[Interview] CORBAの第一人者が語る“現実的なSOAの推進法”

2004/6/16

 SOA(サービス指向アーキテクチャ)という語が頻繁に聞かれるようになってきた。SOAはビジネスの仕組みの在り方からシステム接続の実装まで幅広い分野にまたがる包括的な概念で、業界の中でも「よく分からない」との声も多い。

 CORBAおよびWebサービスのベンダとして知られ、SOAに関しても1996年から推進してきたアイオナテクノロジーズの設立者でCEOのクリス・ホーン(Chris Horn)氏に、SOAの進め方と同社の取り組みについて聞いた。


――御社の“SOA”に対する取り組みを教えてください。

アイオナテクノロジーズ CEO(最高経営責任者) クリス・ホーン氏
ホーン氏 弊社は、CORBAのトップベンダとして知られています。初めてソフトウェア製品を出したのは1993年。以来、エンタープライズ向けのミドルウェア・ソフトを提供してきました。

 最近になってArtixという製品を出しました。ミドルウェア・インテグレーションのためのものです。

 これを使うと、CORBAだけでなく、Webサービス、MQシリーズ、Tuxedoなどを相互接続できます。

 SOAも、そのアプローチとして使っています。

――現在、ミドルウェアやシステム・インテグレーションが抱えている課題とは何でしょうか?

ホーン氏 技術面でも製品面でもさまざまなものが存在しているということです。CORBAやJ2EEなどの標準と呼ばれるもののほか、プロプライエタリのMQシリーズ、Tuxedo、TIBCOなどもあります。

 大規模な企業の場合は、社内にこうした複数のミドルウェアが混在しています。 部署やサイトによって使われているミドルウェアが違うというケースは珍しくありません。残念なことに、皆が共通して使っているミドルウェアがなかったわけです。

 “SOA”というアプローチは、既存の情報システムを再度インプリメントし直したり、構築し直したりといったことをしなくてすむというメリットがあります。

――御社の考えるSOAとは、どのようなものでしょうか?

ホーン氏 複雑な組織の場合、ソフトウェア・サービスやソフトウェアを使わないサービスなど、いろいろなものが複雑に使われ、それによってビジネスが動いています。まずは社内にどのようなサービスがあるかを見極め、分類化します。

 次にサービスの内容を明確に定義・記述します。このときに使われるのが、WSDLという標準化された技術です。WSDLを使ってサービスを定義付けることで、ビジネスプロセスの変更があった場合でも、インプリメンテーションをし直す必要はなくなります。

 例えばそれまでは人がやっていたようなサービスを自動化したり、あるいは自前のソフトウェアを使って提供していたサービスをサードパーティ製のパッケージに入れ替えるといった変更もできます。WSDLで定義付けしてあれば、いわば“カプセル化”された状態になるので、組織のほかの部分に影響を及ぼすことなく、そういう変更が可能なわけです。

 既存のサービスをいくつか使って、新しいサービスを生み出すということも可能です。

――SOAを進める上で、システム面ではどのような課題がありますか?

ホーン氏 2つ問題点があると思います。1つはサービスとサービスのコミュニケーション──要するにどう接続していくのかという話、もう1つは既存のソフトウェア資産をどのようにサービス化するかということです。

 接続に関しては、ESB(エンタープライズ・サービスバス)という概念がソリューションとされることがあります。しかし、アイオナとしてもESBのアプローチはサポートしますが、実際には現実的ではないと考えています。というのも、ESBに合わせて統一のテクノロジを使わなければならなくなるからです。

 大企業はすでにミドルウェアに多額の投資をしていることが多く、それを別のものに置き換えるとなると、さらに多額の投資が必要になります。SOAPであれ、JMSであれ、J2EEであれ、1つのテクノロジに統一するのは困難が伴います。しかし、アイオナの場合は、既存のMQシリーズ、CORBA、Tuxedo、JMSなどが実際にうまく機能しているのであれば、それらを直接コネクトすればよいというアプローチです。置き換えなければ、追加投資も最小限で済むのです。

 Artixは、サーバやクライアントなどの各ノードにインストールし、ノードごとにWSDLでサービス定義していく製品です。いったんWSDLによってサービスを定義付けすれば、あとはメッセージを自動的にトランスレートします。したがって、ある1つのミドルウェアのシステムを別のシステムに接続する際に自動的に翻訳してくれます。

 次に、既存のソフトウェア資産──C++、VB、COBOLなどいろいろなもので作られているシステムをサービス化し、SOAで活用していくという点です。

 例えばJ2EEアプリケーションサーバを使うのであれば、Java Beansから既存のソフトとのインターフェイスを持ち、そこを介してWebサービスにコンバートする方法です。これでも可能ですが手続きとして複雑ですし、アプリケーションサーバとサーバマシンというミドルティアが存在する分、よりコストが掛かります。

 コストダウンの具体的な例として、米国の大手通信会社の一般顧客向けコールセンター・システムのお話をします。システム・アーキテクチャは、ビジネスロジック部分がメインフレームにあり、顧客情報、アカウント情報、サービス・コンフィグレーションなども、そこに含まれています。オペレータが使っているデスクトップPCは、Microsoft Windowsを使っており、.NETを採用しています。

 J2EEのアプリケーションサーバを使うやり方であれば、中間サーバとして600台のUNIXマシンが必要でした。この事例ではArtixをご利用いただいたので、メインフレームとPC両方にそれを入れただけで、ミドルティアのサーバが不要となり、年間1000万ドルの節約になりました。

 このお客様は大変ご満足いただいて、さらに法人顧客向けコールセンターでも導入を検討されています。

──SOAを巡る議論は、サービス定義やビジネスプロセス記述に拡がってきています。

ホーン氏 ビジネスプロセスの可視化というのは、大事なポイントだと思います。ただ、大企業の場合、全社的にまたがっているビジネスプロセスを定義付けることは、容易ではないでしょう。とりわけ、複数の組織があって、お互いにライバル視しているような場合ですね、これは技術的な問題というよりも、社会的といった問題ですね。

 そこで使われるアプローチが、非同期、あるいはディスコネクテッド・モデルといわれるものです。あるイベントの発生に対して、それぞれのサービスがそれぞれのタイミングで反応すればよいというものです。必ず同期を図って反応しなければならない場合ばかりではありません。

 特に大きな組織の場合は、“ビジネスプロセス”よりも、“イベント”という形でとらえた方が向いているケースが多いように思います。ビジネスプロセスのビジュアル化は、もちろん私たちもサポートするところですが、必ずしもそのやり方は大企業の場合はベストとはいえないでしょう。

 また、サービス定義も全社的に一挙に行おうとすると、すごく大変になってしまいます。現実的な進め方としては、いわば戦術的に、例えば特定の業種、分野に限った形でサービスを定義付けていき、それをステップを追って広げていくのがよいでしょう。

──Webサービスでは、ビジネスプロセス記述に関しても標準化を進めています。

ホーン氏 標準化の部分で、ちょっと混乱している状況があると思いますが、ビジネスプロセスに関して、いま一番人気が出ていて、ベンダの後押しもあり、インプリメンテーションも可能になっているのはBPELですね。実際的に、いま一番勢いがあるのがBPELだろうと私は見ています。

 ただ、プログラミングをするのは難しいだろうなというのが私の個人的な意見です。BPELはかなり洗練されていて、パワフルなものですが、けっこう複雑ですし、実際使うとなると難しいところがあると思います。グラフィカルなインターフェイスも用意されていて、これもなかなかパワフルなものですが、いずれにしてもユーザーの方に使いやすいものになるにはもう少し取り組みが必要だと思います。

 私どもは、慎重にWebサービスとSOAを区別しています。SOAを行う上で、必ずしもWebサービスが必要だというわけではありません。WSDLを使えば、SOAPでもMQシリーズでもCORBAでもTuxedoでも、何でも使えます。Webサービスの場合には、WSDLとSOAPとHTTPだけですが、SOAの場合にはMQシリーズなどのそれ以外のものが使えます。

 企業と企業をつなぐということでは、Webサービスは適していると思います。テクノロジスタックという面でも、両方の企業が合意するという面でも、そう難しいことではないでしょう。ただ、それが1つの会社の中でとなると、すでに複数のミドルウェアや技術が使われており、それを置き換えるのはコストメリットがありません。

──アイオナテクノロジーズの今後のSOAへの取り組みを教えてください。

ホーン氏 現在、多くのベンダが“SOA”をいう考え方をアピールしています。これはビジネスサービスの構造を考える上で、より価値のある、効率的なやり方だからです。

 弊社は長年にわたって、CORBAの成功で知られていたと思います。それを土台にして、拡大させた先にSOAがあると考えています。SOAがもたらすいろいろな可能性について、これからもぜひにいろいろな方に説明していきたいと思っています。

 「再利用ができる」「これまでの投資を無駄にすることなく利用できる」「インプリメンテーションのやり直しがいらない」というメリットを伝えていきたいですね。

[関連リンク]
IONA Technologies
日本アイオナテクノロジーズ

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