずになるともいわれており、今後はPoE対応がスイッチ購入の1つの判断基準となるかもしれない。
■802.3以外のIEEE標準規格
IEEE 802.3が所属するIEEE 802では、コンピュータ通信を実現するための基礎インフラの標準化が、ワーキンググループごとに分かれて行われている(表1)。802.3もまた、そのワーキンググループの1つであり、イーサネットの標準化を担っている。もともと802.3は、CSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)と呼ばれる衝突検出アルゴリズムを用いた通信手法について研究を行うワーキンググループだった。だが前出のように、10ギガビット・イーサネットでCSMA/CDが廃止されたいま、「Ethernet WG」という名称に変更し、イーサネット技術標準化のためのワーキンググループとして活動を続けている。
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表1 現在稼働中のIEEE 802ワーキンググループ一覧 |
表1は現在稼働中のIEEE 802ワーキンググループ一覧だ。イーサネット技術自体の標準化は802.3で行われるが、ほかのワーキンググループで標準化が行われている技術の中には、イーサネットの信頼性をより高めるものとして注目を集めているものもある。IEEE 802.1x(認証によるアクセス・コントロール)、IEEE 802.1p(QoS)、IEEE 802.1q(タグ付きVLAN)、IEEE 802.17(RPR:Resilient Packet Ring)はその代表的なものだ。
IEEE 802.1xでは、RADIUSなどによりユーザー認証が行われると、その情報に沿ってアクセス・コントロールを行う。例えば人事情報など、一般ユーザーや外部ユーザーにはアクセスさせたくない情報に対して、アクセス制限を掛けるのに使うことができる。さらに、このアクセス・コントロール機能とIEEE 802.1qを組み合わせることで、より高度なVLAN制御が可能となる。
RPRは、2重リング型トポロジを持ったネットワークにおいて、瞬時にネットワーク障害を検出してう回路を与える技術であり、ネットワーク自体の冗長性を高めることができる。電話交換網などで利用されるSONET/SDHでは、この2重リング型トポロジとRPRと同様の仕組みを備えており、高い信頼性を実現している。このRPRをイーサネットに適用することで、SONET/SDH並みのネットワークを安価に構築することが可能になる。
以上はイーサネット関連でピックアップした重要技術だが、表1にはほかにも注目すべきワーキンググループがある。IEEE 802.11(無線LAN)、BluetoothやUWBなどの短距離無線LANを実現するIEEE 802.15(WPAN:Wireless Personal Area Network)、中・長距離無線アクセスを実現するIEEE 802.16(FWA:Fixed Wireless Access)、移動体通信用の無線アクセス技術のIEEE 802.20(MBWA:Mobile Broadband Wireless Access)などだ。
これらの技術が相互に作用して、イーサネットの枠にとどまらない、無線アクセスなどを絡めたより効率的なネットワーキングを実現しようとしている。ユーザーに求められるのは、これら技術動向をきちんと把握したうえで、いま可能な最善のネットワーク・ソリューションを見つけることである。今後も引き続き最新動向をウオッチしつつ、レポートを続けていきたいと思う。読者の皆さんのネットワーク構築の参考になる情報ができれば幸いである。
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