[事例研究] 東京国際見本市協会

1.IT化の最大の目的は社内文書の統一と、メッセージングによる情報共有


デジタルアドバンテージ
2001/11/01


 
東京国際見本市協会
事業開発課
山本豊 主任
求める機能が決定的に欠けているとか、圧倒的に使いにくいなどといった理由がないかぎり、できるだけパッケージ化された製品を選択しようというのが私たちのソフトウェア選びの基本的な方針です。システムの安定性や、万一のトラブル時の対処など、システム全体としての信頼性や性能を確保しやすいからです。

 山手線新橋駅から、ウォーターフロントを経由して有明までを結ぶ新都市交通システム「ゆりかもめ」に揺られること21分。東京ビッグサイトは、東京の新しい景観を彩るオブジェとして、その印象的なシルエットを眼前に現す。東京都によって有明に建造された「東京国際見本市会場」は、今回取材した東京国際見本市協会に1996年に管理・運営が委託され、「東京ビッグサイト」としてオープンした。昭和31年に設立された東京国際見本市協会は、当初は独自の見本市開催を主たる業務としてきたが、時代の流れとともに、第三者が主催する展示会などへの会場の提供が中心になってきたのだという。「歴史ある晴海時代の展示会場は、『大きな体育館』と呼んでもよいもので、近代的な設備はほとんど導入されていませんでした。それに対しビッグサイトでは、ビル管理システムを始め、最新の設備がふんだんに組み込まれています。こうした設備と、事務業務を担当する私たちの情報環境を連動させられないか、と考えたのが情報システム導入の1つの理由でした」(東京国際見本市協会 事業開発課 山本豊氏)。

 しかし現実には、専用用途に特化されたビル管理システムと、協会内の職員が利用する情報システムを連動させ、かつ職員にとって使いやすい環境を提供することは困難だった。「協会内には、まだまだコンピュータに不慣れなユーザーも少なくありません。しかしビル管理システムは専用用途に高度に特化されており、専門家が使うことを前提としているため、こうしたユーザーでも違和感なく使えるようにするのは困難でした。将来的な連動は視野に入れながらも、とりあえず当初は、ビル管理システムと、職員が使う情報システムは別のものとして考えることにしました」(東京国際見本市協会 事業開発課 山本豊氏)。

 またその一方で、職員間での情報共有の必要性にも迫られていた。「今から10年ほど前は、パソコンや専用ワープロを利用して文書を作成していたのですが、組織的に文書の共有を行ったりはしておらず、各担当者が好みのデータ・フォーマットと書式で文書を作成していました。専用ワープロとパソコンで文書データが交換できないことはもちろん、同じパソコンを使っていても、使用するアプリケーションが複数あって、文書に互換性はありませんでした」(東京国際見本市協会 事業開発課 山本豊氏)。

 展示会は時代を写す鏡である。たとえ毎年恒例の展示会であっても、時代時代で主催者や来場者のニーズは変化していく。こうした業務の特性が、事務処理の共通化、統一化を妨げていた側面もあるだろう。しかし作業効率を向上させるには、いつまでもこのような状態に甘んじているわけにはいかなかった。「個人的には、『何とかしなければ』という思いはずっと以前から持っていました。しかしコンピュータ本体やネットワーク機器の大幅な低価格化によって、ここにきてグループウェアが急速に身近な存在になりました。グループウェアを導入すれば、職員同士の情報共有化を進め、作業効率を高められるかもしれないと考え、システム導入の検討に入りました」(東京国際見本市協会 事業開発課 山本豊氏)。

初心者でも扱いやすい環境としてWindowsを選択

 この結果協会では、1998年にWindows NT Server 4.0とExchange Server 5.5をそれぞれファイル・サーバ、メール・サーバとする情報システムを構築し、クライアント側にはWindows 95マシンを導入してファイル共有と電子メール機能を職員に提供した。Windowsを選択した最大の理由は、初心者でも使いやすいユーザー・インターフェイスを備えていたからだった。「協会には、コンピュータ機器にあまり馴染みのない年輩の職員もいます。こうした初心者でも、違和感なく使える環境としては、Windowsしか考えられませんでした」(東京国際見本市協会 事業開発課 山本豊氏)。

 またサーバとしてWindows NTを選択した理由も、管理者が扱いやすいという理由だった。「今から5〜6年前に、試験的にUNIXマシンを導入して、Webサーバを構築したことがありました。確かに安定的だという点は評価できるのですが、管理は非常に面倒であり、将来的に管理者を別の人間に引き継ぐのは簡単ではないと感じました。この点NTなら、ほとんどの作業をグラフィカル・インターフェイス上で実行できます。管理業務においても、慣れ親しんだWindowsインターフェイスを使えるのです。これは大きな魅力でした」(東京国際見本市協会 事業開発課 山本豊氏)。

システム全体としての信頼性や性能を考慮して製品を選択

オフィス風景
以前からパソコンや専用ワープロを利用して文書を作成していたが、組織的に文書の共有を行ったりはしていなかった。そこでグループウェアを導入し、文書共有を実現すると同時に、社内のメッセージング、社外の取引先とのメッセージング環境を整備した。

 電子メールを皮切りとして、職員間での機能的な情報共有を進めるため、協会ではグループウェアを導入することにした。候補となった製品は、ロータスノーツとマイクロソフトのExchange Server 5.5だった。すでに述べているとおり、最終的には、他のソフトウェアとの連携や統合性を重視して、Exchangeを選択した。「求める機能が決定的に欠けているとか、圧倒的に使いにくいなどといった理由がないかぎり、できるだけパッケージ化された製品を選択しようというのが私たちのソフトウェア選びの基本的な方針です。それぞれの分野で優れた単一製品を組み合わせていくという発想もあるでしょうが、システムの安定性や、万一のトラブル時の対処などを考えると、たとえ個別製品レベルでベストではなかったとしても、システム全体としての信頼性や性能を確保しやすいと考えているからです。この意味で、Windows NTと同じくマイクロソフトが開発したExchange Server 5.5は、大きな欠点はありませんでしたし、機能的には私たちの要求を満足させるものでした。またサーバ側をExchangeにすることで、クライアント・アプリケーションにはOutlookを使えるようになります。ワードプロセッサやスプレッドシートなどではWord、ExcelといったOffice製品の利用が決定していましたから、これによりクライアント環境でも前出の『単一パッケージ理論』を適用できることになります」(東京国際見本市協会 事業開発課 山本豊氏)。

ユーザー教育とセキュリティを考慮し、当初メッセージングは協会内に限定

 Windows NT 4.0+Exchange Server 5.5の導入により、協会内でのファイル共有、メール交換は可能になった。しかし当初は、インターネットには接続せず、外部とのメッセージ交換は許可しなかった。いきなり高機能な環境を提供して、初心者ユーザーを混乱させないようにしたいという理由が大きかったようだ。「職員数は80数名と、それほど大規模ではないのですが、OAに対するそれまでの接し方は人それぞれで、かなり開きがありました。このため、いきなり外部にも通信可能な高機能なメッセージ環境を提供してしまうと、ユーザーも混乱するし、管理作業も大変になるだろうと考え、まずは協会内だけで閉じたメッセージ環境を提供し、電子メールにある程度慣れたところで、外部との接続を行うことにしました」(東京国際見本市協会 事業開発課 山本豊氏)。

 しかしもう1つ、外部とのネットワーク接続を慎重にさせる理由として、過去の苦い経験もあったという。「実験的にUNIXでWebサーバやメール・サーバを構築していた時代にクラッカーの侵入を受け、SPAMメール発信の踏み台にされたという事故がありました。とある大学の先生から、『あなたを発信元とするこんなメールが届きましたが…』という連絡を受けたので調べると、身に覚えのない内容のメールでした。どうやらクラッカーがシステムに侵入して、SPAMメール発信の踏み台として悪用したようなのです。協会の信用にもかかわる重大事故と認識し、以来、ネットワーク・セキュリティに対しては非常に敏感になりました。今回のシステム導入においても、あわててインターネット接続は行わず、セキュリティ的に安心できる方法をじっくり探ろうと考えた背景には、こうした過去の経験もあったのです」(東京国際見本市協会 事業開発課 山本豊氏)。

初心者ユーザーに利用を促すポイントは、じっくり時間をかけて説明すること

東京国際見本市協会
総務部 総務課
菊池徹
とにかく便利な環境を作りあげてしまい、積極的な一部の人たちの間で使い始めます。それが便利だと分かれば、自然と利用者は広がっていくものです。

 システムの導入当初は、これまでに個々人が独自の環境で作りあげてきた資産(専用ワープロで作成した文書など)を理由に新しい環境に抵抗を示す職員がいたり、パソコン・アレルギーを示す職員がいたりしたようだ。こうした職員に対しては、強制力をもって新しいシステムを使わせるのではなく、じっくり時間をかけて、そのメリットを理解してもらうことに努めた。「とにかく便利な環境を作りあげてしまい、その気にさえなれば全員が使えるような状態にしたうえで、使用に積極的でない人は置いておき、積極的な一部の人たちの間で使い始めます。それが便利だと分かれば、自然と利用者は広がっていくものです」(東京国際見本市協会 総務部 総務課 菊池徹氏)。

 「初心者ユーザーに利用を促すうえで大切なのは、あわてずに基礎的なことから時間をかけて説明していくことです。アプリケーションの使い方など、必要なら研修などを受けてもらい、基本中の基本から理解を進めてもらいます。最初はなかなか目立った効果が現れませんが、分かり始めると、指数関数的に理解が高まっていきます。今回のシステム導入では、インテグレータとしてキヤノン販売さんを選んだのですが、その理由は、システム構築だけでなく、こうした教育面のサービスも非常に充実していたことです。当協会の場合、半年程度でほとんどの職員がシステムを使いこなせるようになりました」(東京国際見本市協会 事業開発課 山本豊氏)。


 INDEX
  [事例研究]東京国際見本市協会
  1.IT化の最大の目的は社内文書の統一と、メッセージングによる情報共有
    2.管理作業とセキュリティ・リスクを低減するため、ISPのホスティング機能を積極活用
    3.既存環境に新サーバを並立させ、データを移行させて新環境に切り替える
        コラム:技術解説 Active Directoryでの一元管理がISA Server最大のメリット
 
事例研究


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