ユーティリティ化に見るHPがユニークな点

2004/7/10

 「CIOが直面しているのはシステムの稼働率が15%しかないということだ。しかし、反対にいえばその分だけ可能性が潜在的にあるということ。その可能性を引き出すのがユーティリティ・コンピューティングだ」。米ヒューレット・パッカードのUtility Computing Director ニック・バンダージップ(Nick van der Zweep)氏はこう述べて、ユーティリティ・コンピューティングのメリットを強調した。

米ヒューレット・パッカードのUtility Computing Director ニック・バンダージップ氏

 ユーティリティ・コンピューティングとは企業内の部門やサービス、アプリケーション別に分割されているサーバやストレージ、ネットワークのリソースを1つの仮想的なリソースに統合し、システムの要求に合わせてダイナミックに割り当てるという考え。この考え自体は、HP以外でユーティリティ・コンピューティングを提唱するベンダとHPの間に相違はない。

 HPがユニークなのはユーティリティ・コンピューティングの実現を3段階で考えている点だ。しかも実現のための具体的なツールを用意している。

 HPが考えるユーティリティ・コンピューティングの第1段階は「Element Virtualization」。サーバやストレージ、ネットワーク、アプリケーションのリソースをそれぞれ仮想化し、必要なサービスに柔軟に割り当てられるようにする。例えばサーバはクラスタ技術を使って統合。iCOD (インスタント・キャパシティ・オン・デマンド)などでサーバのプロセッサを自在に増減させる。ストレージはネットワーク化し、複数のサーバで共有。ネットワークはVLANを構築する。

 第2段階の「Integrated Virtulization」では、システム全体にサービスレベル保証(SLA)の考えを導入する。データベースのレスポンスは1秒以内、サービスのダウンタイムは年間5分など具体的なサービスレベルを設定。そのサービスレベルを達成するためにプロセッサやストレージなどのリソースが自動的に割り当てられる。その際に大きな役割を果たすのが、仮想化やプロビジョニングの技術を統合管理するソリューション「HP Virtual Server Environment」。具体的にはミドルウェアの「HP-UX Workload Manager」(WLM)が中心となり、プロセッサを割り当てる「HP-UX Processor Sets」やリソース管理の「Process Resource Manager」などを自動管理する。「WLMはユーティリティ・コンピューティングの頭脳」(バンダージップ氏)として働く。

 バンダージップ氏はHP Virtual Server Environmentを持つことが、HPと他社のユーティリティ・コンピューティングの違いにつながっていると主張。「HPの競合ベンダは、サーバやストレージなどを個別に仮想化するだけで、統合管理できない」という。

 第3段階は「Complete IT Utility」で、他社のシステムが混在するヘテロジニアス環境のユーティリティ化を行う。第2段階までは原則的にHP製のシステムを対象とするが、第3段階は他社の製品が混在するシステムを仮想化する。Complete IT Utilityで鍵になるのが「HP Utility Data Center」の活用。主要ベンダごとに用意されたコンポーネントを組み合わせることで、ヘテロジニアス環境に対応し、「データセンター全体の仮想化を図れる」(バンダージップ氏)という。

 ユーティリティ・コンピューティングを実現するための技術的な要素は用意された。しかし、「企業の政治的、文化的な問題から各事業部が持つITリソースが共有されないことが多い」とバンダージップ氏は説明した。つまりユーティリティ・コンピューティングを進めるには企業の組織の問題を解決する必要があるのだ。バンダージップ氏の考えでは、システムの技術的な変更以前に、組織を変更する必要がある企業が多いという。その際の指針となるのがITILなど運用管理の業界標準。ビジネスプロセスを全社で標準化することで、システムを柔軟に動かせるようになるという。

(編集局 垣内郁栄)

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