第4回 RFIDのハイブリッド化がもたらすブレイクスルー


河西 謙治
株式会社NTTデータ
ビジネスイノベーション本部
ビジネス推進部
課長
2006年9月2日
WebがWeb2.0へとシフトするのと同様に、RFIDもRFID2.0へと進化する可能性を秘めている。標準化されたRFIDの仕様や開発事例を引きながらRFID2.0のポテンシャルを探る(編集部)

 本連載の第1回「進むRFID標準化と実証実験」で、RFIDの普及が当初想定されていたよりも遅れていると述べた。その理由として、RFIDの低コスト化および性能向上がまだ途上段階にあることや現時点ではRFIDの特徴を生かしたキラーソリューションといえるようなサービスが出てきていないことが挙げられる。

 これらの課題は一朝一夕に解決されるものではないという事実がある中で、RFIDの課題を補完しつつ長所を強化するものとして、「RFID+X」と呼ばれるRFIDが登場し始めている。RFID+Xとは、RFIDとほかの機能を持つデバイスなどを物理的にハイブリッド化させることにより、それぞれの機能と付加価値を相乗的に向上させたものである。

 具体的には、RFIDと光、音、振動、温度、湿度、加速度などの各種センサー、リライタブルシート、GPS(全地球測位システム)、USBメモリといったものが1つのデバイスとして統合され、タグの持つID情報やメタ情報とセンサーなどが計測する情報をひも付け、複合的に利用することにより、その付加価値を高めるものである。

 今回は、RFID2.0時代においてRFID+Xがもたらすと考えられる付加価値(もしくはRFIDが苦手とする部分の補完)を、NTTデータが参画した2つの実証実験を取り上げながら見ていくこととしたい。

 事例1:「生酒」流通実証実験(RFID+温度センサー)

 生酒は、蔵元出荷から消費者の手に渡るまでのすべての過程で厳密な温度管理(常に12度以下)が必要であるため、市場に広く流通させることができない商品であった。

 本実験は、酒瓶を梱包する段ボールに温度センサー付きアクティブRFID【注1】を添付することによる流通過程でのリアルタイムでの温度履歴管理の実現と、各酒瓶に付けたラベル型パッシブRFID(13.56MHz)を使った小売店店頭での商品情報提供による販売促進効果を検証するものである。

「生酒」流通実証実験(画像をクリックすると拡大します)

 実証実験は2006年3月27日から4月19日まで行われた。参加企業はNTTデータ、トッパン・フォームズ、日本アクセス、日野自動車、フィールド協力企業として吉乃川、末廣酒造、マルエツである。それぞれの企業の担当は以下のとおりである。

●実験企画・参加企業

NTTデータ:情報提供プラットフォームの構築、RFIDシステムの構築
トッパン・フォームズ:温度センサー付き無線ICタグ、無線ICタグ(薄型ラベル)、KIOSK端末の提供
日本アクセス:全体のコーディネートおよび物流センターでの入出荷業務協力とフィールドの提供
日野自動車:E-CRBシステム【注2】搭載ハイブリッドトラックの提供

実証実験フィールド

蔵元:吉乃川 昌和蔵(新潟県)、末廣酒造 嘉永蔵(福島県)
小売店:マルエツ「LINCOS立川若葉台店」(東京都)

【注1】
温度センサー付きアクティブRFID

今回使用したのは、バッテリーを搭載したアクティブ型RFID(303.2MHz)に温度センサーを内蔵させた新しいタイプのセンシングツールである。アクセスポイントから約10メートルの範囲内において無線による識別・計測温度の読み出しが可能なため、温度管理が重要な製品のトレーサビリティツールとして有効である。現在の市販の温度計測器などに比べ、小型かつ超低価格な製品を目指して開発中である。



【注2】
E-CRB(移動式電気冷蔵庫)

トラックのハイブリッドシステムから専用インバータを介して、荷室に搭載したE-CRBへ電力(AC100V)を継続的に安定供給することで、精度が高い温度管理輸配送を実現する新しい低温物流システムである。輸配送物をE-CRBに収めたまま、E-CRBごと車両への積み込み、積み下ろし、一時保管を行うことができるため、切れ目のないコールドチェーンを構築することが可能となる。高精度の温度管理により産地の“おいしさ”をそのまま消費地まで長距離輸送できる。


 温度センサーとのハイブリッドは実用化レベル

 この実証実験では、店頭に設置した情報表示端末で、温度履歴管理による商品の安全性やこだわり製法、飲み方などの付加価値情報を提供し、消費者の受容性を評価した。また、消費者の受容性の検証によりトレーサビリティシステムなどへの連動も検討された。

 実験を通じて得た消費者の反応として、「温度情報」に対する閲覧率は「蔵元情報」と比較しても閲覧率が高く、消費者に品質に対する一定の関心があることが確認できた。実際に、22日にわたる店頭での実験期間中、延べ680の商品情報がKIOSK端末で閲覧された。商品情報を閲覧した消費者(延べ272人)のうち、67.6%(延べ184人)が「温度履歴画面」を参照している。

 売り上げについては、マルエツ・チーフバイヤーが過去実績を考慮して当初は1日5000円という予想を立てたのだが、実験期間中の1日当たり平均7500円の売り上げを達成できた。これは、生酒の効果的な陳列、マネキンによる販促、そしてKIOSK端末による付加情報の提供を、売り場全体の提案として実施した結果である。

 流通過程においては、現状、目視確認やバーコード読み取り、重量確認に依存している入出荷検品など物流作業を効率化する仕組み、賞味期限管理や温度履歴管理など徹底した品質管理の向上のための仕組みが検討された。

 また、流通過程における物流情報や品質情報などの情報一元管理による効果を検証するとともに、リアルタイムな温度履歴データの取得・提供により、流通過程における品質保持状態の把握、品質劣化など問題が発生した場合の改善策への活用も検討・評価項目であった。

 このほか、温度センサー付きアクティブRFIDの電波伝搬特性、技術的仕様および有効性と実用性、温度センサー付きアクティブRFIDとハイブリッドトラックに搭載したE-CRBシステムとの連動に関する技術的実現性やE-CRBシステムの技術的有効性と実用性が検討された。

 実験の結果、温度センサー付きアクティブRFIDは温度情報をリアルタイムかつ高精度で収集できるツールとして有効であることが分かった。実際に、温度情報を1分間隔で収集が可能だったうえ、各ダンボールという局所単位の温度まで収集できた。

 また、梱包状態に影響されずに入出荷検品作業の自動化ツールとしても有効であることが確認された。10メートル以上の通信距離によって入出荷検品のための作業を軽減でき、金属壁で構成されているE-CRB内部からも高度の受信率を得た。

 一方、E-CRBも蔵元から店舗まで温度上昇が皆無のコールドチェーンの実現に有効であった。実験によって、生酒の品質保持に十分な温度管理条件下で輸配送が実現可能であることが確認できたほか、蔵元、店舗などの保冷庫まで移動して商品の積み込み・積み下ろしを行うことが可能である。

 RFID+温度センサーの当面の最も親和性の高い適用先としては、流通過程で温度管理の必要な高級食材(生酒、ワイン、フルーツ)、医薬品といった分野が想定される。

 
1/2

Index
RFIDのハイブリッド化がもたらすブレイクスルー
Page1
事例1:「生酒」流通実証実験(RFID+温度センサー)
温度センサーとのハイブリッドは実用化レベル
  Page2
事例2:生産・物流効率化実証実験(RFID+リライタブルシート)
事例から見るRFID+Xへの期待と今後
 


RFID2.0時代に備えるRFID入門 連載インデックス


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