特集 1. RDRAMの高速化に将来を託す
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3種類のメモリ・チップが共存
2002年5月に、Pentium 4と同じNetBurstマイクロアーキテクチャを採用したCeleronがリリースされて以来、デスクトップPC向けのプラットフォームは、急速にP6マイクロアーキテクチャから、NetBurstマイクロアーキテクチャへとシフトしつつある。このNetBurstマイクロアーキテクチャをサポートするチップセットとしては、Intel製のみを考えても非常に多くの種類が提供されており、対応するメイン・メモリもPC133 SDRAM、DDR SDRAM、Direct RDRAMの3種類に及ぶ。ユーザーはこの中からどれかを選ばねばならない。
現時点でのIntelの「公式」な位置付けでは、最も高い性能を要求されるハイエンドはDirect RDRAM、ビジネス・クライアントを含むメインストリームにDDR SDRAM、移行目的あるいは市況(メモリの価格)によってはエントリにPC133 SDRAMということになっている。しかし、現在の状況は、必ずしもこの公式見解をそのままストレートに受け取れないものだ。そもそも、PC用メイン・メモリに3種類が共存しているという状況自体が異例である。過去にもFPM DRAMからEDO DRAM*1、EDO DRAMからSDRAMへと、PC用メイン・メモリの変遷にともない2種類のメモリが共存することはあっても、3種類が共存することはなかった。
*1 FPM DRAM(Fast Page Mode DRAM)もEDO DRAM(Extended Data Out DRAM)も、特に1990年代前半にPCのメイン・メモリとしてよく利用されたDRAMチップの1種である。一般にDRAMには、アドレス情報を行(Row)と列(Column)の2つに分割して与える必要があり、ある行アドレスを指定することでアクセスできるようになるメモリ領域を「ページ」などと呼ぶ。FPM DRAMは、このページ内に限定される「ページ・モード」のアクセスをそれまでのDRAMより高速化したものだ。またEDO DRAMは、データ出力の信号タイミングを改良することで、FPM DRAMと比べてさらにページ・モードの速度を高めている。いずれも、PC用メイン・メモリとしてはSDRAMによってすでに置き換えられている。 |
以前に比べると現在はメモリ・ベンダの数が減少しており、各メモリ・ベンダは市場リスクを緩和するためにも、1種類のメモリを大量生産するより、複数の種類のメモリ・チップを製造したい意向があるといわれている。しかし、異なる分野で異なるメモリが使われるのならともかく、何より低コストとコストパフォーマンスが求められるPC用メイン・メモリという単一の分野で、複数の種類のメモリ・チップが共存できるという保証はない。PC用メイン・メモリで、ハイエンドにメインストリームとは異なるメモリが定着するには、かなりの必然性が必要だ。果たしてDirect RDRAMにそれだけの必然性があるのだろうか。
ロードマップが明らかにされたDirect RDRAM
こうした疑問に対し、Rambusは、まずDirect RDRAMとそれを用いたモジュールについて、それぞれロードマップを発表している。それによると、これまでのメモリ・チップ「PC800」に続いて最近「PC1066」の出荷が始まっているが、その次は「PC1200」「PC1333」「PC1600」を続けて開発していく。このうちPC1333とPC1600のメモリ・バス・クロックは1333MHz(=666MHz×2)と1600MHz(=800MHz×2)で、プロセッサのFSBのベース・クロック周波数をそれぞれ666MHz(=166MHz×4)ならびに800MHz(=200MHz×4)と想定しているものと思われる。一方、メモリ・モジュールの方は、現在PC1066メモリを用いた32bit RIMM(RIMM4200メモリ・モジュール)が登場しつつあるが、PC1333メモリおよびPC1600メモリの世代では、64bit RIMMが主流になると想定している。PC1600メモリを用いた64bit RIMMの場合、提供可能な帯域幅は12.8Gbytes/sにも及ぶ。
Direct RDRAMのロードマップ |
2002年中には1200MHzのDirect RDRAM(PC1200メモリ)が登場する予定だ。2002年以降も1333MHz、1600MHzとRDRAMは高速化されていく。 |
さらに2004〜2005年になると、Rambusの次世代メモリ・バス技術であるYellowstone(開発コード名:イエローストーン)が実用化の時期を迎える。Yellowstoneでは、現行の信号伝送技術「RSL(Rambus Signaling Level)」の電圧振幅が800mVなのに対し、より小振幅な200mVの差動駆動となる「DRSL(Differential RSL)」技術を採用する。また、クロック信号に対して8倍のデータ・レートを実現する「ODR(Octal Data Rate)」、そして基板上の配線路技術であるFlexPhase技術なども採用することになる。これらにより、安価にマザーボードの製造が可能な4層基板*2を前提にしながら飛躍的に高いデータ転送レートを狙う。すでに3.2GHzでの動作デモが公開されているが、これをさらに6.4GHzまで引き上げるロードマップが描かれている。6.4GHz動作時で64bitバスの場合は50Gbytes/s、128bitバスでは100Gbytes/sのメモリ帯域幅が実現されるとしている。
*2 4層基板とは、配線パターンが何重にも重ねられているプリント回路基板(多層基板)の1種で、基板の表裏両面および内部の2層の計4層に配線パターンを実装できる。内部の層数が多い基板ほど配線を高密度化しやすく、電気的特性もよくなる傾向がある。Direct RDRAMに初めて対応したIntel 850チップセットでは、当初のマザーボード・デザインとして6層基板が前提とされていた。しかし6層基板は、デスクトップPC用マザーボードとして標準的な4層基板よりコストが高くつくというという欠点があったため、その後には4層基板で製造できるようにマザーボード・デザインが変更された。 |
RDRAMサポートを後退させつつあるIntel
もちろん、いくらメモリ・チップやメモリ・モジュール、メモリ・バス技術があっても、それをサポートしたチップセットがなければ、実際にPCのメイン・メモリとして用いることはできない。そこで重要になるのが、PC用チップセット・ベンダの最大手Intelの動向だ。
Intel 850Eチップセット |
Pentium 4向けチップセットとして初めて出荷された「Intel 850」のマイナー・バージョンアップ版。ハイエンドPC向けチップセットとしては、不可解な仕様が散見される。 |
2002年7月の時点でIntelは、ハイエンドPC向けのメイン・メモリとしてDirect RDRAMを位置付けているにもかかわらず、そのサポート体制は後退の一途をたどっている。それを顕著に表しているのが、2002年5月に発表されたIntel 850Eチップセットだ。Intel 850Eチップセットは、最初のPentium 4対応チップセットとしてリリースされたIntel 850チップセットの改良版だが、正式なスペックにおいて改良されたのは新しいPentium 4用に533MHzのFSBに対応した点のみである。一方、Intel 850Eチップセットのわずか2週間後に発表されたIntel 845E/G/GLチップセットはDDR SDRAMをサポートするメインストリームPC向け製品だが、初めてUSB 2.0のホスト・コントローラ機能を内蔵したI/Oコントローラ・チップ「ICH4」と組み合わせられている。これに対し、本来ハイエンドPC向けであり、高機能・高性能化が優先されていいハズのIntel 850Eチップセットには、以前と同じ「ICH2」チップが使われている。
Direct RDRAMのサポートについても、Intel 850Eをハイエンドと考えると不可解な点が目立つ。Intel 850Eが公式に対応するメモリは、新たにサポートしたFSB 533MHzのPentium 4の場合、PC800-40のみとなっている。この「-40」というのがくせもので、これまでIntel 820チップセットやIntel 850チップセットでサポートされてきたPC800メモリ(PC800-45)より、わずかに信号タイミングの速い高性能な製品が要求される*3。しかもこの変更は、どうやらFSBの速度引き上げにともなう意図的なものではなく、結果として動作保証にPC800-40が必要になってしまった、という性質のものらしい。そして通常、こうした種類の問題点は「エラッタ(errata)」と呼ばれ、次のステップで訂正されるものだが、Intel 850Eの場合、そうした訂正は行われないようだ。また、新しいDirect RDRAMであるPC1066メモリも、公式にはサポートされていない。これらも、IntelのDirect RDRAMサポートの後退を印象付ける。
*3 「-40」「-45」という数値は、Direct RDRAMに与える2種類のアドレス情報(行アドレスと列アドレス)のうち、最初の行アドレスを与えてから実際にデータが読み書きできるようになるまでの時間を、ns単位で表したものに相当する。もちろん、「-40」の方が高性能である。なお、FSB 400MHzのPentium 4であれば、PC800-45メモリやPC600メモリもサポートされている。 |
ハイエンドもDDR SDRAMで置き換えられていく!?
実際、Intelが公式/非公式に明らかにした情報に、Intel 850Eの後継となるDirect RDRAMサポートのチップセットの存在は確認されていない。また2002年4月に開かれたアナリスト向けのミーティングでIntelのオッテリーニ社長は、次期Pentium 4と目されているPrescott(開発コード名:プレスコット)に対応したチップセット「Springdale(開発コード名:スプリングデール)」が、デュアル・チャネルのDDR-333メモリ(クロック周波数333MHz/データ幅128bitのDDR SDRAMメモリ・バス)をサポートすることを明らかにしている。もちろんPrescottもSpringdaleも当初はハイエンドPC向けの製品である。つまりIntelがハイエンドにDirect RDRAMを残しているのは、Springdaleまでの「つなぎ」というわけだ。現在の予定では、IntelにとってIntel 850EはDirect RDRAM対応の最後のチップセット、ということになる。
このようにIntelはRambusと違う方向に歩み出しており、今後、PC1066以降のDirect RDRAMをすぐに採用するとは到底思えない。現時点で、PC1066以降のDirect RDRAMに対応したチップセットをリリースする可能性を示しているベンダは、SiSくらいだ。果たして、SiSのチップセット・サポートで、ハイエンドのセグメントでPC用メイン・メモリとしての生き残りが可能なのか、注目されるところだ。
DDR SDRAM陣営の「失策」を待つRambus
ただ、いずれにしても、メモリ・インターフェイス技術の会社であり、チップセット・ベンダでないRambusにできることは、こうした高速なメモリ技術をロードマップどおりに提供し続けることしかない。これまでIntelのDirect RDRAM対応チップセットは、多くのトラブルに見舞われた。具体的には、Intel 820チップセットの発表延期と発売直前の仕様変更や、RambusチャネルにSDRAMを接続するための変換チップ「MTH(Memory Transfer Hub)」*4の動作が不安定だった問題、そして前述したIntel 850EチップセットにおけるPC800-45メモリ非互換問題が挙げられる。こうした事件の多発を筆者は、PC用メイン・メモリとしてDirect RDRAMは縁がなかったのだと思っているが、今後、同じような問題がDDR SDRAMやDDR-II SDRAMにも起こらないとは限らない。ハイエンドのニッチ市場で生き残りながら、メインストリームのメモリに問題が生じたときに、代替としてのカムバックを狙う。こうした敵の失策を待つというのが、現時点でのPC用メイン・メモリに関するRambusの基本戦略だと思われる。
*4 MTHとは、Intel 820/840チップセットのRambusチャネルをSDRAMのバスに変換する補助チップで、これらのDirect RDRAM対応チップセットでもSDRAMをメイン・メモリに使えるようになる。このころ、Direct RDRAMの価格はSDRAMに比べて非常に高く、コスト重視のPCには事実上Direct RDRAMを搭載できなかった。そこでIntelはMTHを開発してDirect RDRAM対応チップセットと組み合わせることで、メイン・メモリにSDRAMを利用できるPCシステムを実現できるようにした。ところがMTH搭載システムにおいて、メイン・メモリに高い負荷をかけるとデータ・エラーが発生するというトラブルが生じてしまい、製品回収などの騒ぎに発展した。結局IntelはMTHの出荷を中止し、サポートもやめてしまっている。 |
PC用メイン・メモリの帯域幅のロードマップ |
これは大手メモリ・ベンダのSamsung Electronicsが提示しているロードマップである。DDRやDDR-IIに対してRDRAMは常に高い性能を維持する、という戦略が表されている。 |
次のページでは、PC以外の市場におけるRDRAMの現状と将来を解説する。また、Rambus上級副社長にPC用メイン・メモリとしてのRambusの現状と将来展望をうかがってみた。
INDEX | ||
[特集]Rambusは終えんを迎えてしまうのか? | ||
1.RDRAMの高速化に将来を託す | ||
2.家電やネットワーク機器で生き残るRambus | ||
3.RDRAMの将来性を検証する | ||
4.ベンチマーク・テストの詳細結果 | ||
「System Insiderの特集」 |
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