元麻布春男の焦点
IAサーバ市場にも影を落とす景気後退の波 元麻布春男 |
2002年も師走に入り、間もなく終わろうとしている。東京は例年になく早い積雪で冷え込んでいるが、同様にIT産業も冷え込んだ1年だった。それは、これまで順調に伸び続けてきたIAサーバ分野も例外ではない。IAサーバ分野が比較的好調な売り上げを維持できたのは、インターネットの普及により新たな用途が生まれたことと、RISC/UNIXサーバを価格性能比で上回るIAサーバで置き換えるという需要があったからだ。しかし、2001年秋に崩壊した米国ITバブルが、IAサーバ分野の需要を先食いしたことが明らかになるにつれて、IAサーバの売れ行きにもかげりが生じた。ここでは、2002年の締めくくりとして、IAサーバ分野を振り返ってみることにする。
IAサーバの低価格化がDellのシェア拡大に
デルコンピュータのIntel Xeon搭載2Uラックマント型サーバ「PowerEdge 2650」 |
2Uラックマント型ながらIntel Xeonのデュアルプロセッサ構成が可能である。性能は、数年前のハイエンド・サーバ並みを実現しているながら、価格は最小構成で41万8000円と手頃になっている。 |
もちろん、IAサーバ全体が停滞してしまったわけではない。リース期限切れなどによる不可避な更新も存在する。ただこうした需要は、価格性能比とスペース・ファクタの高い、1〜2ウェイの1U〜2Uサイズのラックマウント型サーバで占められてしまった。IAサーバの性能が大幅に向上したため、数年前のハイエンド・サーバであっても、現在ならば2Uサイズ程度のラックマウント型サーバで十分に置き換え可能になっているという背景もある。その結果、ハイエンド・サーバの需要は後退し、サーバ1台当たりの単価の減少、売り上げ金額の低下を招いた。ただし1〜2ウェイのサーバといっても、いわゆるブレード・サーバのように価格性能比を犠牲にしてもスペース・ファクタを追求したものは、その主な需要先がバブルの直撃を受けた通信業界であることもあって、やはり伸び悩んでいるのが現状だ。
結局、ここでも市場シェアをつかんだのは、Dell Computerである(「マンスリー・レポート:Dellはいつまで勝ち続けるのか?」参照)。価格性能比の追及は、いわゆる「デル・モデル」を掲げる同社の最も得意とするところである。市場全体が縮小する中、同社のシェアは引き続き上昇を続けている。一般にDell Computerというと、Intelとの親密な関係がいわれるが、実はサーバ分野ではクライアント分野ほど親密ではない。例えば、本稿執筆時点において、Dell Computerのサーバ・ラインアップにはItanium 2を搭載したシステムはない。Intel Xeon搭載サーバに用いているチップセットもIntel製ではなく、ServerWorks製で占められている。
転機を迎えた次世代I/O技術
Intel製チップセットとServerWorks製チップセットの最大の違いは、次世代I/Oのロードマップにある。IntelがPCI、PCI-X 1.0、PCI ExpressとI/O技術の更新を計画しているのに対し、ServerWorksはPCI-X 1.0の次はPCI-X 2.0を考えている(「解説:PCI-X 2.0とPCI Expressのインパクト」参照)。2003年後半から2004年前半に訪れるであろうI/O技術の岐路において、Dell Computerを初めとする大手サーバ・ベンダがどちらの進路を支持するのか、注目されるところだ。もちろん、PCI-X 2.0からPCI Expressという道もあるのだろうが、両者の普及時期が重なるため、この方針は採用されない気がする。
さて次世代I/Oという点で、大きくその役割を変えることとなったのがInfiniBandだ。当初の構想ではInfiniBandは、サーバの内部I/Oと外部I/Oを一手に引き受けることになっていた。しかし、IntelはInfiniBand対応チップの開発を中止し、同社のロードマップにおいても内部I/Oを担うのはPCI Expressに変更されている。InfiniBandの位置付けが大幅に縮小され、InfiniBandが用いられるのはもっぱら外部I/Oということになった。InfiniBandの規格には統一されたホスト・インターフェイスというものがないため、OSサポートにはシステム・ベンダの能力が問われる。これは、システム・ベンダにとって腕の振るいがいがあるということと同時に、サポート力のあるベンダ以外は採用しにくいということも意味する。Intelという最大のチップセット・ベンダがInfiniBand対応チップの開発から手を引いたことは、InfiniBandの対応分野をよりハイエンド寄りにするかもしれない。
Intelのサーバ向けチップセット「E7501」 |
Intel Xeonのデュアルプロセッサ構成に対応したサーバ向けチップセット。2002年2月26日に発表したE7500のFSBを533MHz対応にしたものである。 |
InfiniBand対応製品の開発を中断する一方で、Intelはサーバ向けチップセットの拡充を図ってきた(「元麻布春男の焦点:攻勢に転じたインテルのチップセット戦略」参照)。同社は2002年に入り、それまで一体だったサーバ向けチップセットとクライアント向けチップセットの企画やマーケティングを分離し、サーバ/ワークステーション用チップセットは、「E」で始まる型番で統一することとなった。E7500を皮切りに、Itanium 2対応のE8870、Intel Xeon対応の533MHz FSB対応版であるE7501、AGP 8xをサポートしたIntel Xeon搭載ワークステーション向けのE7505、さらにはPentium 4対応のワークステーション向けのE7205など、着実にラインアップを拡充している。現時点では、Intel Xeon MPに対応したチップセット(4ウェイ以上のサーバ向け)や、Itanium 2対応のワークステーション向けチップセットがラインアップに欠けているが、遠からず埋まることだろう。新しく投入されたチップセットにより、サーバ/ワークステーション向けに用いられるメモリは、ほぼ従来のSDRAMから高速なDDR SDRAMへの切り替えが完了した。
一方、デュアル・プロセッサに対応したAMD Athlon MPでサーバ分野への参入を図るAMDだが、大手サーバ・ベンダのサポートはまだ得られていない。景気後退でエンド・ユーザーが保守的になっており、新しいものを試す意欲が減退していることも理由だと思われるが、やはり大手サーバ・ベンダの採用がなければ、プラットフォームのバグ出しとそのフィックスが進まない。2003年前半には、64bitアーキテクチャをサポートした次期サーバ/ワークステーション向けプロセッサ「AMD Opteron」が出荷される予定だ。こうした新型プロセッサも含め、大手のベンダのサポートを得られるかどうかが、AMDのサーバ市場シェア拡大の鍵になるだろう。
Windows .NET Server 2003の遅れがLinuxの普及の後押し?
もう1つ鍵を握っているのはOSサポートだ。出る出るとウワサされながら、ついにWindows .NET Serverの2002年内のリリースはなかった。COMDEX Fall 2002でビル・ゲイツ(Bill Gates)会長自らが、2003年4月のリリースを語ったことから、このスケジュールはかなり「堅い」と思われるが、Microsoftが会社として発売日に言及したわけではない。また、9月にリリースされたRC1を前提にする限り、Windows .NET Server 2003において、AMDのx86-64テクノロジに対するサポートには一切言及されていない。Microsoftは、AMDのx86-64テクノロジのサポートを「行う」と明言しているが、AMD Opteronの64bitモードのサポートは、Windows .NET Server 2003のService Pack 1以降もしくは次のOSバージョンになるものと考えられる。
ただ、これをもってMicrosoftがAMDに冷淡と考えるのは結論を急ぎすぎるというものだ。冷静に考えれば、製品がリリースされて2年近くが経過したItaniumプロセッサ・ファミリに対してさえ、これをサポートしたMicrosoft製のサーバOSは、製品としては存在しないのである(ワークステーション向けとして64bit版Windows XPはリリースされているが)。すでにRC1(Release Candidate 1)がリリースされていることでも明らかにように、Windows .NET Serverの仕様はすでにフィックスされているハズだ。そこに、現時点で製品として発売されていないプロセッサやチップセットをサポートする機能を盛り込むのは、ほとんど不可能に近い。現在のItanium対応のWindows Serverと同様、LE(Limited Edition)、あるいはSE(Special Edition)という形でx86-64テクノロジをサポートする可能性を否定するものではないが、Windows .NET Server 2003のリリース当初から製品としてリリースされることはないだろう。
Windows .NET Server 2003は、プロセッサのサポートだけでなく、InfiniBandなどのI/O技術、さらにはストリーミング・サービスなどの基盤となるOSである。サーバOSとしてLinuxの採用が増加している背景には、単なる不況というだけでなく、Windows .NET Server 2003のリリース遅れという事情もあるのではないかと思われる。2003年のサーバ・プラットフォームの変化は、Windows .NET Server 2003のリリースをもって始まるのかもしれない。
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