第34回 XML勧告を理解するために必要な外部の文書 Page 3

川俣 晶
株式会社ピーデー
2005/6/3

参考文献(A.2 Other References)

 「A References(附属書A(規定)文献)」は、規定とされているので、それに含まれるこの「A.2 Other References(参考文献)」も規定と認識する必要がある。しかし、事実上は、Non-Normative(参考)と見なしてよいものである。何しろ、JIS規格では、「参考」文献とまでいい切られているほどである。

 実際、ここに出てくる文書は、XML勧告を解釈するうえで必須ではない。筆者も読んだことのない文書がいくつも含まれている。本当は読んだ方がよいのだろうが、何となく必要性に迫られずに読んでいないものがあるのが現状である。

 以下、これらの文書を見ていこう。

Aho/Ullman
Aho, Alfred V., Ravi Sethi, and Jeffrey D. Ullman. Compilers: Principles, Techniques, and Tools. Reading: Addison-Wesley, 1986, rpt. corr. 1988.

 「E Deterministic Content Models (Non-Normative)(附属書E(参考)決定的内容モデル)」で参照されている書籍である。コンパイラについて記述した名著であるらしい。コンパイラとXMLにどのような関係があるかと思われるかもしれないが、関係があるのはコンパイラではなく「決定的内容モデル」についてであろう。

Brüggemann-Klein
Brüggemann-Klein, Anne. Formal Models in Document Processing. Habilitationsschrift. Faculty of Mathematics at the University of Freiburg, 1993. (See ftp://ftp.informatik.uni-freiburg.de/documents/papers/brueggem/habil.ps.)

 「E Deterministic Content Models (Non-Normative)(附属書E(参考)決定的内容モデル)」で参照されている文書である。JIS X 4159では以下のように記されている。

extended abstractが収録されているのはI. Simon, Hrsg., LATIN 1992, S. 97-98. Springer-Verlag, Berlin 1992,ジャーナル論文が収録されているのはTheoretical Computer Science 120: 197-213, 1993.

Brüggemann-Klein and Wood
Brüggemann-Klein, Anne, and Derick Wood. Deterministic Regular Languages. Universität Freiburg, Institut für Informatik, Bericht 38, Oktober 1991. Extended abstract in A. Finkel, M. Jantzen, Hrsg., STACS 1992, S. 173-184. Springer-Verlag, Berlin 1992. Lecture Notes in Computer Science 577. Full version titled One-Unambiguous Regular Languages in Information and Computation 140 (2): 229-253, February 1998.

 実は、この文献はXML 1.0勧告内で参照されていない。これは、1つ手前の「Brüggemann-Klein」に対する「注」のようなものと考えればよいそうである。JIS X 4159では以下のように記述されている。

Extended abstractが収録されているのはA. Finkel, M. Jantzen, Hrsg., STACS 1992, S. 173-184. Springer-Verlag, Berlin 1992. Lecture Notes in Computer Science 577,ジャーナル論文はOne-Unambiguous Regular Languages in Information and Computation 140 (2): 229-253, February 1998.

Clark
James Clark. Comparison of SGML and XML.(See http://www.w3.org/TR/NOTE-sgml-xml-971215.)

 「C XML and SGML (Non-Normative)(附属書C(参考)XMLおよびSGML)」より参照されているXMLとSGMLとを比較した文書である。W3CのNote(勧告ではなく参考のために掲載されている強制力のない文書)として公開されている。比較だけでなく、XML文書をSGMLプロセッサで使用するためのSGML宣言なども含んでいる。

IANA-LANGCODES
(Internet Assigned Numbers Authority) Registry of Language Tags, ed. Keld Simonsen et al. (See http://www.iana.org/assignments/language-tags.)

 実はThird Editionでは参照されなくなった文書である。削除忘れ、という可能性も考えられる。

IETF RFC 2141
IETF (Internet Engineering Task Force). RFC 2141: URN Syntax, ed. R. Moats. 1997. (See http://www.ietf.org/rfc/rfc2141.txt.)

 本文からは参照されていない。URNつまりUniform Resource Namesの構文を規定する文書である。

IETF RFC 3023
IETF (Internet Engineering Task Force). RFC 3023: XML Media Types. eds. M. Murata, S. St.Laurent, D. Kohn. 2001. (See http://www.ietf.org/rfc/rfc3023.txt.)

 XMLのメディアタイプ、つまり「text/xml」や「application/xml」といった名称を規定するとともに、どのように使い分けるかを規定した文書である。「F.2 Priorities in the Presence of External Encoding Information(F.2 外部の符号化情報が存在するときの優先順位)」より参照されているが、実際には非常に多くの用途で関連性を持つ重要な文書といえる。日本のXML界の第一人者である村田真さんの労作でもある。

IETF RFC 2781
IETF (Internet Engineering Task Force). RFC 2781: UTF-16, an encoding of ISO 10646, ed. P. Hoffman, F. Yergeau. 2000. (See http://www.ietf.org/rfc/rfc2781.txt.)

 UTF-16の使い方の指針を示した文書である。Category: Informationalと書かれているとおり、強制力のある規定というわけではない。本来、UTF-16は文字に関する標準であるISO/IEC 10646やUnicodeが定めるべきものであるが、これらは政治的な力関係から各論併記になりがちで使いにくい。それに対応して書かれたものがこれである。

 明確には示されていないが、「F Autodetection of Character Encodings (Non-Normative)(附属書F(参考)文字符号化の自動検出)」と強く関係がある。

ISO 639
(International Organization for Standardization). ISO 639:1988 (E). Code for the representation of names of languages. [Geneva]: International Organization for Standardization, 1988.

 日本語や英語などの言語を示す名前を規定する国際規格である。

 「1.1 Origin and Goals(1.1 経緯および目標)」より参照されているが、実際に言語を扱う規定「2.12 Language Identification(2.12 言語識別)」から参照されているのは[IETF RFC 3066]の方である。そして、[IETF RFC 3066]の中で、さらにISO 639が参照されている。

ISO 3166
(International Organization for Standardization). ISO 3166-1:1997 (E). Codes for the representation of names of countries and their subdivisions - Part 1: Country codes [Geneva]: International Organization for Standardization, 1997.

 言語ではなく国を示すコードであるほかは、ISO 639とほぼ同じ扱いである。言語指定において、国によって言語を区別する(イギリス英語とアメリカ英語を区別するなど)場合に、国情報が必要とされるために参照されている。

 なお、これには一致するJIS規格があるため、JIS X 4159では以下の規格が参照されている。

JIS X 0304:1999 国名コード

ISO 8879
ISO (International Organization for Standardization). ISO 8879:1986(E). Information processing - Text and Office Systems - Standard Generalized Markup Language (SGML). First edition - 1986-10-15. [Geneva]: International Organization for Standardization, 1986.

 いうまでもなくSGMLはXMLのご先祖さまとなる偉大なる先駆者である。これを参照せずにXMLは語れないのは当然である。しかし、これが「必須の文書」である「A.1 Normative References(A.1 引用規定)」ではなく、「A.2 Other References(A.2 参考文献)」に含まれていることに注意しよう。つまり、XMLを語る場合にSGMLは避けて通れないのだが、XMLという言語の規定を把握するためにSGMLを知ることは必須ではないということである。つまり、(あり得ない仮定ではあるが)何らかの理由でSGMLが滅び、一切の仕様書が手に入らない状況が発生したとしても、XMLはXML単独で生き続けることができるわけである。

 なお、これには一致するJIS規格があるため、JIS X 4159では以下の規格が参照されている。

JIS X 4151-1992 文書記述言語SGML

ISO/IEC 10744
ISO (International Organization for Standardization). ISO/IEC 10744-1992 (E). Information technology - Hypermedia/Time-based Structuring Language (HyTime). [Geneva]: International Organization for Standardization, 1992. Extended Facilities Annexe. [Geneva]: International Organization for Standardization, 1996.

 これは本文から参照されておらず、なぜここに書かれているかよく分からない。HyTimeとはハイパーテキストとマルチメディアを扱うSGMLベースの言語である。幅広く普及したとはいいがたい言語であるが、この手の話題を扱っているとしばしば出てくる名前である。

 なお、これには一致するJIS規格があるため、JIS X 4159では以下の規格が参照されている。

JIS X 4155:2000 ハイパメディアおよび時間依存情報の構造化言語(HyTime)

WEBSGML
ISO (International Organization for Standardization). ISO 8879:1986 TC2. Information technology - Document Description and Processing Languages. [Geneva]: International Organization for Standardization, 1998.(See http://www.sgmlsource.com/8879/n0029.htm.)

 これはSGMLをXMLに一致させるためのSGMLベースの一種の拡張のための仕様である。

 なお、これには一致するJIS規格があるため、JIS X 4159では以下の規格が参照されている。

JIS X 4151:2001 文書記述言語SGML(追補2)

XML Names
Tim Bray, Dave Hollander, and Andrew Layman, editors. Namespaces in XML. Textuality, Hewlett-Packard, and Microsoft. World Wide Web Consortium, 1999. (See http://www.w3.org/TR/REC-xml-names/.)

 いわずと知れた、XML名前空間である。XML 1.0勧告に、名前空間の機能を付与する勧告である。

 なお、これには一致するJIS 技術情報(TR)があるため、JIS X 4159では以下の規格が参照されている。

TR X 0023:1999 XML名前空間

 余談だが、これはJIS X 4158 「XML名前空間」として制定する作業中である。これも「技術情報(TR)」ではなく、より強制力のある「規格」になる見込みである。

 以上で、「A References(附属書A(規定)文献)」を読み終えた。XML 1.0勧告を正しく把握するために、どのような文書が必要であるかが分かっていただけたと思う。さて、次回は、「B Character Classes(附属書B(規定)文字クラス)」を読んでいく。ここでは、どのような文字を要素などの名前に使えるのか、その詳細に立ち入っていく。割と身近な話題でもあるので、請うご期待である。(次回に続く)

3/3

 Index
やさしく読む「XML 1.0勧告」 第34回
XML勧告を理解するために必要な外部の文書
  Page 1
・附属書の位置付け
・References(文献)を提示する意味
  Page 2
・附属書A(規定)文献(A References)
・引用規定(A.1 Normative References)
Page 3
・参考文献(A.2 Other References)


連載 やさしく読む「XML 1.0勧告」


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