それでも前向きな米IT業界

2001/8/16

 このところの円高は、日本の政治・経済の状況ではなく、米国の景気後退によるものだという見方が強い。1990年代の米国の比類なき好景気を支えてきたのはIT業界各社だった。今回の景気減速も、業績が振るわないIT業界が背景にある。

 インターネット関連株の株価がピークに達したのは、1999年5月。以来、平均株価はなだらかな落下曲線を描いている。ドットコム・バブルの影の立役者、ベンチャー・キャピタル(VC)の投資額は、6四半期連続で減少しており、2001年第2四半期の投資総額は、前年同期比66%減の80億ドルにとどまった。

 調査会社のIDCでは先日、最近のIT業界の傾向を指摘したレポートを発表した。例えば、大放出セール状態にあるドットコム企業。既存企業がブリック・アンド・モルタルからクリック・アンド・モルタルへ移行する際に、Webのノウハウを持ちインターネット上で認知度もある優良なドットコム企業を、驚くほど安値で買収しているという。他にも、VCの投資先への評価基準が厳しくなりIPOの数が減少したことや、慢性的不足に悩まされたITプロフェッショナルの人数問題が解消されつつあるなどの指摘がある。

 興味深いのが、開発モデルの変化。ここ数年のトレンドは、多くの企業が技術サイドは技術力のあるベンチャーに頼り、社内の研究・開発(R&D)にかかる経費を削減することだった。あるいは、資本力のある企業の場合、単純にベンチャーを買収してきた。その結果、社内のR&D部門は製品開発部門へと役割を変えた。買収により成長を重ねてきたシスコシステムズでは、製品開発すらアウトソースしてきた。そういえば、スタンフォード大学などの大学・研究機関では、投資家や企業の目にとまった優秀な学生が、製品になる(ビジネスになる)研究しか行わなくなってきたという話を聞いたことがある。

 IDCのレポートでは、「この結果、米国の基礎技術での先進性が失われたという見方もある」としている。が、米国のIT事情や投資事情に詳しい、サンブリッジ代表取締役社長 アレン・マイナー氏は、意を異にする。「IBMやゼロックスなどごく限られた巨大企業を除き、基礎研究のアウトソーシングは以前から行われてきたこと」とマイナー氏、課題視すべきは製品開発のアウトソースだという。

 アウトソースしたものを自社内に統合・吸収することは、簡単なことではない。経営陣の手腕やノウハウが問われる。一方で、時間軸が短くなっていくビジネス環境で、アウトソースという方法を使わずに競合他社と戦うことは効率的ではない。「これからは、アウトソースとインハウスをバランスよく使い分けることが必要だ」とマイナー氏は続ける。それができる企業が、淘汰の波を生き残ることができる企業ということになる。

 ITバブルを1970〜1980年代のPC業界の動きになぞらえるアナリストは多い。同レポートでも、BtoBなどの巨大な潜在市場があることやIT投資の成長率がGDPの成長率を上回っていることを示し、悲観材料ばかりではないことを印象付けようとしている。

 先のマイナー氏も楽観派だ。「1983年に最高潮に達し後退していったPC業界で、画期的なHDDを生み出したConner Peripheral'sが誕生したのはバブル崩壊後の1987年のこと。その意味では、まだ本当に力のあるインターネット企業は誕生していないのかもしれない」(マイナー氏)。後に大輪の花を咲かせる芽が、いまどこかで、静かに芽吹きつつあるのかもしれない。

[関連リンク]
IDCの発表資料

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