元麻布春男の視点Pentium 4のDDR SDRAMサポートを先取りする―― Apollo P4X266の性能を検証 ―― |
Intelが2001年9月10日に発表したPentium 4用のチップセット「Intel 845」は、大手PCベンダ製のPCを中心に幅広く採用されている。だが、その人気ぶりは、事前に考えられていたほどではないように思う。その最大の理由は、Intel 850に対して性能面で10%前後劣ることだ(「ニュース解説:Pentium 4用チップセット「Intel 845」はメインストリームになれるのか?」)。加えて、Intel 850が採用するDirect RDRAM(RIMM)の価格が一時に比べて安価になったことも、思ったよりIntel 845の人気が上がらない理由だろう。むしろ、ここにきてIntel 850が見直される傾向にあることは、RIMMの価格が堅調であること、当初は少なかったSocket 478に対応したIntel 850搭載マザーボードを提供するマザーボード・ベンダが、着実に増えていることからも分かる。
もともとIntelのロードマップでは、最高性能を求める上位セグメントはDirect RDRAMをサポートしたIntel 850、ビジネス・クライアントなどコストパフォーマンスが重要なセグメントはSDRAMをサポートしたIntel 845、という棲み分けになっており、同社にしてみれば予定どおり、ということなのかもしれない。しかし、この状態にDDR SDRAMのサポートが加わっても、この棲み分けが成り立つのかどうか、気になるところだ。しかし、IntelがDDR SDRAMをサポートしたIntel 845をリリースするのは2002年第1四半期のこと。現時点でこれを搭載したPCやマザーボードは入手できない。現時点で利用可能なDDR SDRAMサポート・チップセットというと、VIA TechnologiesのApollo P4X266ということになる。
Intelとの訴訟合戦の引き金になった「Apollo P4X266」
Apollo P4X266は、IntelとVIA Technologiesの間で起きている訴訟合戦の直接の原因となったチップセットだ(「ニュース解説:泥沼へ向かうIntelとVIA Technologiesの特許争い」)。係争は米国だけでなくイギリス、香港、ドイツなどでも展開されているおり、VIA Technologiesに加えマザーボード・ベンダやディストリビュータも含まれている。わざわざ訴えたことを明らかにするプレスリリースを出す(一説によるとDECとの係争以来らしい)など、いつになくIntelは本気だ。
こうした状況では、なかなか大手のマザーボード・ベンダもApollo P4X266を採用できない。どちらかというと採用は、中堅以下のベンダに限られるようだ。採用した中堅ベンダも、VIA Technologiesとの「つきあい」の関係で1ロットは作るものの、あとは様子見、というところも多いようだ。こうした状況に業を煮やしたVIA Technologiesは、みずからマザーボードの販売に乗り出す、というニュースまで聞こえてきた(VIA Technologiesの「『VIA Platform Solutions Division』設立に関するニュースリリース」)。
もちろん、Apollo P4X266のマザーボードを買ったからといって、ユーザーがIntelから訴えられるとは思えない。が、マザーボード・ベンダの様子からいって、手厚いサポートが受けられるかというと、難しいかもしれない(バルク品扱いで、サポートを行わないことを明言して販売しているベンダもある)。購入に際しては、こうしたリスクを承知しておくべきだが、現時点でPentium 4対応のDDR SDRAMサポート・チップセットは、Apollo P4X266だけ(間もなくSiSの「SiS 645」が登場すると思うが)。少々気になる存在である。
Apollo P4X266搭載マザーボードはベンダ未サポート?
というわけで、ここではApollo P4X266ベースのマザーボードをテストしてみることにした。用いたのは「85DRV」という名称で売られているもの。パッケージの中に、更新BIOSデータならびに更新ドライバ入手方法について、と題された紙が1枚入っており、本マザーボードのBIOSがサードパーティのWebサイトの「Soltek」欄から入手可能なものの、SoltekのWebサイトからはダウンロードできないこと、初期不良2週間しかサポートしないと明記されている(これはパッケージの外に張っておくべき内容だと思うのだが)。実際、このマザーボードの製造元と考えてまず間違いないSoltekのWebサイトには、このマザーボード(事実上「SL-85DRV」だと考えられる)の情報は一切ない。ユーザー・サポートの面から、製品としてあまり人にはおすすめできないのは間違いないところだ。
Apollo P4X266搭載のマザーボード「85DRV」(拡大写真:82Kbytes) |
中堅マザーボード・ベンダのSoltek製と思われるが、同社のホームページには製品情報が掲載されていない。サポートも非常に限定的であり、あまりおすすめできない製品だ。 |
ただ、マザーボード自体には、それほど奇異なところはない。真っ赤な基板が目を惹くとはいえ、それほど珍しいわけではない。オンボードI/Oは、VIA Technologies製のAC'97 CODECを使ったサウンドくらいのもの。明らかにIDE RAIDと分かる空きの配線パターンはあるものの、このマザーボードには実装されていない。まぁ、サポートのないようなマザーボードで、RAIDによる信頼性を論じても始まらないのだが。拡張スロットの構成はAGP×1、PCI×6、CNR×1と比較的豊富な部類だ。CNRがOEMオプションであることを考えると、利用することがあるのか、はなはだ疑問ではある。Intel製チップセットと違って、AGPスロットが1.5V専用ではない(ユニバーサル・スロットになっている)点が、少々異なるところだろうか。DIMMスロットは3本で、ごく標準的な構成だ。
珍しい(?)のは、電源コネクタが、標準ATX、ATX12V、補助電源(Auxiliary Power)コネクタとフル構成になっていることだ。Socket 423対応でIntel 850ベースのマザーボードでは一般的な構成だが、Socket 478対応の最近のマザーボードでは補助電源コネクタは省略される傾向にある。特に、補助電源コネクタの目的がRIMMへの電源供給だったとされることを考えると、余計に不思議な気がする。Pentium 4対応の電源ユニットは、この3種類のコネクタに対応しているので、あるものは使っておこうというだけのことかもしれない。
Apollo P4X266の性能はIntel 850の5%落ち
さて、気になる性能の方だが、今回も比較の対象はIntel純正のIntel 850マザーボードである「D850MD」だ。プロセッサは、Socket 478対応のPentium 4-2GHz、いずれのマザーボードにも256Mbytesのメモリを実装した。以前、Intel 845とIntel 850を比較したときは、OSがWindows Meだったが、今回はWindows XPのリリースも目前に迫ったこともあり、同じ系統のOSであるWindows 2000 Service Pack 2を選んでみた(読者の多くもWindows MeよりWindows 2000の方を望むのではないかと推測する)。したがって残念ながら直接スコアを比較することはできないが、D850MDのスコアを参考にすれば、比較することが可能だろう。加えて、NVIDIAのディスプレイ・ドライバがバージョンアップしているので注意していただきたい。
Intel 850システム | Apollo P4X266システム | |
プロセッサ | Pentium 4-2.0GHz | Pentium 4-2.0GHz |
マザーボード | D850MD | SL-85DRV |
メモリ | 256Mbytes PC800 RIMM | 256Mbytes PC2100 DIMM(CL2) |
OS | Windows 2000 SP2 | Windows 2000 SP2 |
グラフィックス・カード | Leadtek WinFast GeForce 3TD | Leadtek WinFast GeForce 3TD |
グラフィックス・ドライバ | Detonator 21.83 | Detonator 21.83 |
設定解像度 | 1024×768ドット/32bit色/リフレッシュ・レート85Hz | 1024×768ドット/32bit色/リフレッシュ・レート85Hz |
サウンド | ヤマハ YMF744B | ヤマハ YMF744B |
サウンド・ドライバ | Windows 2000 SP2標準 | Windows 2000 SP2標準 |
ハードディスク | Maxtor DiamondMax Plus 60 | Maxtor DiamondMax Plus 60 |
テストに用いたシステムの構成 | ||
このように、マザーボードとメモリ以外のパーツを共通にしてベンチマーク・テストを実行した。 |
テスト結果については表にまとめておいた。まずSandra 2001*1の結果だが、Intel 850におけるデュアルチャネルのPC800 RIMMのピーク帯域が3.2Gbytes/s、Apollo P4X266におけるシングルチャネルのPC2100のピーク帯域が2.1Gbytes/sであることから、両者の性能比は計算では65.6%になる。これを考えれば、ほぼ予想どおりの数字だといえる(ただしこの数字は直接PCとしての性能とは関係しない)。ほかのテストは、ほぼすべてD850MDに対して5%程度の性能低下で済んでいる。PC133が10%以上性能が悪かったことを思えば、かなり善戦している印象が強い。
*1 SiSoftwareが開発・販売しているベンチマーク・プログラム。整数演算/浮動小数点演算別のプロセッサ性能や、メモリ転送速度などが計測できる。今回は、メモリ転送速度のみ計測した(Sandraの情報ページ)。 |
テスト項目や条件など | Intel 850 | Apollo P4X266 | 対D850MD比 | |
Sandra 2001 | Int ALU/RAM Bandwidth | 1550Mbytes/s | 966Mbytes/s | 62.3% |
Float FPU/RAM Bandwidth | 1571Mbytes/s | 1001Mbytes/s | 63.7% | |
SYSmark 2001 | Rating | 189 | 181 | 95.8% |
Internet Content Creation | 212 | 204 | 96.2% | |
Office Productivity | 169 | 161 | 95.2% | |
3DMark 2001 | 6953 3DMarks | 6609 3DMarks | 95.1% | |
Quake III Arena | Demo2 | 186.8 frames/s | 174.2 frames/s | 93.3% |
ベンチマーク・テストの結果 | ||||
Sandra 2001で計測したメモリの帯域幅は、理論値の65.6%に近い。そのほかのベンチマーク・テストの結果は、Intel 850のおおむね5%ダウンであることから、Intel 845 < Apollo P4X266 < Intel 850の順番で性能が高くなることが分かった。 |
5%の性能差というと、プロセッサのクロックでいうと1ランク下というところ。今回用いたPentium 4-2GHzと1.9GHzの価格差は2万円近いから、メモリの価格差(256Mbytesでおおよそ7000円)とマザーボードの価格差(約5000円)を考えても割に合わない。つまり、Apollo P4X266のマザーボードにPentium 4-2GHzを組み合わせた場合と、Intel 850のマザーボードにPentium 4-1.9GHzを組み合わせた場合で、性能が同等でも後者の方が価格が低いことになる。しかし、Apollo P4X266+Pentium 4-1.8GHzと、Intel 850+Pentium 4-1.7GHzといった組み合わせならば、プロセッサの価格差が小さくなるので、DDR SDRAMという選択肢も有力になってくる。
もちろん、すでに述べたようにApollo P4X266は、係争中ということもあって、マザーボード・ベンダがおよび腰になっており、推奨しにくい面がある。だが、間もなく登場予定のSiS645はDDR-333メモリ(PC2700 DIMM)もサポート可能であり、Intel 850との性能差はさらに縮まるものと思われる。まだPC2700 DIMMの価格が分からないため、どちらが有利になるかは不明だが、かなり期待できるかもしれない。
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関連リンク | |
「VIA Platform Solutions Division」設立に関するニュースリリース | |
SiS 645の製品情報ページ | |
製品情報ページ | |
Sandraの情報ページ |
「元麻布春男の視点」 |
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