特集
NAS導入事始め

1. NASの概要と選択ポイント

デジタルアドバンテージ
2002/06/20


NASの中身

 NASのハードウェアは、x86系プロセッサを搭載したPCアーキテクチャをベースにしたものが多いようだ。PowerPCやMIPSなどのRISC系プロセッサを採用した製品の中には、SOHO向けにブロードバンド・ルータなどと一体化したものも登場している。汎用性が必要とされず、特定の機能さえ実現されていればよいアプライアンス・サーバという性格からか、本体のサイズや形状、使用するプロセッサなど各機種ごとに異なっており、標準的なハードウェア構成というのはないようだ。

 ハードディスクの構成は、機種によって異なるが、エントリ・クラスのNASでもRAID 1を、多くのNASはRAID 5をサポートしており、ハードディスクの冗長構成が可能となっている。エントリ・クラスのNASでも、ハードディスクの容量が大きくなっているため、40Gbytes以上のデータ領域が確保できるようになってきている。ミッドレンジ・クラス(20万〜100万円)のNASともなると、3〜8台のハードディスクが内蔵可能で、100G〜1Tbytesのデータ領域が確保可能だ(外部増設ディスクにより数Tbytesをサポートするものもある)。

 専用OSとしては、当初はLinuxやBSD UNIXをベースにしたものがほとんどであったが、2002年に入りWindows Powered Network Attached Storage(Windows Powered NAS)の採用が増えつつある。Windows Powered NASは、Windows 2000 Advanced ServerをベースにNASを実現するのに不要なサービス/アプリケーション類を省き、NASの運用に必要な設定や管理をWebブラウザで行うための「Web UI」を実装したものである。Windows 2000 Advanced Serverをベースとしているため、Windowsネットワークとの親和性が高く、ドメイン・ネットワークであればユーザー管理などをドメイン・コントローラで統合できるメリットがある。

日本クアンタム ストレージのNAS「Snap Server 2000」
専用OSにFreeBSDを採用したNAS。容量80Gbytesディスク×2のRAID 0で最大160Gbytesのデータ領域を持つ(RAID 1に設定可能)。

 そのほかLinuxやBSD UNIXベースのNASの中には、専用OSの本体をフラッシュメモリやROMに搭載して起動の高速化を実現しているものもある(フラッシュメモリにOSを搭載することで、ハードディスクの故障でOS本体が失われることがないというメリットもある)。Windows Powered NASの場合、電源オンから実際にファイル共有が行えるようになるまで10分以上の時間がかかるが、LinuxやBSD UNIXベースの場合は5分程度で起動可能というメリットがある。また、Windows Powered NASは、20万円以上のミッドレンジ・クラスの製品が多いが、LinuxやBSD UNIXベースでは10万円程度のエントリ・クラスからハイエンド・クラスまで多様な製品がラインアップされており、選択肢が広いのも特徴である。

 ただ、こうしたハードウェアや専用OSの違いは、クライアントPCがファイル共有を利用するときに意識することはない(ハードウェアの違いによる性能差は別としても)。管理者が設定を行う場合にアクセス権の設定などで若干の違いを意識する程度である。

NASの接続形態の違いによる選択ポイント

 これまでNASというと、ハードウェアの増設が難しいサーバの外付けハードディスクの代替というイメージが強かったように思う。特に1Uサイズのフロントエンド・サーバは、搭載できるハードディスク容量に制限があるため、NASを共有ディスクとして使うことが多かった。ところが、ここ1年ほどで各社が製品のラインアップを充実し始めたことや、設定と管理の容易さなどから、SOHOや小規模事業者、企業の部署内のファイル・サーバとして利用されるケースが増えてきている。要するにOSにWindows 2000 Serverなどを採用したファイル・サーバの代わりとして、NASが積極的に使われ始めているというわけだ。

 このようにNASをファイル・サーバとして利用する場合、Windowsのワークグループ・ネットワークとドメイン・ネットワークのどちらのネットワーク構成を採用しているかによって、製品の選択ポイントが異なってくる。

 SOHOや小規模な企業で比較的多いと思われるWindowsのワークグループ・ネットワークの場合、NAS側でグループ/ユーザーの管理を行い、共有ファイルのアクセス制御を行うことになる。多くのNASでは、Webブラウザで設定が行えるユーティリティが内蔵されており、比較的容易にグループ/ユーザーの管理、ファイルのアクセス制御が行えるようになっている。逆にいえば、ユーティリティの出来次第で使い勝手が大きく異なることになるので、独自ユーティリティを内蔵することになるLinuxやBSD UNIXベースのNASでは、この点を重点的に確認したい。

ワークグループ・ネットワークにおけるNASの接続形態例
ブロードバンド・ルータがDHCPサーバとなり、NASに対してIPアドレスの提供などを行う。共有ファイルのアクセス制御は、NASに登録したグループ/ユーザー単位で行うことになる。

 一般的な企業ではWindowsのドメイン・ネットワークの場合が多いだろう。こうした企業内でNASをファイル・サーバとして使う場合、Windowsのドメイン・ネットワークと親和性が高いことが重要な選択ポイントになる。特に、ファイル共有のアクセス制御を行うためのユーザー/グループ管理が、既存のドメイン側に統合できることが望ましい。別々に管理を行うとなると、NASとドメインの間でユーザー情報などの整合性を維持するための手間が煩雑になるからだ。その点、前述のWindows Powered NASはWindows 2000 Advanced Serverをベースとしているため、シームレスに統合が可能だ。一方、LinuxやBSD UNIXをベースにしたNASでは、Sambaを使い、専用のユーティリティでWindows Server(ドメイン・コントローラ)上のユーザー/グループ・リストをコピーなどして統合するようになっている。LinuxやBSD UNIXの場合、Windowsとはファイルのアクセス制御の方法が異なっている。そのためSambaを使っても、Windowsのドメイン・コントローラと統合し、完全にアクセス制御を一致させることは難しい。とはいえ、実用上は問題ないレベルになっているので、よほどWindowsのアクセス制御を細かく設定しなければならない、といった状況以外では困ることはない。ただ、簡単にドメイン・ネットワークと統合したいという場合は、やはりWindows Powered NASを採用した機種を選ぶ方が無難だ。

ドメイン・ネットワークにおけるNASの接続形態例
ドメイン・コントローラが別に用意されるため、NASはそのドメイン・コントローラが管理するユーザー/グループ情報との整合性をどのように確保するかが問題になる。
  関連リンク 
Windows Powered NASの紹介ページ


 INDEX
  [特集]NAS導入事始め
  1.NASの概要と選択ポイント
    2.NASの設定を試してみよう
    3.ドメインによるNASの統合の実際
    4.NASのハードウェアを見てみよう
    5.NASのメリット/デメリット
 
 「System Insiderの特集」


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