元麻布春男の視点
Pentium 4向けチップセット「SiS645」の性能とその代償

元麻布春男
2001/12/14

 前回の「元麻布春男の視点:DDR333対応で注目を集めるPentium 4向けチップセット『SiS645』」で予告したとおり、今回はSiS645を搭載したMicroStar製マザーボード「645 Ultra」を用いて、ほかのPentium 4対応マザーボードと性能比較を行ってみたい。比較用に用意したのは、P4X266搭載の「85DRV」、Intel 850搭載の「D850MV」、Intel 845搭載の「D845WN」の3枚だ。それぞれについて簡単に紹介しておこう。

主なPentium 4向けチップセット

 まず85DRVだが、VIA TechnologiesのP4X266チップセットをベースにしたDDR SDRAM対応のマザーボードだ(このマザーボードの詳細については「元麻布春男の視点:Pentium 4のDDR SDRAMサポートを先取りする」を参照のこと)。ほぼ間違いなく製造元はSoltek Computerなのだが、VIA TechnologiesとIntelが現在このチップセットについて係争中であるため、一種の覆面販売(?)のような形を採用している。645 Ultraと異なり、DDR SDRAMへの対応はPC2100までであり、PC2700(DDR333)には対応しない。つい最近、恒例ともいえるVIA Technologiesのチップセットのバージョンアップが行われ、間もなく性能が向上した新しいリビジョン「P4X266A」が登場するようだが、今回のテストには間に合わなかった。

 D850MVは、Intel 850チップセットをベースにしたIntel純正のATXマザーボードである。MicroATXフォーム・ファクタのD850MDの拡張スロット部を延長したようなデザインを採用している。2チャネルのRambusチャネルを備え、RIMMを2枚単位で増設する必要がある。最も広いメモリ帯域幅を持つが、それがどれくらい実アプリケーションで活用されているか、PC2100の約2倍となるRIMMの価格を正当化できるのかが、いつも問題となる。

 最後のD845WNは、Intel 845チップセットを用いたSDRAM DIMM対応の純正マザーボードだ。秋葉原のPCパーツ・ショップなどでは、PC2100およびPC1600)のDDR SDRAM DIMMをサポートしたB0ステップ(Intel 845Dなどと呼ばれている)のIntel 845チップセットを用いたサードパーティ製のマザーボードが登場し始めているが、これはPC133をサポートした最初のリビジョンのものを採用している。Intel 845+PC133 SDRAMの組み合せは、現在多くのPentium 4搭載PCに使われているものの、性能の点ではIntel 850ベースのシステムには及ばない。

645 Ultraの成績はよいものの……

 この3枚に645 Ultraを加えた合計4枚のマザーボードに、それぞれに適合したメモリと下表の周辺機器を組み合せ、ベンチマーク・テストを実施した。行ったテストは、メモリの帯域幅確認用に「Sandra Professional」*1、DirectX 8.0ベースの3Dグラフィックス・ベンチマーク・テストである「3DMark 2001」、そして実アプリケーション・ベースのベンチマーク・テストの定番である「SYSMark 2001」の3種類だ。これをWindows 2000 Professional(Service Pack 2を適用)上で実行している。

プロセッサ Pentium 4-2GHz
グラフィックス・チップ NVIDIA GeForce 3
グラフィックス・ドライバ DetonatorXP 23.11
イーサネット 3Com 3C905-TX
サウンド ヤマハ YMF744Bサウンド・コントローラ
DirectX DirectX 8.1
ハードディスク Maxtor DiamondMax Plus 60 40Gbytes
(7200RPM Ultra ATA/100対応ハードディスク)
テストに用いた周辺機器など
 
*1 SiSoftwareが開発・販売しているベンチマーク・プログラム。整数演算/浮動小数点演算別のプロセッサ性能や、メモリ転送速度などが計測できる。今回は、メモリ転送速度のみ計測した(Sandraの情報ページ)。

 結果は以下の表にまとめておいた。Sandra Professionalの結果は、それぞれのメモリ・デバイスがサポートするピーク帯域にほぼ従ったものになっており、特に驚くことはない。しかし、3DMark 2001とSYSMark 2001の結果は、若干驚くべきものとなった。645 Ultraの成績がきわめて(Sandra Professionalが示すメモリの帯域以上に)良好で、D850MDの成績に肉迫したのである。特にP4X266とD850MDの差、D850MDとD845WNの間の差を考えれば、PC2700を用いた645 UltraとD850MDの差はないに等しいといえるほどだ。

マザーボード 645 Ultra 85DRV D850MD D845WN
チップセット SiS645 P4X266 Intel 850 Intel 845
メモリ PC2700 CL2.5 PC2100 CL2.5 PC800 PC133 CL2
メモリ帯域幅の理論ピーク値 2666
Mbytes/s
2133
Mbytes/s
3200
Mbytes/s
1066
Mbytes/s
Sandra 2001 Ver.1.11.8.53 Int iSSE2 1515
Mbytes/s
1129
Mbytes/s
2045
Mbytes/s
848
Mbytes/s
Float iSSE2 1502
Mbytes/s
1123
Mbytes/s
2071
Mbytes/s
849
Mbytes/s
3DMark 2001 6996 3DMarks 6587 3DMarks 7007 3DMarks 6269 3DMarks
SYSMark 2001   Rating 184 174 186 167
Internet Content Creation 210 199 212 187
Office Productivity 162 153 163 149
ベンチマーク・テストの結果(チップセットの違い)

 だが、残念ながら645 Ultraもよいことばかりではなかった。85DRV、D850MD、D845WNの3枚のマザーボードがどのテストにおいても(特にシステム負荷の高いSYSMark 2001において)、まったく動作に問題なかったのに対し、645 Ultraは時折ベンチマーク・テストの進行が停止してしまうという問題に見舞われた。ここに掲載した結果を得たときも、SYSMark 2001の「Internet Content Creation」と「Office Productivity」の両方で、それぞれ1回ずつ停止し、リセットを余儀なくされている。ちなみに、3DMark 2001については、1度もそのような問題は生じなかった。

 それではというわけで、メモリをPC2100に変えてみることにした。メモリの帯域は減少するが、市場に出て間もないPC2700と異なり、すでに1年近い実績のあるPC2100メモリなら安定動作が期待できるのではないか、と思ったのである。PC2100メモリは、256Mbytes PC2100 DIMM(CL2.5)と、128Mbytes PC2100 DIMM(CL2)×2枚の2通りを用意した。

 しかし、結果は好転どころか、かえって悪くなってしまった。次の表を見れば分かるとおり、今回筆者はPC2100メモリを装着した状態で、645 UltraでSYSMark 2001のスコアを得ることができなかった。それどころかCL2のPC2100 DIMMでは、Windows 2000の起動さえ不可能だった。これは、PC2100 DIMMを搭載した状態で、OSのインストールができなかったというだけでなく、PC2700 DIMMでインストールしておいたWindows 2000の起動さえもできなかった、ということを意味している。確かに、このPC2100 DIMMは少し前に購入したものだが、同じDIMMで85DRVの方は何の問題もなく動作しており、CL2.5のDIMMを用いた場合より、若干だがスコアがよくなる傾向がある。今回テストを行うに際してメモリに関する設定は、できるだけSPDによる自動設定を用いるようにしたが、645 Ultraにおいては、手動で最も安全な設定を試してみても、特に動作安定性に関しての変化はなかった。

マザーボード 645 Ultra 645 Ultra 85DRV
チップセット SiS645 SiS645 P4X266
メモリ PC2100 CL2.5 PC2100 CL2 PC2100 CL2
Sandra 2001 Ver.1.11.8.53 Int iSSE2 1227Mbytes/s N/A 1170Mbytes/s
Float iSSE2 1210Mbytes/s N/A 1172Mbytes/s
3DMark 2001 6757 3DMarks N/A 6598 3DMarks
SYSMark 2001 Rating N/A N/A 174
Internet Content Creation N/A N/A 199
Office Productivity N/A N/A 153
ベンチマーク・テストの結果(メモリの違い)

645 Ultraの性能の代償

 もちろん、今回のテストだけでSiS645チップセットが安定性に欠けるというつもりはないし、645 Ultraというマザーボードにしても、PC2100 DIMMで絶対に動かないなどと断言するつもりもない。だが、まだ最初の世代の製品だけに、初期トラブルがすべて解消していないことは大いに考えられる。あるいは645 Ultraが性能にこだわる余り、メモリまわりの設定をチューニングし過ぎた、ということもあり得ることだろう。だが、現時点で筆者はSiS645ベースのマザーボードを購入して、すぐ仕事に使う気に到底なれないのも事実だ。

 DDR SDRAM DIMMが登場して、早くも1年が過ぎた。秋葉原などではかなりポピュラーなデバイスとなっているものの、大手PCベンダへの採用は、1年経ってもあまり進まなかった。そのせいなのか、マザーボードとメモリ間の互換性にはなお問題が残るようだ。結局、間もなく登場するDDR SDRAM対応のB0ステップのIntel 845が標準を確立するまで、DDR SDRAM DIMMは安心して買えるものにならないように思う。記事の終わり

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  関連リンク 
Sandraの情報ページ
 
「元麻布春男の視点」


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