Windows NT
【ウィンドウズ・エヌ・ティー】
16bitのシングルタスクオペレーティングシステムであるMS-DOSを発展させたWindowsシリーズとは別に、ビジネスでの利用を前提として、メモリ制限の緩和やシステムの安全性の向上、より円滑なマルチタスクシステムの実現を達成するために新規に設計された、マルチスレッド対応の32bitオペレーティングシステム。NTは「New Technology」の略。1993年の初期バージョンの発表以来、WindowsシリーズのOS(Windows 3.1、Windows 95、Windows 98)に対し、Windows NTという名称が一貫して使用されてきたが、WindowsシリーズのOSをNTの32bitカーネルに一本化することから、1999年末に米国での発表が予定されているWindows 98およびWindows NT .4.0の新バージョンのOSは、Windows 2000という名称が採用されることが決定された。
Windows NTが発表される以前にMicrosoftから提供されていたWindows Ver.3.1は、MS-DOSをベースとして、ウィンドウシステムを追加するもので、16bitプロセッサであるIntel80286アーキテクチャに強く依存した部分を持っていた(事実、MS-DOSとWindowsは別々のパッケージで販売されており、Windowsをインストールするには、別途MS-DOSをシステムに組み込んでおく必要があった)。このためアプリケーションはセグメントと呼ばれる64Kbytesのメモリ境界や、0〜640Kbytes、640Mbytes〜1Mbytes、1Mbytes以上というシステムメモリの領域ごとに割り当てられた異なる役割を意識しながら、アプリケーションを設計する必要があった。また、Windows 3.1によってマルチウィンドウ、マルチタスク環境が実現され、複数のプログラムを同時に実行できるようになったものの、これらのアプリケーションは1つのメモリ空間を互いに共有しており、あるプログラムが、他のプログラムのメモリ領域を破壊するような処理をシステム側で禁止する術が用意されていなかった。さらにWindows 3.1では、「ノンプリエンプティブなマルチタスク」と呼ばれるマルチタスク方式が採用されていたが、この方式では、アプリケーションが、一定時間内に自主的に制御を解放する(そして他のアプリケーションが処理を実行できるようにする)必要があり、何かのトラブルにせよ、故意にせよ、あるアプリケーションが制御を自主的に解放しないと、他のアプリケーションはもちろん、Windowsシステムまでもが処理不能になってしまうという大きな問題があった。
万一のトラブルやデータの破壊などがひとたび発生すると、莫大なコストがかかるビジネス利用では、Windows 3.1はシステムとして十分な条件を満たしていなかった。こうした問題を抜本的に解消するために、新たに開発されたオペレーティングシステムがWindows NTである。このためMicrosoftは、DEC社のミニコンピュータ、VAX用のVMSオペレーティングシステムを開発した中心人物の1人であるDave Cutler(デイブ・カトラー)氏を迎えた。
Windows NTの歴史をまとめると以下のようになる。
■Windows NT Ver.3.1
米国では1993年7月、日本では1994年末より販売が開始された。Windows NTの初期バージョンであるにもかかわらず、3.1というバージョン番号が割り当てられたのは、これが当時すでに普及していたWindows Ver.3.1と互換性があったためである。
Windows NTでは、拡張性(市場の変化に応じて改良しやすいこと)や移植性(プロセッサ仕様などに依存しないOS)、信頼性(OS自身が能動的にシステムを保護できる)、互換性(Microsoftの他のOSとの互換性)に優れ、同時にそれらの要求をパーソナルコンピュータで実用的な性能で実行できるように、さまざまな工夫がなされた。
まずWindows NTは、OS内部の処理がユーザーモードとカーネルモードに分離され、それぞれに異なる保護レベルを割り当てることで、ユーザーモードで実行されるアプリケーションが、カーネルモードで実行されるOSを破壊する可能性をなくした。またOS/2互換環境、POSIX互換環境などを実現するために、アプリケーション環境がサブシステムとしてまとめられ、必要なサブシステムを組み込むことで、Win32環境に加え、OS/2 1.x互換環境(キャラクタモードアプリケーションのみ)、POSIX互換環境が利用可能とされた。
カーネルモードで実行されるOSのコア部分は、仮想記憶管理やI/O処理、ファイルシステム、プロセス間通信などの機能ごとに部品化され、これらがひとまとまりとなることでOSの処理を行う。これはNT Exectuve(エグゼクティブ)と呼ばれる。このNT Exectuveとハードウェアの間には、HAL(Hardware Abstraction Layer)と呼ばれるレイヤがあり、ここで異なるハードウェアの違いを吸収し、異なるハードウェアシステムへの移植性を高めるようにしている。
Windows 3.1とは異なり、メモリ空間は各プロセスごとに保護され、あるアプリケーションが、別のアプリケーションやシステムのメモリ領域を許可なく読み書きすることはできない。またマルチタスクシステムは、Windows 3.1のノンプリエンプティブなマルチタスクからプリエンプティブなマルチタスクに変更され、アプリケーションが自主的に制御を解放するかどうかにかかわりなく、システムが強制的にプロセススケジューリングを行えるようになった。
ファイルシステムとしては、Windows 3.1(MS-DOS)が使用するFATファイルシステムに加え、NT独自に設計されたNTFS(NT File System)が追加され、インストール時に選択できるようになった。このNTFSでは、ファイルシステムの管理方法が抜本的に変更され、大容量のファイルを効率的に管理可能になり、セキュリティ機能や万一のトラブル時の復旧機能が追加された。
Windows NT Ver.3.1のパッケージには、クライアント向けの「Windows NT Operatin System Version 3.1」と、サーバ向けのAdvanced Serverの2種類が用意された。Advanced Serverでは、LANの各種資源情報などを集中管理するサーバとしての機能が追加された。
■Windows NT Ver.3.5
初期バージョンであるVer.3.1の市場での評価は厳しく、Win32に対応したWindows NT向けのネイティブアプリケーションもそれほど発表されなかった。この最大の理由は、NTを実用的に利用するには、かなり潤沢なメモリやディスク容量が必要であり、それらにかかるコストに見合うだけのメリットが提供できなかったからである。Windows NT 3.1の必要メモリ量は8Mbytes(米国版)だとされていたが、実際には12〜16Mbytesのメモリが必要だった。また、NTをインストールするだけでも100Mbytesのハードディスク領域が必要であり、さらにアプリケーションをインストールしたり、システムの一時領域として十分な容量を確保したりするためには、最低でも200Mbytes〜300Mbytesのハードディスク容量が必要とされた。メモリやディスクは、当時は非常に高価であり、これらのコストがNT普及のネックとなっていたわけである。
こうした問題を解決するために、1994年9月(日本版は1994年12月)に発表されたNTの新バージョンがVer.3.5である。Daytona(デイトナ)という開発コード名で呼ばれていたこの新バージョンでは、より少ないシステムリソースでも実用的に利用するための軽量化、処理性能を向上させるためのチューニング、そしていくつかの機能追加がなされた。
機能改良・追加としては、@セットアップ作業の簡素化(グラフィックスカードやモデムなどのデバイスの自動認識)、ALongFilename FAT(FAT構造を変えることなく、8.3以上の長いファイル名を保存可能にする機能)、Bより安全なWin16アプリケーション実行環境(個々のWin16アプリケーションごとに異なるメモリ空間を割り当て可能にした)、Cネットワークサポートの充実(NetWareクライアントモジュールを標準添付)、RAS(Remote Access Service)の強化(NetBEUIプロトコルに加え、SLIPやPPPによるTCP/IP、IPS/SPXでのネットワーク接続を可能にした)、DDHCPサーバ機能の追加、などがなされた。
■Windows NT Ver.3.51
NT 3.5の発表後、ユーザーインターフェイスを一新したWindows 95が発表された、爆発的に普及した。このためMicrosoftが提供するデスクトップOSのユーザーインターフェイスが、Windows 95とWindows NT 3.5という2種類に分かれてしまった。Windows 95との整合性を高めるというのが、このWindows NT Ver.3.51の最大の目的であった(ただしWindows 95シェルは、このVer.3.51には搭載されず、次のVer.4.0で搭載された)。発表は1995年6月(日本版は1996年1月)。
このWindows NT 3.51では、@PowerPCプラットフォームサポートの追加(ただしPowerPCサポートは、次バージョンの4.0では削除された)、Aコモンコントロールサポート(Windows 95とのアプリケーション環境の共通化)、BWindows 95で導入された新しいヘルプシステムの導入、Cプロポーショナル漢字TrueTypeフォントの追加(欧文にプロポーショナルフォントを使用した日本語フォント「MS P 明朝」、「MS P ゴシック」の追加)、DWindows 95で採用された、かな漢字変換インターフェイスの共通化(IME/IMM APIをサポート)、ENTFSパーティションの圧縮機能の追加(シームレスに圧縮・解凍を行うことにより、ディスク容量を有効活用できるようにする機能)、などが追加された。
■Windows NT Ver.4.0
Windows 95と共通のシェルを搭載し、インターネット/イントラネットやRASを始めとするネットワーク機能の強化などを行ったのがWindows NT Ver.4.0である。NT Ver.4.0は、1996年8月より出荷が開始された(日本版は1996年12月)。
このNT Ver.4.0では、@Windows 95と同じシェルを搭載し、ユーザーインターフェイスを共通化、AInternet Explorer Ver.3.0(WWWブラウザ)を標準サポート、BWWWサーバの標準サポート(WorkstationパッケージではPeer Web Server、ServerパッケージではInternet Information Server)、CTCP/IPのセキュリティ機能の強化(利用可能なTCP/IPのサービスを限定など)、DPPTP(Point to Point Tunneling Protocol)によるVPN(Virtual Private Network)機能の追加(インターネットなどを経由して、プライベートなLANを構築可能にする技術)、ERASマルチリンク機能の追加(複数のチャネルを同時に利用して、通信バンド幅を向上させる機能)、などが追加された。
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