元麻布春男の視点
DDR333対応で注目を集めるPentium 4向けチップセット「SiS645」

元麻布春男
2001/12/07

 SiS(Silicon Integrated Systems)というと、低価格のクライアントPCでよく使われているグラフィックス統合型のチップセットを作っているチップセット・ベンダ、という印象が強いのではないだろうか。確かに、ここ数年の同社の主力製品を振り返ると、この印象が決して間違いではないことが分かる。しかし、PCのI/OバスがPCIになる以前、まだEISAやVL-Busといったバスが幅を利かせていた頃、SiSのチップセットはもっと広い範囲の製品に使われていた。例えば、筆者がかつて愛用したAMI(American Megatrends, Inc.)のサーバ向けEISA/VLマザーボード(Enterprise IV)などにも、SiSのチップセットが用いられていた。むしろ当時は、Intel製チップセットより安価で高性能、というイメージがあったように思う。

なぜPentium 4でDDR SDRAMの普及が進まないのか

 IntelがPCIバスを筆頭に、PCアーキテクチャの革新に積極的に乗り出して以来、サードパーティのチップセット・ベンダは苦戦を強いられてきた。矢継ぎ早に繰り出されるIntelにルーツを持つ新技術の実装で、どうしてもIntelに遅れをとることになるからだ。USBにしても、AGPにしても、そしておそらく今後登場するであろうUSB 2.0シリアルATAにしても、まずIntel製チップセットに標準実装されるのを見極め、互換性が確立されるのを見届けてからでないと、大きなリスクを負うことになる。

 DDR SDRAMにしても、なかなか普及が進まない(特に大手PCベンダでの採用がなかなか進まない)理由は、結局Intelが対応したチップセットをリリースしておらず、大手PCベンダはIntelが互換性を認証していないメモリ・モジュールの在庫を持ちたがらないからだと考えられる。しかし、2002年第1四半期には、IntelもIntel845でDDR SDRAMのサポートを開始する予定であり、ようやくDDR SDRAMが普及する環境が整いつつある。また、これまでハイエンドにしか使われていなかったPentium 4も、価格を引き下げると同時に、新しいSocket 478対応パッケージへの切り替えが進み、最も数量の出るメインストリームのCPUとして使えるようになってきた。逆に、急速にPentium 4へシフトを行ったことや、需要予測を見誤ったことから、供給不足の問題も生じているほどだ。

 こうした環境の変化を受けて、サードパーティのチップセット・ベンダもチップセットの(少なくともIntel製プロセッサ向けの)主力を、Pentium 4へ移しつつある。「元麻布春男の視点:Pentium 4のDDR SDRAMサポートを先取りする」で取り上げたVIA TechnologiesのP4X266は、サードパーティ製チップセットとしては最も早期にリリースされたものの、Intelとのバス・ライセンス紛争の泥沼で、なかなか大手OEMを獲得できない状況が続いている。結局はVIA Technologies自身がマザーボードの販売に乗り出すこととなった。

SiS645の特徴

 そんな中、注目を集めているのが冒頭に挙げたSiSのPentium 4対応チップセットであるSiS645だ。SiSは、ALi、ATI Technologiesと並び、IntelからPentium 4のバス・ライセンスを取得しており、P4X266のような法的トラブルに巻き込まれる心配はない。現在、Intelがメインストリーム向けに供給しているIntel 845チップセットの性能がもうひとつパッとしないことと合わせ、大手マザーボード・ベンダの多くが採用を決めている。

 SiS645チップセットの特徴は、ノースブリッジ(ホスト・メモリコントローラ)であるSiS645と、サウスブリッジ(I/Oコントローラ)であるSiS961の2チップ構成になっていることだ。2チップ構成は、Intelをはじめ、SiS以外のチップセット・ベンダではむしろ常識なのだが、このところSiSは、グラフィックスまで含めたすべての機能を1チップに統合した製品を主力にしてきただけに、大きな方針転換だといえる。

 2チップに分ける理由の1つは、ノースブリッジとサウスブリッジで技術の革新速度が異なるからだと思われる。ノースブリッジがサポートする技術は、ホスト・インターフェイス(プロセッサのFSB)、メモリ・バス、AGPといったところだが、AGP 8xがメインストリーム向けに登場するまで、大幅な変更はあまり考えられない。もちろん、そう遠くない将来、Pentium 4のFSBは533MHz(=133MHz×4倍)に引き上げられるだろうし、メモリ・バスのクロックにしても引き上げられる可能性はあるのだが、Pentium IIIからPentium 4への移行のように、バスがまったく異なるものになってしまうような、本質的な変更ではない。

 これに対してサウスブリッジ側には、USB 2.0、シリアルATA、ギガビット・イーサネットと、近い将来対応を余儀なくさせられるI/O技術が目白押しの状態だ。I/O技術というのは、相手(つなぐ周辺機器)があってのものであり、ソフトウェア・サポートのタイミングも重要である。これらを無視してチップセットに機能を盛り込んでも、実際に使用することができないため、単にチップセットの価格性能比を悪くするだけになってしまう。逆にいえば、そのリスクを負って、真っ先に製品化することが、プラットフォームの革新者たる条件であり、現状ではIntelがその役割を負っているわけだ。タイミングを見極めたうえで、用意の出来たものを市場に投入するには、2チップ構成になっている方が有利である(もちろん、2チップ構成にするほかの理由として、歩留まりの問題や、パッケージ/実装コストの問題も当然あることだろう)。

 SiS645チップセットの場合、ノースブリッジのSiS645は、FSB 400MHz(=100MHz×4倍)のPentium 4、AGP 4xモード、DDR333(PC2700 DIMM)に対応したメモリ・インターフェイスといった特徴を持つ。DDR333に対応したチップセットが市販されるのは、このSiS645が初めてのことだ。一方、サウスブリッジのSiS961には、「初めて」の冠がつくような機能は特に見当たらない。2コントローラ/6ポートのUSB 1.1、Ultra ATA/100対応のIDE、10/100BASE-TXおよびHomePNA 2.0対応のLANコントローラ、AC'97 2.2対応といったスペックは、見劣りする部分はないものの、目新しいわけでもない。ノースブリッジとサウスブリッジ間の接続に、同社がMuTIOLと呼ぶ16bit幅のインターフェイス(サポートする帯域は533Mbytes/s)を採用していることが、もう1つの大きな特徴といえるくらいだろう。

SiS645を採用したマザーボード「645 Ultra」

 前述のとおり、このSiS645が多くのマザーボード・ベンダが採用を表明しているが、現時点ではようやくその第一波が、店頭に並び始めたところだ。下の写真は、その1つであるMicroStarの「645 Ultra」である。ごく一般的なATXフォームファクタのマザーボードで、3本のDIMMスロットを備える(すべてDDR DIMM用)。電源コネクタは通常のATX電源コネクタとプロセッサ用の12V電源コネクタ(4ピン)の2つで、第1世代のPentium 4マザーボードでよく見られた補助電源コネクタは必要としない。

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MicroStar 645 Ultra
最近多い、真っ赤な基板だ。見た目は、Intel 845などのものとそれほど変わらず、違和感がない。

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645 UltraのAC'97 CODECチップとスーパーI/Oチップ
645 Ultraの拡張スロット近辺を拡大した写真。写真上側のチップ「ALC201A」がAC'97 CODEC、写真下側のチップ「Winbond W83697HF」がLPCインターフェイス対応のスーパーI/Oチップである。
  AC'97 CODECチップ
Avance Logicの「ALC201A」というチップを採用している。サウスブリッジ内蔵のAC'97対応サウンド・コントローラと接続されている。
  スーパーI/Oチップ
Winbond Electronicsの「W83697HF」というチップを採用している。サウスブリッジとはLPC(Low Pin Contact)というバスで接続されている。

 拡張スロットは、AGPスロット1本に、PCIが5本(うち1本がCNRとの共用)という構成。Intel製チップセット(Intel 850および845)と異なり、AGPスロットは3.3Vにも対応したユニバーサル・スロットであり1.5V専用ではない。PCIスロットが5本というのは、最近のATXマザーボードにしてはちょっと少なめ、というところだろうか。

 オンボードのI/Oは、サウスブリッジのAC'97コントローラ機能を用いたサウンド機能だけとシンプルだ。ボード上には特にこれという空きパターンもなく、LANコントローラ機能を使った製品や、最近よく見かけるIDE RAID機能を搭載したバリエーションは用意されていないようだ。実装されているAC'97 CODECチップはAvance LogicのALC201Aである。以前、グラフィックス・チップを手がけていたことのある同社だが、久しぶりに製品を見た気がする。

 次回は、この645 Ultraを実際に動作させて、ほかのチップセットとの性能比較を行ってみたいと思う。記事の終わり

 
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  関連リンク 
SiS645の製品情報ページ
645 Ultraの製品情報ページ
SiS645チップセット搭載Pentium 4対応マザーボード「645 Ultra」を出荷開始
 
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