2004年を支配する“低コストと短納期”

2004/1/9

 2004年のIT業界は、セールスフォース・ドットコムやグーグルがIPOを成し遂げて、久しぶりにITバブルの頃のような話題が戻ってくるかもしれない。しかし一方で、引き続きITに対する低コスト化と短納期化への要求は続くはずだ。この記事では、2004年にその2つの分野で注目される、ハードウェアの仮想化と開発ツールの動向について見ていきたい。

 2003年のIT業界「流行語大賞」があったとすれば、「グリッド」や「オートノミック」は有力候補としてノミネートされただろう。この1年でこうした言葉をはやらせたのは、IBMやオラクル、サン・マイクロシステムズといったサーバ系のベンダだった。各社の戦略の大枠は、複数のプロセッサを仮想化して巨大なプロセッサに見せることで、より高い性能と信頼性を持つコンピュータを実現しようという方向で一致している。目標は、メインフレームやスーパーコンピュータよりもずっと低価格で、しかし機能や性能や信頼性、拡張性でそれ以上のものを実現することだ。インテルやヒューレット・パッカード、デルなども、この流れに乗ろうとしている。2004年に一部の大企業では、大規模クラスタやグリッドが、メインフレームやスーパーコンピュータを置き換えるかもしれない。

 仮想化に関してはそれ以外にも、マイクロソフトが「Virtual PC」の開発元コネクティクスを昨年買収し、ストレージベンダの最大手EMCもVMwareの買収を突然発表している。この2社が目指すのは、前述の3社とは別の方向だ。マイクロソフトは最新OS上に設けた仮想マシンで過去のOSを走らせ、OSの下位互換性を確保するのが狙いのようで、一方のEMCは分散したストレージの管理を容易にするための技術として利用するのではないか考えられている。仮想化の技術は応用範囲が非常に広い。EMCがVMwareを買収すること自体が驚きをもって迎えられたように、2004年も仮想化を軸に驚かせてくれる製品やアイデアが登場するはずだ。

 システム構築をできるだけ短納期かつ低コストで、という要求は、2004年も一層強まってくる。ボーランド 営業本部 マーケティング部 部長 藤井等氏はJBuilder Xを発表する際に、「いまでは3カ月でも短納期といえないケースさえでてきた」と述べた。短納期かつ低コストのシステム構築を実現するには、機能をコーディングする方法ではもう限界が近い。開発ツールは、効率よくコーディングするための道具から、顧客の要求を実現するためのコンポーネントをチームで素早く組み上げるための枠組みへと向かっている。

 そのための材料となるのが、UML、Javaや.NET、Webサービスなどの技術だ。UMLで顧客の要求を記述し、Javaや.NETのコンポーネントやフレームワークを利用して組み立て、Webサービスによって連携させる。たとえ開発の現場がこのような先端的なものとはまだ距離があるとしても、最新機能を追いかけざるを得ない開発ツールは、こうした一連の作業を手助けするための機能の充実が進むだろう。とりわけJavaではEclipseの台頭とJavaSever Facesの登場という2つの大きな波が押し寄せており、2004年のJava開発環境はこの2つを軸に展開するはずだ。

 さらにチームでの開発、開発後のテストフェーズの統合が、開発ツール差別化の大きな要素になる。UML、Javaや.NET、Webサービスは標準化が進み、機能上の大きな差異がつくりにくいのに対して、チーム開発やテストは作りこみによって機能や使い勝手に大きな差が表れる。しかも、もしこれらを自動化できれば、開発期間の縮小と品質向上に大きなインパクトがある。ボーランドがトゥゲザーを、IBMがラショナルを買収してツールのUML対応が進んだように、2004年はツールベンダがテストスイートのベンダを買収することがあるかもしれない。

(編集局 新野淳一)

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