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連載:IFRS基準書テーマ別解説(2)

「有形固定資産」は2つの要件で認識される

安藤智洋
仰星監査法人
2009/10/22

IFRSを構成する主要な基準書をテーマ別に解説する連載の2回目。多くの企業にとって影響のあるIAS16号「有形固定資産」について日本基準との比較も含めて解説する。IAS23号「借入費用」についても触れる

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減価償却の単位

 有形固定資産の取得原価に対して重要な構成部分は個別に減価償却しなければならない。例えば、航空機では機体部分とエンジン部分を個別に減価償却することが適切となる場合がある。従って、企業は有形固定資産の取得時に、重要な構成部分に取得原価を配分することになる。

 また、有形固定資産の構成部分には、一定時間ごとに取替えを必要とするものがある。取替部分の費用が有形固定資産の認識基準を満たす場合には、当該費用を帳簿価額に含めるとともに、取替えられた部分については除却する。そのため、企業は取替えられた部分の帳簿価額について把握できるようにしておく必要がある。しかし、実務においては、取替えられた部分の帳簿価額を把握することが困難であることも多い。そこで、取替部分の原価を、取替えられた部分の当初取得原価として用いることが認められている。

 現在の日本基準では、有形固定資産の構成部分ごとに帳簿価額を把握することは要求されていない。IFRS適用後は有形固定資産の帳簿価額について、より詳細な情報を入手できるような管理体制が必要となる。

残存価額及び耐用年数

 減価償却費を計算するには、残存価額、耐用年数を決定しなければならない。日本の実務では、これらは税法の規定に従って決定することが多いがIFRSでは個々の資産ごとに検討し見積もる必要がある。同種の資産であっても使用方法によって残存価額や耐用年数が異なることがあるため、実務における負担は確実に増大することになる。さらに、上記の見積項目は少なくとも各事業年度末には見直す必要があり、以前の見積もりと異なる場合には「会計上の見積もりの変更」として会計処理しなければならない。

減価償却方法

 減価償却の方法は将来の経済的便益が消費されると予測されるパターンを反映したものでなければならない。ここで、将来の経済的便益とは、現金獲得や費用削減に貢献する能力のことである。企業は有形固定資産を使用することで現金を獲得(もしくは費用を削減)する。しかし、それと引き換えに有形固定資産は現金獲得(費用削減)能力を失っていく。つまり、減価償却はその失われた能力を適切に反映するように行う必要がある。減価償却方法には定額法、定率法及び生産高比例法が含まれる。

 残存価額や耐用年数と同様に、減価償却方法も少なくとも各事業年度末に見直しを行う必要があり、減価償却方法が変更される場合には「会計上の見積もりの変更」として会計処理しなければならない。従って、IFRSでは減価償却方法を変更してもその影響額は将来に向かって修正するのみであり遡及修正の必要はない。

 なお、日本基準では、減価償却方法の変更は「会計方針の変更」として扱うとされている点でIFRSと相違している。会計方針の変更については遡及適用することを企業会計基準委員会の「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準(案)」で提案しているが、減価償却方法の変更については「会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合」として遡及適用は行わないと規定している。従って、上記基準が適用されても会計処理自体はIFRSと違うところはない。

認識の中止

 有形固定資産は(1)処分された場合、あるいは(2)その使用または処分から将来における経済的便益が何ら期待されないときに認識を中止する。処分の日付を決定するにはIAS第18号「収益」の要件を適用する。

 有形固定資産の認識の中止から生じる利得や損失は、認識中止時に損益に計上する。ただし、利得を収益に計上することはできない。なお、収益とは企業の通常の事業活動から生じる経済的便益の流入(例:売上高)であり、利得とは収益以外の経済的便益の増加である。

 通常の有形固定資産の認識中止時における会計処理は上記のとおりである。しかし、賃貸目的で保有する有形固定資産を通常の事業活動において販売している企業は、有形固定資産の賃貸が終了し販売目的に切り替わった時点で、その帳簿価額を棚卸資産へ振替えなければならない。そして、当該資産の売却収入は収益認識要件に従って収益として認識することになる。

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