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連載:国際会計基準の会計処理を理解しよう(1)

IFRSの根幹:フレームワークと財務諸表とは

山田和延
プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント株式会社
2009/7/16

国際会計基準(IFRS)で特徴的なのは「フレームワーク」の存在だ。財務諸表の体系も日本の会計基準と比べると大きく変わる。IFRSを貫く基礎的な考えを示すフレームワークを解説し、IFRSにおける財務諸表の表示と体系を説明する(→記事要約<Page 3>へ)

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 今回から2回に分けてIFRSの入門編としてIFRSの基礎となるフレームワークや表示、収益認識、研究開発費、リース会計、金融商品・デリバティブなどの特徴的な会計処理の項目を解説する。第1回目はIFRSのフレームワーク並びに財務諸表の表示と体系を採り上げる。

IFRSのフレームワークとは

(1)フレームワークの意味

 IFRSには「フレームワーク」が存在する。一般にフレームワークとは枠組みや体系などの意味があるが、IFRSのフレームワークとは何を意味するのであろうか?

 IFRSには様々な会計基準や解釈指針があるが、これらはやみくもに作られているわけではない。考え方の基礎や前提となる概念が存在しており、この概念をベースにそれぞれの会計基準が作成されている。この基礎や前提となる概念がIFRSのフレームワークである。会計基準の一般原則のようなものだ。

 フレームワークでは財務諸表の目的、そもそもの前提となる事項や財務諸表の特性などが記載されている。また、資産や負債、資本、収益、費用がどのような性質であるのか、これらがどのタイミングで財務諸表に記録され、そのとき計上する金額の測定方法として、どのようなものがあるかなどが記載されている。

 フレームワーク自体は会計基準そのものではないが、会計基準の考え方の基礎となる。基準に記載されていない項目を判断するときや、監査人が意見を形成するときに役立つ。

(2)IFRSのフレームワーク構成

 フレームワークに記載されている内容について、主要な項目をもう少し詳しく説明する。

  • 財務諸表の目的

 財務諸表の利用者はさまざまであるが、財務諸表作成の目的は、このさまざまな利用者が意思決定をするに当り、財政状態、経営成績および財政状態の変動(たとえばキャッシュ・フロー計算書)に関する有用な情報を提供することにある。典型的には投資家が株の売り買いを判断するときや、経営者の再任や交代などの判断に当り、よりどころを提供するということである。

  • 基礎となる前提

 財務諸表は、発生主義と継続企業の2つを基礎となる前提としている。発生主義とは、取引や事象はその発生時に認識されるということである。これと対比されるのが現金主義であるが、現金主義では現金が入ってくるときや出てくるときに取引として認識される。発生主義では、たとえ現金が入ってこない段階であっても、事実が発生したときに認識するのである。

 例えば、業者から品物を後払いで購入した場合、代金を払うときに仕入を認識するのではなく、品物を購入したという事実が発生した段階で仕入を計上する。これが発生主義である。なお、キャッシュ・フロー計算書については必然的に発生主義ではなく現金主義となる。

 また、継続企業の前提とは、企業は将来にわたって事業活動をするであろうという前提に立って財務諸表が作成されることである。したがって、企業が解散し、清算した場合などを意図しているわけではない。

  • 質的特性

財務諸表の質的特性として理解可能性、目的適合性、信頼性、比較可能性の4つの主要な特性を挙げている。いずれも読んで字のごとくであるが、比較可能性については、ある企業において、企業の各期を通じて比較可能であることのみならず、異なる企業間でも比較可能でなければならないということも含んでいる。

  • 財務諸表の構成要素

 企業の財政状態に直接関係する構成要素は資産、負債、持分であり、経営成績に直接関係する構成要素は収益と費用である。

 資産・負債、持分・収益・費用の定義は下記のとおりである。この定義をそのまま理解するのはちょっと難しいので、厳密性にはかけるかもしれないが解釈もあわせて記載したので参考にしていただきたい。

財務諸表の構成要素
項目
定義
解釈
資産
過去の事象の結果として当該企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該企業に流入することが期待される資源
購入や生産などの過去の活動によって企業が持っているもので、今後、現金などの経済価値があるものが企業に入ってくる可能性が高いもの
負債
過去の事業から発生した当該企業の現在の債務であり、これを決済することにより経済的便益を包含する資源が当該企業から流出する結果になると予想されるもの
過去の活動によって企業が負っている責務で、お金を払ったり、役務を提供するなど、何らかの経済価値が企業から出て行く可能性が高いもの
持分
企業のすべての負債を控除した、残余の資産に対する請求権
資産から負債を引いた差額で、株主がもらう権利のあるもの
収益
当該会計期間中の資産の流入もしくは増加または負債の減少の形をとる経済的便益の増加であり、持分参加者からの拠出に関連するもの以外の持分の増加を生じさせるもの
当該会計期間の中で、資産増加や負債減少など経済価値が増えるもので、結果として株主からの出資以外で持分が増えるもの
費用
当該会計期間中の資産の流出もしくは減価または負債の発生の形をとる経済的便益の減少であり、持分参加者への分配に関連するもの以外の持分の減少を生じさせるもの
当該会計期間の中で、資産減少や負債増加など経済価値が減ってしまうものであり、結果として株主への分配以外で持分を減らすもの

 

  • 構成要素の認識と測定

 認識とは会計帳簿に記録されるタイミングのことであり、上記構成要素の定義を満たすものが次の状態になったときに認識される。

    将来の経済的便益が企業に流入するか、または流出する可能性がかなり高く、かつ

    その項目が信頼性を持って測定できる原価または価値を持っている。

 つまり発生可能性が高く、かつ信頼性を持って金額測定できる状態になったときに計上することになる。

 また、測定とはいくらで計上するか? ということであり、方法としては、(1)取得原価、(2)現在原価、(3)実現可能価額、(4)現在価値がある。資産を例にとると、(1)取得原価は、取得時に支払われた金額、(2)現在原価は現時点で取得するとした場合の金額(現在価値への割引は考慮しない)、(3)実現可能価額は通常の営業過程で処分することによって得られる金額(現在価値への割引は考慮しない)、(4)現在価値は将来の現金流入額の割引現在価値を意味する。財務諸表の構成要素は、これらの方法のうち、最も適した方法で計上されることとなる。

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