最新チップセットの機能と性能を探る 6. 増えたUSBポートの活用方法デジタルアドバンテージ 島田広道 |
Intel 815Eチップセットが内蔵する数多くのI/Oのうち、ここではUSBに注目して、その活用方法を探ってみる。
単に2ポート増えただけではない
冒頭で触れたように、815Eチップセットに含まれるICH2チップを利用すると、最大4ポートのUSBインターフェイスを装備できる。一見すると、従来の2ポートと比べ、単にポート数が2倍になって、外付けのUSBハブを用いなくても接続できるUSBデバイス数が増えただけに思える。これもメリットには違いないが、実は性能面でも大きな違いがあるのだ。
一般的に、2ポートのUSBを装備しているPCは、USBのコントローラ回路(USBホスト・コントローラ)が1つだけ実装されている。このUSBホスト・コントローラには、チップの内部でUSBルート・ハブという一種のUSBハブが接続され、これによって2ポートに分配されているのだ(下の画面参照)。規格上、USBホスト・コントローラは1つ当たり最大12Mbits/sの転送能力を持っている。つまりこの場合、2ポートそれぞれで12Mbits/sで転送できるのではなく、2ポートに接続されたデバイスの総合転送レートが最大12Mbits/sなのだ。理論的には、あるUSBデバイスが8Mbits/sでデータを転送していたら、そのほかのUSBデバイスには、4Mbits/sしか利用できない(実際には、転送時のオーバーヘッドがあるので、4Mbits/sより転送レートは下がる)。
デバイス・マネージャで認識されているUSBホスト・コントローラとルート・ハブ |
これはIntel 810チップセット搭載PCでデバイス・マネージャを表示させたところ。1つのUSBホスト・コントローラにルート・ハブが1つ接続され、そこにマウス(HID準拠マウス)とキーボード(Microsoft Keyboard)がつながっていることが分かる。 |
これに対しIntel 815Eチップセットでは、2つのUSBホスト・コントローラ、つまり2つのUSBルート・ハブが内蔵されており(下の画面参照)、それぞれに2つのUSBポートが接続されて合計4ポートになっている。そして2ポートごとに最大12Mbits/sの転送レートを発揮できるので、総合すると24Mbits/sという2倍の転送能力が与えられたことになる。
Intel 815EチップセットのUSBホスト・コントローラとルート・ハブ |
これはIntel 815Eチップセット搭載PCでデバイス・マネージャを表示させたところ。2つのUSBホスト・コントローラにそれぞれルート・ハブが1つずつ接続されている。上のルート・ハブにはマウスとキーボード、下のルート・ハブにはイメージ・スキャナ(EPSON GT-7600)とカード・リーダ(UEP FilmPort USB)がつながっていることが分かる。 |
USBデバイスの同時使用時の性能は向上する?
USBルート・ハブが2つあっても、1つのUSBルート・ハブに接続した複数のUSBデバイスでは、従来どおり合計で12Mbits/sでのデータ転送が上限である。逆に言えば、USBデバイスを2つのUSBルート・ハブそれぞれに分配すれば、今まで頭打ちになっていた転送レートが向上するかもしれない。そこで、実際にIntel 815Eチップセット搭載PCに2種類のUSBデバイスを接続し、同時にデータを転送して、その速度を調べてみた。
テスト環境の詳細は、こちらを参照していただきたい。基本的には、テスト用PCにUSB接続のカード・リーダ(PCカードやコンパクト・フラッシュなどのフラッシュ・メモリ・カードを読み書きするデバイス)と、同じくUSB接続のフラット・ベッド型イメージ・スキャナをつないでテストしている。
結果は、以下のグラフのとおりである。
USBデバイスを同時に使ったときの性能差 |
USB接続のカード・リーダ(上のグラフ)とイメージ・スキャナ(下のグラフ)それぞれからデータを読み出したときの平均速度を記した。別々のルート・ハブにそれぞれのデバイスを接続すると、ほとんど速度が下がっていないことが分かる。 |
上記グラフのうち、「それぞれ単独で使用」は、2台のデバイスのうち片方だけをPCに接続して転送レートを測定した結果だ。「同一ルート・ハブで同時使用」は2台とも同じUSBルート・ハブに接続、また「別々のルート・ハブで同時使用」は2つのUSBルート・ハブにそれぞれデバイスを接続して、同時に読み出しを実行した結果である。
テストに使ったカード・リーダとイメージ・スキャナは、PCの周辺機器としては、それほど高速なデバイスとは言えない。にも関わらず、このテストでは同一のUSBルート・ハブを利用すると、単独使用時に比べ、両方のデバイスとも転送レートが22〜25%低下していることが分かる。このとき、両デバイスの転送レートの合計は、約1Mbytes/sだ。これに対して、USBの理論上の最大転送レートは12Mbits/s⇒1.5Mbytes/sであり、まだ余裕はありそうだ。しかし結果は上記のグラフのとおり、明らかに両デバイスのデータ転送が干渉し合い、転送レートが低下している。つまり、この両デバイスに対して、単一のUSBルート・ハブは必要十分な転送レートを備えていないわけだ。
一方、デバイスごとにUSBルート・ハブを分けて接続すれば、転送レートはほとんど低下しないこともグラフから分かる。複数のUSBデバイスを同時使用する場合、複数のUSBルート・ハブを活用するのは、性能低下を防ぐのに有効と言える。このメリットは、Intel 815Eチップセットに限らず、2つのUSBルート・ハブ(USBホスト・コントローラ)を内蔵する他のチップセットでも有効だろう。
シリアル・ポートやパラレル・ポートなど従来のインターフェイスが、レガシー・デバイスとして廃止されつつある現状では、USBに接続するデバイス数は増える一方だ。同時に使用するUSBデバイスが増えるほど、より速度は下がるだろう。その点で、USBルート・ハブを多く備えたPCの方が、USBデバイスを活用するには有利であることが、上記の実験ではっきりした。また、マウスやキーボードなど遅いデバイスはともかく、転送レートの高いストレージ・デバイスを利用するなら、USBルート・ハブの数とその使い方には特に注意したい。たとえば最近になって登場してきたUSB接続のCD-R/RWドライブの場合、転送レートが下がると、バッファ・アンダーラン・エラーで書き込みに失敗する確率も上がりかねない。
最大転送レートが従来の40倍(480Mbits/s)のUSB 2.0になれば、こうした転送能力不足という問題は解消されるはずだが、USB 2.0が本格的に普及するのは2001年後半からだろう。それまでは、複数のUSBルート・ハブをうまく活用することでトラブルを防ぐしかない。
次のページで、これまで触れなかったIntel 815/815Eチップセット搭載PCで注意すべき点をまとめよう。
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