元麻布春男の視点
DDR SDRAM対応Pentium 4用チップセットは市場を動かすか?


元麻布春男
2001/09/14

 2001年9月11日、これまでRambusメモリ(RDRAM)をサポートしたIntel 850しか存在しなかったPentium 4対応チップセットに、PC133 SDRAMをサポートしたIntel 845が加わった(インテルの「Intel 845に関するニュースリリース」)。だがその性能は、メモリの帯域が示唆するように、決して高いとはいえないものだった(「ニュース解説:Pentium 4用チップセット『Intel 845』はメインストリームになれるのか?」参照)。かつてのように、RDRAMとSDRAMの価格差が大きければ、安価なPC133 SDRAMのサポートは不可欠だったが、この1年あまりのメモリ価格の暴落が、状況を変えてしまった。

 もちろん、いまもDirect RDRAM(PC800)の価格はPC133 SDRAMの数倍(3〜3.5倍)の価格であることに変わりはない。しかし、絶対価格が決定的に下がってしまった。256Mbytesを実装するのに必要なコストは、PC133 SDRAMで2500円〜3500円程度なのに対し、PC800 RIMMで8500円〜1万円程度だ。同じ3倍でも、1万円と3万円、あるいは2万円と6万円なら、高いRIMMを買うユーザーはほとんどいないだろう。しかし、3000円と9000円なら果たしてどうだろうか。下落がとまらないメモリ価格を考えると、近い将来、2000円と6000円になるかもしれない。同じ3倍でも、これなら話がずいぶん変わってくる。Intel 850とIntel 845の間の性能差が10%前後あるとなると、「4000円で10%の性能向上が買える」という話になる。そんなオプションは滅多にないし、プロセッサの動作クロックで10%の性能向上を果たそうとすると、例えば1.7GHzのものは、2GHz以上にしなければならない勘定になる(プロセッサの動作クロックを10%向上させただけでは、10%の性能向上は得られない)。1.7GHzと2GHzのPentium 4の価格差は、原稿執筆時点で4万2000円ほど。コストパフォーマンスを考えれば、どちらのシステムを購入するのが得かは明らかだろう。

再燃したVIAとIntelのライセンス問題

 となると気になるのは、ではDDR SDRAMメモリならどうなのか、ということだ。PC133 SDRAMが性能的に受け入れられなくても、DDR-266メモリ(PC2100 DIMM)ならば、もっと性能が向上する可能性がある。価格の点でもDDR-266はPC133の5割増程度で、RIMMより安価だ(PC800 RIMMはPC2100 DIMMの2.5倍程度)。しかし、残念ながらIntelがDDR SDRAMをサポートするのは2002年前半のこと。それまでは、DDR SDRAMとRDRAMの間に価格差に見合う性能差があるのか、分からないことになる。

 この「空白」をチャンスと考えるのが、サードパーティのチップセット・ベンダだ。VIA Technologies、ALi、SiSといった台湾のチップセット・ベンダは、すべてPentium 4に対応したDDR SDRAM対応チップセットを準備している。

 なかでも先行しているのは、VIA Technologiesの「VIA Apollo P4X266」だ(VIA Technologiesの「VIA Apollo P4X266の製品情報ページ」)。8月中旬に量産に入ったとされるP4X266は、PC100/PC133 SDRAMに加え、DDR-200/DDR-266 DDR SDRAMに対応したチップセットである。ノースブリッジのVT8753と、サウスブリッジのVT8233もしくはVT8233Cの2チップで構成される。ノースブリッジとサウスブリッジ間の接続には、データ転送速度266Mbytes/sのV-Link(VIA独自のチップ間接続インターフェイス)を用いる。最先発だけに、これといった目新しい機能は見当たらないが、手堅いデザインだといえるだろう。

 P4X266で最大の問題は、Intelとの間の法廷闘争だ。VIA Technologiesは、P4X266の開発・販売に際して、IntelからPentium 4プロセッサ・バス(FSB)のライセンスを取得していない。これについてIntelは、VIA Technologiesとライセンスに関する話し合いを行うと同時に、ライセンスなしでチップセットの販売を行わないよう、再三にわたり同社に警告を発してきた。一方VIA Technologiesは、同社がIntelとのクロス・ライセンスを持つS3のグラフィックス部門を事実上買収したことで、改めてIntelからライセンスを取得する必要はない、との立場であった。

 IntelとS3の間のクロス・ライセンスがどのようなものであったのか、これは当事者にしか分からないことだが、一般にこうしたクロス・ライセンスにおいては、買収などが生じた場合に無効とする条項が含まれていることが少なくない。VIA Technologiesは、P4X266をS3 Graphics(VIA TechnologiesとSONICblueとの合弁会社)社の製品としてリリースすることで、これを回避できると考えているのかもしれないが、その主張が認められるかどうかは不明だ。

 Intelが9月7日にVIA Technologiesを訴えたのに続き、10日にはVIA TechnologiesがIntelを訴えており、事態がどうなるのか、現時点で予想することは難しい。ただ、台湾でも大手に数えられるマザーボード・ベンダは、P4X266ベースのマザーボードのリリースを手控えているようで、P4X266の将来は不透明である。

コラム
 
 Intelは、Pentium 4関連のライセンスをALiとSiS、ATI Technologyなどに提供している。VIA Technologiesに関しては、同社がVIA C3というx86プロセッサを開発・販売するライバル会社であること、チップセット市場においてもIntelに次ぐ大手ベンダであること(2000年にはVIA Technologiesが、チップセットのシェアでIntelを抜いたこともあった)などの理由から、Pentium 4のライセンスを提供していないものと思われる。VIA Technologiesによれば、「Intelはライセンス提供に関する条件の話し合いにも応じない」としており、今回のP4X266の見切り発表は、そうしたIntelの態度に業を煮やした結果と思われる。

 またVIA Technologiesは、裁判に持ち込むことで和解の話し合いが行われ、条件闘争に持ち込めるとみているのかもしれない。裁判がどのように進むことになるかは不明だが、こうしたトラブルを抱えている以上、P4X266を採用するベンダはしばらく現れないと思われる。
(デジタルアドバンテージ 小林章彦)

意外(?)に順調に製品化が進んでいるSiS645

 P4X266のつまずきを横目に、SiSが発表したPentium 4対応チップセットが「SiS645」だ(SiSの「SiS645の製品情報ページ」)。このところSiSのチップセットは、1チップ・タイプで、グラフィックス機能を統合したものが目立っていたが、このSiS645は、ノースブリッジとサウスブリッジの2チップ構成で、グラフィックス機能を内蔵しない、標準的な構成のチップセットだ。正確にはSiS645はノースブリッジ・チップの名前で、サウスブリッジはSiS961という。両チップ間は、同社がMuTIOLと呼ぶ独自のインターフェイスで接続される。

 MuTIOLは、Multi Threaded I/O Linkの略。その名前の通り、マルチスレッドのI/Oに対応したインターフェイスで、バス幅はIntelのHubLinkの2倍である16bitだ(最大データ転送速度も2倍の533Mbytes/s)。SiS645がサポートするメモリはDDR333(駆動クロックが最大166MHz×2=333MHzのDDR SDRAM)、DDR266、PC133の3種で、最大3Gbytesのメモリを搭載可能だ。SiS961は、MuTIOLに対応した唯一のサウスブリッジで、VT8233同様、最大6つのUSB 1.1ポートをサポートする。IDEのサポートはUltra ATA/100までである。

 SiSは9月4日、日本でSiS645の発表会を開いたが、会場ではSiS645ベースのマザーボードが実際に動作していた。0.18μmプロセスにより自社ファブ(半導体工場)で量産されるSiS645チップセットは、すでにサンプル出荷中で、9月末の量産を予定しているとのこと。すでに動作しているマザーボードを展示していたこともあって、10月上旬には秋葉原にSiS645ベースのマザーボードが並ぶことになるだろうと、自信を見せていた。

日本での発表会で展示されていたSiS645のサンプル・マザーボード
AGPスロットとPCIスロットの間にACRスロット(モデムやネットワークなどを接続する専用スロットの一種)が見える。
 
SiS645の稼働サンプル
同じく日本での発表会で展示されていたSiS645のサンプル・マザーボードだが、こちらは動作していた。ノースブリッジのマーキングが異なるが、マザーボードのデザインは同一。

動作したマザーボードが展示されないALADDiN-P4

 残るALiはIDFの初日である8月27日付で、Pentium 4対応のチップセットである「ALADDiN-P4」を発表した(ALiの「ALADDiN-P4の製品情報ページ」)。ALADDiN-P4は、ノースブリッジのM1671と、サウスブリッジ・チップであるM1535シリーズの2チップから構成される。M1671の最大の特徴は、メモリとしてPC100/PC133、DDR200/DDR266に加え、DDR333メモリをサポートし、事実上すべてのメモリに対応したことだ。M1535シリーズの最新版であるM1535D+は、PCIベース(ノースブリッジとの接続がPCI)であるものの、サウスブリッジはMaxtorが提唱するUltra ATA/133(最大転送レート133Mbytes/sのIDEインターフェイス仕様)に対応している。VT8233やSiS961と同様、USB 1.1準拠のUSBポート×6をサポートする。

ALiが展示したALADDiN-P4のデモ用マザーボード
DDR DIMM用のメモリ・ソケットとSDR DIMM用のメモリ・ソケットの両方を備える。ATX電源コネクタの上に補助電源コネクタが見える。

 IDFの展示会場には、下の写真に示したデモ用マザーボード2枚が展示されていたが、いずれも動作はしていなかった。プレスリリースによると、ALADDiN-P4は発表時点でサンプル出荷中で、2001年10月には量産が始まるというが、動作するマザーボードを展示していなかった点が気になるところだ。

 現在のところ、これらDDR SDRAM対応のチップセットを採用したマザーボードが入手できていないため、性能を検証することができていない。RDRAM対応のIntel 850が、SDRAM対応のIntel 845に対して平均して10%以上の性能向上を実現していることを考えると、これらDDR SDRAM対応チップセットも10%近い性能向上を実現する必要があるだろう。いずれにせよ、2002年にIntelがIntel 845ベースのチップセットでDDRをサポートするまで、これらサードパーティ製チップセットがDDR SDRAMメモリ市場の牽引役を務めることになる。記事の終わり

 
IDFで展示されていたもう1枚のALADDiN-P4デモ・ボード
いずれのボードも動作していなかったが、こちらの方が製品に近い。
 
  関連記事
Pentium 4用チップセット「Intel 845」はメインストリームになれるのか?
Intelと共にPentium 4へシフトするチップセット・ベンダ

  関連リンク 
Intel 845に関するニュースリリース
VIA Apollo P4X266の製品情報ページENGLISH
SiS645の製品情報ページENGLISH
ALADDiN-P4の製品情報ページENGLISH
 
「元麻布春男の視点」


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