Vistaの地平

第10回 IPv6を取り込んだVistaのネットワーク機能

1.VistaのIPv6サポート

Microsoft MVP
Windows Server - Networking
小野 雄太郎
2007/06/07

「Vistaの地平」は、Windowsベースの情報システムを管理するIT Proを対象に、Windows Vistaの注目機能について解説する新コーナーです。

Index
Windows Vistaとは何か?
Windows Vistaのユーザー・インターフェイス
カーネルの改良とフォント、セキュリティ機能の強化
TCO抑制に向けた各種運用管理機能が強化されたVista
Vistaのハードウェア要件
より高機能になったVistaのバックアップ機能
管理者権限での実行を制限するユーザー・アカウント制御UAC(前編)
管理者権限での実行を制限するユーザー・アカウント制御UAC(後編)
スパイウェアからコンピュータを保護するWindows Defender
IPv6を取り込んだVistaのネットワーク機能
機能が向上したWindows Vistaのグループ・ポリシー
機能性/実用性がさらに強化されたオフライン・ファイル
Windows Vista SP1
セキュリティが強化されたWindowsファイアウォールの概要
セキュリティが強化されたWindowsファイアウォールの管理

 Windows Vistaは、初めてIPv6(IP version 6)ネイティブで動作するようになった Windows OSである。Windows VistaがIPv6に対応したことで何が変わったのか、そしてどんなことができるようになったのか、IPv6の歴史を振り返りながら、Windows VistaのIPv6機能を紹介する。

Windows Vistaのインターネット・プロトコル・バージョン6(TCP/IPv6)
Windows Vistaでは、OSネイティブでIPv6に対応している。これはIPv6のプロパティ設定画面の例。

Internet Protocol version 6とは

 Internet Protocol version 6(以下IPv6)とは、現在のインターネットで使われているInternet Protocol version 4の後継プロトコルである。

 IPv6の始まりはインターネットが世界を変える前、1990年代前半にIPv4の32bitアドレス空間が枯渇するという予測が報告され、次世代のプロトコル仕様を決めるためIETF(Internet Engineering Task Force)にipng wg(IP Next Generation Working Group)が置かれ、1995年12月にIPv6の基本仕様がRFC 1883:Internet Protocol, Version 6 (IPv6) Specification[英語]として発行された(参考日本語訳「インターネットプロトコルバージョン6(IPv6)の仕様」)。その後ipng wgはIPv6wgとなり、IPv6に関連したさまざまな仕様を策定しRFCとして発行を続けている。

 このIPv6であるが、まず注目されるのはやはり128bitに拡張されたアドレス空間である。32bitアドレス空間のIPv4に比べけた違いに巨大なアドレス空間を扱えるようになっている。またアドレス空間以外にも、固定長ヘッダ・フォーマットの採用によるルーティング処理の高速化、マルチキャストやリンク・ローカル・アドレスなど新しいアドレス形態、プラグ&プレイを実現するアドレス自動生成、さらにはIPSecやMobile IPv6といった技術をも取り込み、IPv4では実現できなかった新しいネットワーク・エクスペリエンスを提供できるものになっている。

Windows OSとIPv6の歴史

 Windows OSとIPv6とのかかわりは意外に長い。Windows OSにIPv6が初めて実装されたのは、Windows NT 4.0であった。Microsoft Researchが開発し公開したMSRIPv6という実験用IPv6スタックが1998年3月23日に初めて公開されている。その後Windows 2000のリリースとともにMSDN Technology Previewという形で開発が続けられ、Windows XPではIPv6スタックが初めて標準で搭載された。

 このようにWindows OSにIPv6が製品として搭載されたのはWindows XPが最初であったが、手動でIPv6スタックをインストールしなければ利用できず、まだ開発用の特殊な追加機能という性格が強かった。

Windows VistaのIPv6サポート

 Windows Vistaがこれまでと違うのは、IPv6が追加機能ではなくネットワーク機能のベースとなっている点である。Windows VistaをインストールするとIPv6がそのまま利用できるのはもちろん、OS標準のサービスすべてがIPv6で動作するようになっている。

 Windows VistaではデュアルIPレイヤと呼ばれる新しいアーキテクチャで再設計されたTCP/IPスタックが導入されている。これまではIPv4とIPv6は別々のコンポーネントとして実装されていたが、Windows Vistaからは1つのコンポーネントがIPv4/IPv6どちらのプロトコルもサポートできるよう設計・実装されている。この新しいアーキテクチャにより、IPv4/IPv6それぞれで別のTCP/IPスタックを開発する必要がなくなり、より効率がよく堅牢なTCP/IPスタックとなった。

デュアルIPレイヤ・アーキテクチャ
Windows Vistaでは、1つのコンポーネントでIPv4とIPv6の両方のプロトコルをサポートできるよう新規に設計・実装されている。

 この新しいTCP/IPスタックをベースに、Windows VistaではInternet Explorer 7によるHTTP接続のIPv6対応はもちろんのこと、DNSなどのインフラサービスやファイル共有といったサービスまで、どのサービスでもIPv6がサポートされている。

 またこれらのサービスを利用する際、IPv6での接続が優先的に使用されるようになっている。DNSで名前解決を行った際にAAAAレコード(*)が返されると、まずIPv6で接続を試みるようになっているのである。もちろんIPv6に対応しないホストにはIPv4で接続を行うが、IPv6をサポートしている環境では特別な変更なしにIPv6による通信が行われることになる。

* DNSサーバで定義されるレコードの種類の1つ。128bitのIPv6アドレスを定義するために利用される。これに対し従来の32bitのIPv4アドレスは、Aレコードで定義される。

 さらに、「ピュアIPv6環境」と呼ばれるIPv4を一切利用しない構成もサポートされ、IPv6のみを利用するネットワーク環境で利用することがWindows Vistaで初めて可能になった。ピュアIPv6環境のサポートによって、真にIPv6ネイティブ対応のOSと呼べるものとなっている。

IPv6アドレスについて

■IPv6アドレスの表記方法
 先に説明したとおり、IPv6アドレスは128bitとIPv4アドレスに比べて非常に長いため、アドレスを10進数でなく、16進数形式で表記する。具体的には128bitのIPv6アドレスを16bitごと(16進数で4桁ごと)に“:”(コロン)記号で8個に区切り、“2001:0380:01f1:0000:0000:0000:0000:0001”などと記述する。ただしこのままではまだ長くて扱いづらいので、さらに短くするための規則がある。

 まず連続する“:0000:”をまとめて省略し、“:”を2つ並べた“::”で代用できる。上のIPv6アドレスならば“2001:0380:01f1::0001”となる(ここでは4つの“:0000:”をまとめて1つの“::”としている)。ただし1つのIPv6表記中で利用できる“::”は多くても1回だけである(2回以上利用すると、元の“:0000:”の場所が分からなくなるため)。

 さらにそれぞれの16進数表記において、先頭に置かれている0(ゼロ)は省略して表記できる。これにより、さらに“2001:380:1f1::1”と短く表記できる。

 またIPv6アドレスの最後にパーセント記号“%”が付いている場合がある。これはインターフェイスを区別するIDで、コンピュータ上にある複数のネットワーク・インターフェイスのうち、どのインターフェイスなのかを区別するために利用する。物理的なイーサネット・アダプタのほか、VPN接続やダイヤルアップ・リンクもインターフェイスの一種として認識される。例えば“2001:380:1f1::1%4”は、インターフェイスIDが4番のアダプタを使うという指定である。

■グローバル・アドレスとリンク・ローカル・アドレス
 IPv6アドレスには、グローバル・アドレスとリンク・ローカル・アドレスの2種類がある(以前はサイト・ローカル・アドレスもあったが、現在は廃止されている)。グローバル・アドレスは、全世界中でユニークなアドレスのことであり、JPNICやISPなどから公式に割り当てられたアドレスのことである。一方リンク・ローカル・アドレスは、名前の通り同じ通信リンク上(イーサネットであればブロードキャスト・ドメイン内)でのみ利用できる限定的なアドレスのことである。同じリンク上でアドレスが重複せずユニークになるよう手順を踏んだ上で、自動的に生成され、利用できるようになっている。なおリンク・ローカル・アドレスは同じ通信リンク上でのみユニーク性が保証されるため、ルータはリンク・ローカル・アドレスをルーティングしない。

IPv6アドレスの確認
Windows VistaでIPv6アドレスを確認したい場合は、[コントロールパネル]の[ネットワークと共有センター]で表示されたネットワーク接続の一覧から、[状態を表示]をクリックし、ネットワーク接続の状態ダイアログを表示させる。そして[詳細]ボタンをクリックすると、現在の接続の状態やIPv6アドレスなどを確認できる。これは、ある無線LANインターフェイスに割り当てられたIPアドレスの例。
  ネットワーク接続の状態ダイアログでこのボタンをクリックすると、IPアドレスの詳細が表示される。
  割り当てられたグローバル・アドレス。IPv6では同時に複数のアドレスを利用できるため、ひとつのインターフェイスに複数のアドレスが表示される。
  割り当てられたリンク・ローカル・アドレス。
  これはIPv6のPrivacy Extension(RFC 3041)という機能を適用したアドレス。IPv6アドレスはアドレス空間が膨大なため、IPv4アドレスのようにリンクへ接続するごとにDHCPによってアドレスが変更されるということがあまりない。そのためアクセスに利用している端末がアドレスによって特定されてしまうという懸念から、定期的にアドレスの一部を変更する拡張機能が提案されている。それがこのアドレスである。
 

 INDEX
  Vistaの地平
  第10回 IPv6を取り込んだVistaのネットワーク機能
  1.VistaのIPv6サポート
    2.IPv6で始まる新しいエクスペリエンス
    3.Windowsミーティング・スペース
 
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