RFID+ICブックレビュー

RFIDを知り、エンジニアとなる必携の3冊


岡田 大助
@IT編集部
2007年11月26日

 RFIDが注目されて数年が経過したが、寄せられている期待ほどに導入は進んでいない。その理由として、コスト面やRFIDタグの読み取りの確実性などの課題が挙げられているが、おそらくその根本にあるのは「RFIDとは何か」という質問に対して、複数の回答がなされるためではないだろうか。

 RFIDとは、無線を使った個体認識技術のことである。しかし、関与するユーザーの視点によってさまざまな“RFID”が存在してしまうのが、RFIDへの理解を複雑なものにしている。

 RFIDタグやリーダ/ライタといったハードウェアは、バーコードや二次元バーコードと同様、単なるコード情報の入力インターフェイスに過ぎない。しかし、RFIDというキーワードから最初に連想されるものでもある。

 ミドルウェアやデータベースを組み合わせることで、RFIDは対象に付与したIDを取り扱うための情報インフラとなる。さらに視点を変えてみると、複数のRFIDシステム間をまたがるフレームワークやアーキテクチャへの理解や、アンテナとRFIDタグ間のソフトウェアプログラミングも含めた電波制御のノウハウが求められる。

 利用者(エンドユーザー)の視点に立てば、RFIDを使ったサービスは新たな付加価値をもたらす社会インフラになる可能性と同時に、プライバシーやセキュリティ、健康面への影響といった安心・安全への理解が必要になる。

 RFIDに対する関わり方はさまざまだ。そこで今回は、RFIDの導入を検討していたり、RFIDについて知りたいと思っていたりする入門者向け、RFIDのハードウェアや標準化されつつあるアーキテクチャについて知識を求めているRFIDエンジニア向け、およびRFIDシステムを構築するためのノウハウを求めるコンサルタントや導入担当者向けに最適な3冊をピックアップした。どの書籍もRFIDの基礎知識は押さえている。自分が必要とする情報に多くの筆を割いている書籍を選ぶとよいだろう。

■事例を中心にRFIDの基礎知識や標準化動向を知る

RFIDの現状と今後の動向

NTTコムウェア株式会社研究開発部 著
オーム社 2005年
定価1800円+税
ISBN4-88549-024-3


 本書は、これからRFIDについて学ぼうと思う入門者に最適である。RFIDタグの形状や周波数帯、アンテナの種類と特性などの基礎知識はもちろん、NTTコムウェアが取り組んだものを中心に数多くの事例がまとめられている。

 特に第2章では、周波数帯の割り当てを含むRFIDの標準化動向として、EPCglobalとユビキタスIDセンターの取り組みを分かりやすく解説している。ファクトリーオートメーション(FA)分野など企業内における閉じたRFIDシステムの普及は進んでいるものの、大きな導入効果が期待される複数企業間・業種間にまたがるRFIDネットワークを構築するためには、これら2つの標準化団体が何を目標として活動しているのかを押さえておく必要があるだろう。

 第3章では、FeliCa技術を中心とした非接触ICカード技術にも触れている。非接触ICカード技術は、電波を使ってデータの交換を行う基礎的な仕組みはRFIDと同じだが、モノを対象とするRFIDに比べると、ヒトを対象とする非接触ICカード技術はどのような差異があるのか。しかし、RFIDシステムの事例に比べると、非接触ICカード技術の事例がほとんど掲載されていないのが残念である。

■デファクト製品の特徴を詳細に学ぶための教科書

ポイント図解式RFID教科書
ユビキタス社会に向けた無線ICタグのすべて


岸上順一 監修
アスキー 2005年
定価3500円+税
ISBN4-7561-4561-2


 “教科書”と銘打つだけあって、RFIDの歴史から技術的原理、アーキテクチャ、アクティブタグを中心とした将来像、セキュリティとプライバシー問題、電波法などを網羅的に解説している。RFIDシステムに関与するために必須となる多くの専門用語や概念を学ぶためには必携の書となるだろう。

 最もボリュームが割かれている第2章の技術的原理では、電磁気学の専門書ほど詳細ではないものの無線技術の基礎を学ぶことができるほか、フィリップス(現NXPセミコンダクターズ)のHF帯製品「ICODE SLI」、UHF/ミリ波帯製品「UCODE」、FRAMメモリを搭載した富士通のRFIDタグ用LSI、日立のミューチップについて、動作原理や特性を詳細に解説している。特にミューチップについては、第3章でアーキテクチャについても触れている。

 本書において、RFIDの未来はアクティブタグに大きな期待をかけているようだ。アクティブタグとはタグの内部に電池を搭載したもので、いわゆるRFIDタグと呼ばれているパッシブタグに比べると通信距離が長くなったり、暗号化用のLSIや各種センサー用LSIと組み合わせたりと、応用範囲が広くなる。また、タグ同士がネットワークを構築しデータを転送していくマルチホップの可能性にも触れている。

 RFIDをめぐるセキュリティやプライバシーの問題については、RFIDの技術的原理とほぼ同程度のページ数をもって問題の整理と技術面および制度面からの解決策をまとめている。同様の問題を取り扱う書籍の多くが技術面での対応を取り上げているのに対して、本書の「プライバシー権とは何か」というところからスタートする社会科学的な切り口は一読に値するだろう。

■現場の空気を感じられるRFIDエンジニア必携のバイブル

RFID+ICタグ システム導入・構築標準講座

西村泰洋 著
翔泳社 2006年
定価2800円+税
ISBN4-7981-1268-2


 筆者は、最前線でコンサルティングを行ってきたRFIDシステム構築の専門家であり、@IT RFID+ICフォーラムにて執筆を続けている西村泰洋氏である。本書は当フォーラムにて連載された「RFIDシステム導入バイブル」「RFIDプロフェッショナル養成バイブル」を基に加筆修正を行っている。

 この本は、RFIDエンジニアとして生きていくために必須の知識だけでなく、役割や考え方の習得に重きを置いているのが特徴的である。RFIDシステム構築を成功させるためにはどうすればいいのか、留意しなければいけないポイントはどこなのか。RFIDエンジニアが突き当たる壁を突破するための“バイブル”となるだろう。

 RFIDシステムのハードウェアやソフトウェアに関する解説のアプローチも変わっている。多くの書籍では、カタログのように各種製品を横並べに紹介することが多いが、本書では、どのような要件のRFIDシステムが求められているのかという課題に対して、最適なハードウェア/ソフトウェアの選び方を基にした特性の解説が行われる。

 RFIDにエンジニアとして携わっている方だけでなく、これからRFIDエンジニアになりたいと思っている方に対しても、現場の空気に触れられるという点でお勧めしたい。

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