最新チップセットの機能と性能を探る 3. 内蔵グラフィックスの性能を探るデジタルアドバンテージ 島田広道 |
ここではIntel 815/815Eチップセットに追加できるグラフィックス・メモリ・カードと、内蔵グラフィックスの性能について調べてみよう。
外付けのディスプレイ・キャッシュ
一般的にチップセット内蔵グラフィックスは、画面の描画/表示に用いるグラフィックス・メモリをメイン・メモリで代用する。この場合、メイン・メモリは内蔵グラフィックス・コントローラだけで専有できるわけではなく、プロセッサやI/Oデバイスからもアクセスされる。したがって、よほどメイン・メモリの性能が高くないかぎり、グラフィックス専用メモリを搭載するグラフィックス・カードに比べると、メモリとのデータ転送レートは低くなるので、どうしても性能は劣ってしまう。
こうした性能上の問題に対し、Intel 810チップセット(正確には810DC-100と810E)は、ディスプレイ・キャッシュと呼ばれるグラフィックス専用メモリを外付けするオプションを用意している。メイン・メモリだけではなくディスプレイ・キャッシュにもグラフィックスのデータを振り分けることで、データ転送レートを高められるわけだ(ディスプレイ・キャッシュの効果については、後述のベンチマーク・テスト結果を参照していただきたい)。
Intel 815/815Eチップセットにもディスプレイ・キャッシュを追加するための機能が備わっている。ただし、マザーボードにディスプレイ・キャッシュを直付けするしかないIntel 810チップセットとは異なり、AGPスロットにディスプレイ・キャッシュ搭載カードを装備できるように設計されている(すなわち、ディスプレイ・キャッシュとAGPグラフィックス・カードは同時に使えない、ということでもある)。このディスプレイ・キャッシュ搭載カードとは、GPA(Graphics Performance Accelerator)カードと呼ばれ、133MHzで駆動される4MbytesのSDRAMチップからなる(AIMM:AGP In-line Memory Moduleと呼ばれていたこともある)。つまり、Intel 815/815Eチップセットには、グラフィックス機能を高めるためにユーザーが後から追加できるオプションとして、AGPグラフィックス・カードとGPAカードの2種類が利用できるわけだ。
GPAカードの例 |
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これはコンパックコンピュータのDeskpro ENに搭載されていたGPAカード。主要なパーツはSDRAMチップだけである。 |
注意が必要なのは、すべてのIntel 815/815Eチップセット搭載PCで、GPAカードが利用できるとはかぎらない、ということだ。Intelが提供している815Eチップセットの設計ガイドには、GPAカードをサポートしないマザーボードの設計例も記されており、PCによってはGPAカードを無視して設計されている可能性がある。もしGPAカードを利用したいなら、対応状況をPCベンダに確認すべきだろう。
内蔵グラフィックスの性能
AGPグラフィックス・カードにしろ、GPAカードにしろ、何も加えないIntel 815/815E内蔵グラフィックスに対して性能的なメリットがなければ、追加投資を行う意味がない。そこで、ベンチマーク・テストを行い、内蔵グラフィックス回路と最新AGPグラフィックス・カードの間で性能を比較してみた。テスト環境の詳細については、こちらを参照していただきたい。
アプリケーション・レベルでの性能差 |
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グラフィックス回路の構成を変えながら、SYSmark 2000で性能を測定した。一番下のグラフはIntel 810Eチップセットに4Mbytesのディスプレイ・キャッシュを組み合わせたときの測定結果だ。これを見るとGPAカードの効果はほとんど表れていないことが分かる。 |
上記のグラフは、テスト用PCのグラフィックス回路の構成だけを変更し、アプリケーション・レベルのベンチマーク・プログラムであるSYSmark 2000で測定した結果である(SYSmark 2000の詳細は、「特集:x86最速プロセッサ Pentium III-1.13GHzの実像に迫る」の記事を参照していただきたい)。グラフ中の数値は、SYSmark 2000で規定されているインデックス値で、値が大きいほど高速である。グラフィックスに関しては、2Dグラフィックスの性能が影響するはずだ。
まず注目したいのは、一般的なビジネス・アプリケーションの場合、GPAカードは性能向上にほとんど寄与しない、という点だ。Intel 815/815Eチップセットのデータシートには、ディスプレイ・キャッシュ(つまりGPAカード上のメモリ)は、2D/3Dグラフィックスの両方から使用されるが、最もアクセスの集中するフレーム・バッファとして使われることはない、と記されている。そのせいか、このベンチマーク結果を見る限り、ディスプレイ・キャッシュは2Dグラフィックスの役に立っているとは言い難い。
次の注目点は、最新のAGPグラフィックス・カードを追加しても、性能は5%しか向上していないということだ。少なくとも、テスト時の1024×768ドット6万5536色という解像度では、内蔵グラフィックスでもAGPグラフィックス・カードでも、アプリケーション・レベルの性能はそれほど変わらないということになる。
ただ、一般的なビジネス・アプリケーションであまり利用することのない高解像度かつ多色の表示モードでは、その差が表れるかもしれない。その点で重要なのはむしろ性能より機能面だ。例えばIntel 815/815E内蔵グラフィックスでは1600×1200ドット表示時に256色しか表示できない、という限界がある。最近のAGPグラフィックス・カードなら1600×1200ドット以上でかつ1677万色以上の多色表示が可能なので、こうした用途なら2DグラフィックスでもAGPグラフィックス・カードを必要とすることもあるだろう。
さて、現時点ではビジネス用途で3Dグラフィックスを活用するアプリケーションは決して多くないが、参考までに3Dグラフィックス性能も測定してみた(テスト環境の詳細はこちらを参照)。ベンチマーク・プログラムには、MadOnion社の3DMark2000を用いている。グラフに記したのは、3DMark2000で規定されているインデックス値で、値が大きいほど高速である。
3Dグラフィックスの性能差 |
グラフィックス回路の構成を変えながら、3DMark2000で性能を測定した。上がCeleron-600MHz搭載PC、下がPentium III-866MHz搭載PCでの結果だ。内蔵グラフィックスは、最新AGPグラフィックスと比べて1/2〜1/4以下の性能しかないことが分かる。 |
この結果で注目すべきことは2つある。1つは、GPAカードにより、確かに3Dグラフィックスの性能は向上するということ、もう1つは、たとえGPAカードなどのディスプレイ・キャッシュを利用しても、最新のAGPグラフィックス・カードにはまったくかなわないということである。特にPentium III搭載PCではその差は大きく、テスト中に体感できたほどである。また、3Dグラフィックスの性能だけではなく表示品質の差も表れていた。もし、OpenGLや3Dゲームなどといった3Dグラフィックスを多用するアプリケーションを利用するなら、内蔵グラフィックスに頼らず、別途AGPグラフィックス・カードを用意する方がよいだろう。
次のページからは、Intel 815/815Eのメモリ・サブ・システムに注目してみる。
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3DMark2000のページ |
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