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連載:IFRS基準書テーマ別解説(3)

IFRSと日本の「減損会計」、その違いは?

長谷川卓昭
仰星監査法人
2009/12/3

IFRSを構成する主要な基準書をテーマ別に解説する連載の3回目。日本基準と比べて大きな違いがある減損会計についての会計基準「IAS36号」と、投資不動産についての「IAS40号」を解説する

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当初認識と測定

 投資不動産は、前回解説した有形固定資産と同様に、資産の要件を満たした時点で資産として認識され、当初の認識時点における取得原価で測定される。

当初認識後の測定

 いったん投資不動産が取得原価によって当初認識されると、企業は、(1)公正価値モデルまたは(2)原価モデルのいずれかを会計方針として選択し、すべての投資不動産に対して、その選択したモデルを継続適用しなければならない。

(1)公正価値モデル

 公正価値モデルを選択する企業は、当初認識後、「公正価値が信頼性をもって算定不可能な場合」等の一定の場合を除いて、以下のような会計処理を行う。

  • すべての投資不動産を公正価値で評価する
  • その公正価値の変動から生ずる差損益は、発生した期の損益に含めなければならない
  • 投資不動産の公正価値は、各報告期間末日における市場の状況を反映するものでなければならない

 投資不動産の公正価値とは、取引の知識がある自発的な当事者の間で、独立第三者間取引(取引価格を市場の状況とは無関係にしてしまうような特定の、または特別な関係がない当事者間で行われる取引である)条件により、資産が交換される価額をいう。また、公正価値を決定するために用いる最適な指標は、その投資不動産と同一の所在地や状況にあり、かつ、類似する契約が結ばれている、類似した不動産の活発な市場での現在価格となる。

 有形固定資産の再評価モデルと投資不動産の公正価値モデルの両者は、取得原価の再評価を行う点は共通するが、両者の違いは下記の表のとおりである。

  再評価モデル 公正価値モデル
対象
自社使用の有形固定資産や無形固定資産
売買・賃貸目的の投資不動産
評価の頻度
期末時点での帳簿価額と公正価値が大きく異ならないのであれば、毎期再評価する必要はない
毎期末に必ず公正価値で評価する
評価差額の処理
評価増:その他包括利益に計上
評価減:損失計上
評価増・評価減とともに損益計上
減価償却・減損 実施する 実施しない

(2)原価モデル

 原価モデルを選択する企業は、当初認識後、その投資不動産のすべてをIAS16号(有形固定資産)に従って、原則として、取得原価から減価償却累計額及び減損損失累計額を控除した価額で計上する会計処理を行う。ただし、原価モデルを採用した場合にも、投資不動産の公正価値を注記する必要がある。

 原価モデルは、有形固定資産の日本基準での処理と比較的近いと考えられているが、取扱いの異なる部分(減価償却の単位や残存価額、耐用年数の決定など)が存在する。

IFRS適用へ向けての留意事項

(1)情報開示にかかる負担

 IAS40号のいずれのモデルを採用しても、財務諸表の読み手が他方のモデルに組み替えるに足る情報が開示される事になる。つまり、IAS40号に従い、原価モデルを採用した場合でも、投資不動産の公正価値等を注記で開示しなければならず、毎期、公正価値情報の入手を行う必要がある。そのため、どちらを選択しても実務的な負担はほぼ変わらず、包括利益計算書(損益計算書)への影響の有無だけが差異となる。

(2)公正価値の決定

 公正価値として、活発な市場における現在の価格がない場合は、異なる種類等の不動産に対する活発な市場の現在の価格を調整した価格や将来の見積キャッシュフローの割引後の金額等、最も信頼性の高い公正価値の評価額を決定する必要がある。この際、独立鑑定人の評価を利用することが考えられる。

筆者プロフィール

長谷川 卓昭(はせがわ たかあき)
仰星(ぎょうせい)監査法人

2001年3月早稲田大学政治経済学部卒。2007年11月公認会計士試験合格。大学卒業後、モルガン・スタンレー証券株式会社 債券統括本部(セールス&トレーディング)入社。その後、大手監査法人、大手税理士法人を経て、2008年9月に仰星監査法人東京事務所入所。部分執筆書に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。

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