SOAはやはり期待外れに終わるのか

2004/3/17

 「SOA(サービス指向アーキテクチャ)やAPS(アプリケーション・プラットフォーム・スイート)は過度に宣伝された。間もなく過剰報道のピークを過ぎ、ユーザーの幻滅期に向かうだろう。BPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)はすでに下り坂にさしかかっているが、2年未満に安定期を迎える。新しいテクノロジは、当初は過度に期待がふくらみ、いったん失望の底を経て、やがて緩やかに成熟期を迎える。統合型ミドルウェアを採用するに当たり、先進テクノロジの動きを見極めるのが大切だ」

 ガートナー ジャパン主催のカンファレンス「アプリケーション統合&Webサービス 2004」の基調講演に立った米ガートナー バイスプレジデント兼ディスティングイッシュトアナリスト ロイ・シュルテ(Roy Schulte)氏は、「アプリケーション統合シナリオ」と題した講演で、「新しいテクノロジはメディアの過熱報道が終息した後にようやく成熟期を迎える」点を指摘して、SOAへの過度の期待を戒めた。

基調講演を行ったガートナー バイスプレジデント兼ディスティングイッシュトアナリスト ロイ・シュルテ氏

 もっとも、シュルテ氏はSOAやWebサービスを否定するわけではなく、むしろこれらのテクノロジはアプリケーション統合に重要な役割を果たすと語った。「企業は自社内に複数散在するシステムを統合するために、開発の35%のリソースを費やしている。そこにはファイル転送、ODBC、RPC、MOM、Webサービスといった多種テクノロジが使われているが、それぞれのアプリケーションを個別のテクノロジで連携させていく従来型のアプリケーション統合では、企業の情報システム全体を効率的に統合していくのは不可能だ」とし、次の3つのシナリオを示した。

 全面刷新:すべてをゼロから構築し直す方法は1990年代に流行したが、開発が複雑過ぎて75%は失敗に終わった。その後、単一のERPパッケージ製品の導入ももてはやされたが、膨大なコストと工数がかかり、なおかつ成功の確率は低く、多くは悲惨な結果に終わっている。全面刷新は一部のシステムだけに適用するのが現実的だろう。しかし、新規導入したシステムとレガシーシステムとの統合はどうする、という問題は解決されないままだ。

 ラッピングとリエンジニアリング:既存のアプリケーションはそのまま残し、Webサービスなどの標準技術を使ったSOA型の中間層を設け、ここへ各アプリケーションをプラグインする。これはかなりうまくいくが、2つの問題点を抱えている。1つはデータの一意性を保つのが困難になる。例えば、個々のアプリケーションがそれぞれ顧客データを管理していると、データの同期を取るコストが発生する。2つ目は、XML、SOAPといった低レベルの仕様は安定しているが、上位のWebサービス・セキュリティやBPEL4WS、トランザクションなどの仕様は2008年ごろまで安定しない。プラグインのためのインターフェイスを仕様確定前に独自に作ってしまうと、後で相互接続性に問題が生じる。

 新規レイヤ追加:新旧のアプリケーションやツールを残したまま、高度に抽象化された上位レイヤ(エンタープライズ・サービス・バス=ESB)を設け、全社規模で各部分の統合を図る。重要な点は、下位レイヤでは必要に応じて全面刷新やラッピングとリエンジニアリングを組み合わせて使うことだ。IBMは2004年にESB製品をリリースするとアナウンスしているし、マイクロソフトは次期OS、LonghornにESB機能を持たせた「Indigo」を搭載する。2006年にはシステム開発の3分の1でESBが使われるだろう。

 アプリケーション統合スイート製品は、多くのベンダが参入しつつある魅力的な市場だが、シュルテ氏は「細分化状況が当分継続し、どのベンダも25%以上のシェアを獲得できないだろう」と予測した。現時点で先行しているのは5つのベンダで、大手からはIBMとマイクロソフト、専業ベンダではTibco、webMethods、SeeBeyondを挙げた。これに続いてSonic、BEA、オラクル、SAPなど20社以上がひしめいている。

 「アプリケーション統合で成功を収めるには、特定のベンダが提供する単一製品ソリューションの導入だけでは不十分だ。上述の3つのシナリオを適宜に組み合わせること。そして統合作業に専従するコンピテンシー・センターを設け、“企業神経システム”(ENS)の設計と管理を行うことだ」とシュルテ氏は締めくくった。

(編集局 上島康夫)

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