第1回 ユビキタスIDアーキテクチャの全体像
YRPユビキタス・ネットワーキング研究所
所長
坂村 健(東京大学教授)
2007年9月27日
本記事は、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所の許諾を得て、「ユビキタスID技術および関連評価ツールの紹介」を編集、転載したものです(編集部)
本連載では、ユビキタスID技術とその利用法について、2回にわたって解説します。今回は、ユビキタスIDアーキテクチャの全体像と、ユビキタスIDの基本的な技術である「ucode」「ucodeタグ」について解説します。第2回では、ucodeを用いた情報表現フレームワークである「UCR Framework」と、ユビキタスID技術の利用法について解説します。
ユビキタスID技術概説
本章では、モノ・空間・概念を等価に識別する固有の識別子ucode(ubiquitous code)に基づいた情報流通基盤である、ユビキタスIDアーキテクチャの技術を概説します。
ユビキタスIDアーキテクチャの全体像とその特長
ユビキタスコンピューティングとは、生活空間のあらゆる事物─例えば家電製品だけでなく壁や家具、床など─に計算能力が付与され、自律的になり、それらが情報を交換しながら協調動作をして、人間生活をサポートする技術です(図1)。
図1 屋内におけるユビキタスコンピューティングのイメージ |
またユビキタスコンピューティングとは、屋内に留まらず、屋外の電柱や看板などにも計算能力を付与し、自律的にし、それらが情報を交換しながら協調動作をして、人間生活をサポートする技術です(図2)。
図2 屋外におけるユビキタスコンピューティングのイメージ |
このようなユビキタスコンピューティングを実現する上で、実世界上のコンテキスト(context:状況)を認識することは重要な課題です。このことをcontext-awarenessといいます。context-awarenessを実現するためには、コンテキストとなり得る実世界のさまざまなモノや空間および概念を認識することが不可欠です。
認識するためにまず必要なことは、物を識別する、つまり「ある物と別の物が違う物であることが分かる」ことです。これを最も簡単に実現する手法として、識別したい物それぞれに違う番号を振るという方法があります。ユビキタスIDアーキテクチャとは、識別したい個々のモノや空間および概念に対して付与する固有の番号と、その番号をキーとして個々のモノ・空間・概念に関する情報を管理するアーキテクチャです。
ユビキタスIDアーキテクチャでは、識別したい個々のモノや空間および概念に振る固有の番号をucodeと呼びます。ユビキタスIDアーキテクチャは、モノや空間および概念を同じ枠組みで扱うという特徴を持っています。
ucodeを格納する媒体をucodeタグと呼びます。ユビキタスIDアーキテクチャでは、ucodeタグとして、バーコード、RFIDタグ、アクティブセンサなど、さまざまな種類のタグを扱うことができます。このucodeタグには、基本的にucodeのみを格納し、ucodeの振られたモノや空間に関する情報は、ネットワークの先にあるデータベースに格納します。
このように、モノや空間の識別と情報の管理を分離することにより、例えばあるモノに関する情報を即座に更新する、そのモノに対する最新の情報を取得する、あるモノに関係する他のモノの情報を取得する、というような運用ができます。更新頻度の低い情報をucodeタグ自身に格納することもできます。ucodeタグに格納する情報も、ネットワークの先にあるデータベースに格納する情報も、UCR Frameworkと呼ばれる共通の表現フレームワークに基づいて表現されます。
ucodeを読みとり、そのucodeに基づくサービスを利用者に提供する端末をユビキタスコミュニケータ(Ubiquitous Communicator)と呼びます。ユビキタスコミュニケータは、ユーザーの指示するucodeタグを読み取り、タグに格納されたucodeをキーとしてそのucodeに関連する情報またはその情報が格納されたucode情報サーバの位置をネットワークから引き出し、その情報を表示します。
ucodeに関連する情報─例えばucode間の関係やucodeの振られたモノに対する説明コンテンツ、そのコンテンツの格納されているサーバの位置など─を管理する広域分散データベースをucode関係データベース(ucode Relation Database)と呼びます。
ユビキタスIDアーキテクチャは、耐タンパ性ハードウェアを利用して、価値のある情報を偽造、複製、改変といったさまざまな脅威から守り、安全に流通させるセキュリティ基盤アーキテクチャであるeTRONアーキテクチャを採用することにより、セキュアな広域分散システムとなっています(図3)。
図3 ユビキタスIDアーキテクチャの基本メカニズム |
ユビキタスIDアーキテクチャは、実世界にあるモノのucodeや、空間を識別するucodeをトリガとして、機器の状態取得や制御、情報やサービスの提供を行うための共通プラットフォームです。ユビキタスIDアーキテクチャは、応用分野を選びません。業種をまたいだ応用にも適用できます(図4)。
図4 ユビキタスIDアーキテクチャの多彩な応用 |
ユビキタスIDアーキテクチャは、ucodeタグの張ってあるモノに代表される現実世界と、データベースやサーバに格納された情報に代表される仮想世界との橋渡しをする重要な基盤アーキテクチャであるといえるでしょう。さらにユビキタスIDアーキテクチャは、基本的に仕様が公開されるオープンアーキテクチャです。
まとめますと、ユビキタスIDアーキテクチャは、以下の7つの特長を持っています。
1. さまざまな応用分野に適用できる
ユビキタスIDアーキテクチャは、さまざまな応用分野に対応できます。業種をまたいだ応用にも適用できます。
2. さまざまなタグが使える
ユビキタスIDアーキテクチャは、さまざまな種類のタグを扱えます。例えば、最も安価なタグとしてucodeを表記してモノに張ったバーコードや2次元コードを用います。また、より安全なタグとして、暗号・認証通信機能を備えたスマートカードも用います。ユビキタスIDアーキテクチャは、ucodeの用途や応用への要求に応じて、さまざまなタグを選択できる枠組みを提供しています。
3. モノ・空間・概念を同じ体系で識別する
ユビキタスIDアーキテクチャでは、モノだけでなく空間や概念にもucodeを割り振ることができます。このため、空間や概念もモノと同じ手法で識別することができます。
4. ネットワークを前提とする
ucodeタグには、基本的にucodeのみを格納します。ucodeを割り振ったモノに関する情報をネットワーク先のデータベースに格納します。このように、モノの識別と情報の管理を分離することにより、例えばあるモノに関する情報をリアルタイムに更新する、そのモノに対する最新の情報を取得する、あるモノに関係する他のモノの情報を取得する、というような運用ができます。
5. タグ側とネットワーク先に置く情報の表現モデルを共通化する
ユビキタスIDアーキテクチャでは、更新されない情報をucodeタグに格納することもできます。このとき、ucodeタグに格納する情報も、ネットワーク先のデータベースに格納する情報も、UCR Frameworkと呼ばれる共通の表現モデルに基づいて表現されます。
6. セキュリティ機構を持つ
ユビキタスIDアーキテクチャは、耐タンパ性ハードウェアを利用して、価値のある情報を偽造、複製、改変といったさまざまな脅威から守り、安全に流通させるセキュリティ基盤アーキテクチャであるeTRONアーキテクチャを採用することにより、セキュアな広域分散システムとなっています。
7. オープンアーキテクチャである
ユビキタスIDアーキテクチャの仕様は、基本的に公開されます。
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ユビキタスIDアーキテクチャの全体像 | |
Page1 ユビキタスIDアーキテクチャの全体像とその特長 |
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Page2 ユビキタス情報システム ucode ucodeタグ |
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