対称型マルチプロセッサとはSMP(Symmetric MultiProcessor)とも呼ばれ、プロセッサの個数を増やすことでシステム全体の性能を高める技術である。現在、IAサーバやPCワークステーションではSMP構成のシステムが珍しくない。一部のデスクトップPCでもデュアルプロセッサに対応したハイエンド・モデルがラインアップされており、PCの世界ではマルチプロセッサ技術が意外に身近な存在となっている。今後、マルチプロセッサに対応したWindows XPがPCの標準的なOSとなることから、さらにマルチプロセッサ対応したシステムが増えていくものと思われる。しかし、その原理や実装方法、パフォーマンスなどについて解説した文献は非常に少ない。あったとしても大学の教科書然とした取っ付き難いものが多いのが実情だ。しかし本書は、x86アーキテクチャの「PC」という身近に存在するシステムを主眼において、SMPとその関連技術を解説した貴重な1冊となっている。
1〜2章ではプロセッサおよびマルチプロセッサ・システムの基礎知識の説明、3〜4章ではSMPを実装するためのハードウェアおよびソフトウェア(OS)の解説、そして5章では、ファイル・サーバやデータベース・サーバなど各種アプリケーションをSMPのシステムで利用するためのサイジング方法について解説している。最後の6章ではクラスタリングについて触れている。
多くの読者にとって最も役立つのは、1〜2章の基礎知識かもしれない。パイプラインの動作原理やキャッシュ・メモリの実装方式、命令を並列処理する各種テクニックなど、書籍やWebでもあまり目にすることのないプロセッサのアーキテクチャについて、比較的平易な文書で解説されている。また、CrusoeやItaniumといった最新のx86プロセッサも取り上げられている。
IAサーバの導入にかかわる人にとっては、5章のサイジングの話題が特に役立つだろう。この章では、SMPに限らずメモリやネットワーク、ディスク(RAID)などほかのハードウェアも含めて、最適なハードウェア構成を導き出したりパフォーマンスを高めたりする方法が記されている。また、メモリ容量など具体的な数値を提示しており、現実のシステム構築に役立てやすいのは好感が持てる。
SMPという難解な話題を取り扱うこともあり、本書は初心者向けではなく、PCハードウェアやOSについて、ある程度の知識を前提とする(既存の類似文献に比べれば、解説内容はやさしい方だが)。本書を入り口として、各方面の専門書籍をチェックする必要があるかもしれない。とはいえ、PCのSMPを理解するのに、本書が大いに役立つ書籍であることは間違いない。例えSMPに直接かかわりがなくても、PCのハードウェアの中身に興味がある人や、PCを使ったシステムのサイジングにかかわる人には有用な1冊といえる。
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