第1回 ユビキタスIDアーキテクチャの全体像
YRPユビキタス・ネットワーキング研究所
所長
坂村 健(東京大学教授)
2007年9月27日
本記事は、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所の許諾を得て、「ユビキタスID技術および関連評価ツールの紹介」を編集、転載したものです(編集部)
ユビキタス情報システム
ユビキタスID情報システムとは、ユビキタスIDアーキテクチャに基づく情報システムです。ユビキタスID情報システムは、以下の構成要素をもちます(図5)。
1. ユビキタスコミュニケータ
ユビキタスコミュニケータとは、ucodeを取得し、そのucodeにひも付けられた情報を提供する端末です。
2. ucode関係データベース
ucode関係データベースとは、ucodeの関係を管理する広域分散データベースです。
3. ucode情報サービス
ucode情報サービスとは、ucodeにひも付けられた情報を提供する具体的なサービスです。例えば、場所情報システムやサプライ・チェーン・マネージメント(Supply-Chain Management:SCM)、ユビキタス・トレーシングシステム(Ubiquitous Tracing System:UTS)などのサービスをいいます。
4. コンテンツ
コンテンツとは、ucodeにひも付けられた、ucode情報サービスが提供する情報です。具体的にはHTMLページや地図、動画、音声などを指します。
5. ucodeタグ
ucodeタグとは、ucodeを格納する媒体です。ユビキタスID情報システムは、バーコード、2次元コード、RFID、電波マーカー、赤外線マーカーなど、さまざまなucodeタグを利用します。ucodeタグの詳細は後述します。
6. Public Network
Public Networkとは、ユビキタスコミュニケータとucode関係データベースやucode情報サービスを提供する媒体であるucode情報サーバと接続するためのネットワークです。具体的にはインターネットや携帯電話網などがこれに該当します。
ユビキタスID情報システムは、ucodeにひも付けられた情報を取得する過程、またその取得した情報自体を保護するためのセキュリティ基盤や、OS/ミドルウェア、HMI(Human-Machine Interface)などの基盤技術の上に構築されます。
図5 ユビキタスID情報システムの構成 |
ucode
ucode(ubiquitous code)は、ユビキタスIDアーキテクチャが識別する実世界のモノや空間および概念にそれぞれ割り付ける固有の識別子です。ucodeは、空間や概念をモノと同じように識別できる識別子です。
ucodeは以下の5つの特長を持っています。
- 固定長である
- 個体を識別する
- 誰でも発行できる
- 既存のコードを包含できる
- ucode自体に意味を持たない
1. ucodeは固定長
ucodeは128bitを基本とするコード体系で、これは、2128≒3.4×1038=340,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000個のucodeからなる膨大な空間です。これは1兆人がそれぞれ1日に1兆個使ったとして1兆年使える空間です。またucode体系は256bit、384bitというように、128bit単位でコード長を拡張できる枠組みを備えています。
2. ucodeは個体識別番号
ucodeは、対象1つ1つに対する固有の識別番号体系です。現在バーコードで使用されている商品の種類を表す体系と異なり、同じ銘柄を持つお茶のペットボトルそれぞれに異なるucodeを割り振って、それらのペットボトルを識別することができます。
3. ucodeは誰でも発行可能
あるucodeを発行するとは、以下の2つの作業を完了させることです。
- そのucodeをユビキタスコミュニケータで取得できる状態にする作業。例えばそのucodeを格納したucodeタグを生成し、モノや場所に張り付ける作業
- そのucodeに関する情報をucode関係データベースに登録する作業
ucodeおよびユビキタスIDアーキテクチャ全体を管理運営する非営利団体であるユビキタスIDセンターや、それが認定する組織に申請すれば、誰でもucodeの発行を受けることができます。これにより、誰でも自分のucodeを持つことができます.
4. ucodeは既存のコードを包含可能
ucodeは、既存の各種コードを包含することができるメタコード体系を有しています。代表的な既存のコード体系には、例えばUPC、EAN、JAN、ISBN、IPアドレス、電話番号などがあります。ucodeは、128bitとして広大な空間を利用してこれら既存のコード体系を包含できる枠組みを持っています。
5. ucode自体は意味を持たない
ucodeは、そのコード値自体に意味を持っていません。このため、業種をまたいだ流通シーンなど、利用の過程で意味が変わるような応用にも適用できます。ucodeと意味を結びつける機構としてUCR Frameworkがあります。
ucodeタグ
ucodeを使った情報サービスを実現するためには、モノとucodeを結びつけるメカニズムが必要です。ucodeを格納する媒体、つまりモノにucodeを付与する装置を、ユビキタスIDアーキテクチャではucodeタグ(ucode tag)と呼びます。
現在、ucodeタグとして利用可能なデバイスの1つであるRFIDが世界的に注目されています。ユビキタスIDアーキテクチャでも、RFIDをucodeタグの重要なデバイスの1つとして扱います。ただし、ucodeタグをRFIDに限定せず、さまざまなucodeタグを使用する枠組みを提供します。
ユビキタスIDアーキテクチャでは、例えば、最も安価なucodeタグとして、ucodeを表記してモノに張ったバーコードや2次元コードを利用することができます。また、より安全なucodeタグとして、暗号・認証通信機能を備えたスマートカードも利用できます。ユビキタスIDアーキテクチャは、ucodeの用途や応用への要求に応じて、さまざまなucodeタグが選択できる枠組みを提供しています。
しばしばRFIDはバーコードを代替するものとして位置付けられることが多いです。しかし、ユビキタスIDアーキテクチャは、バーコードとRFIDは共存し、それぞれの利害得失に応じて使い分けるべきであるという考えに基づいて構築されています。RFIDに関しても、それを単一種類に限定するのではなく、構造が容易で安価なものから高機能で高価なものまで、さまざまな種類のRFIDを包含しています。
また、非接触通信部分における電波周波数も複数種類をサポートし、適用される応用条件に応じて使い分けることを前提としています。
ユビキタスIDセンターは、ucodeタグ体系として現在2種類の分類基準を設け、タグの多種多様化と分類基準の厳格化に対処しています。この分類基準の1つは「セキュリティクラス(Class)」であり、もう1つは「インタフェースカテゴリ(Category)」です。
セキュリティクラスは、タグが備えるべきセキュリティ、プライバシ保護に関する機能によるクラス分けです。インタフェースカテゴリは、ユビキタスコミュニケータが備えるタグインタフェース装置に対応した分類です。
ucodeタグのインタフェースカテゴリによる分類基準を表1に、セキュリティクラスによる分類基準を表2に示します。
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表1 ucodeタグのインタフェースカテゴリによる分類基準 |
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表2 ucodeタグのセキュリティクラスによる分類基準 |
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Index | |
ユビキタスIDアーキテクチャの全体像 | |
Page1 ユビキタスIDアーキテクチャの全体像とその特長 |
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Page2 ユビキタス情報システム ucode ucodeタグ |
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