私たちはこうしてITIL導入に成功しました
2004/7/24
システム運用管理の世界標準「ITIL」(Information Technology Infrastructure Library)を推進する業界団体「itSMF Japan」はユーザー向けのイベント「第一回 itSMF Japanコンファレンス」を7月23日開催した。itSMF Japanの事例研究分科会 副座長で、CTCテクノロジー サービス企画開発室の不破治信氏が、ITIL導入に成功した企業の研究結果を報告した。
itSMF Japanの事例研究分科会 副座長で、CTCテクノロジー サービス企画開発室の不破治信氏 |
事例研究分科会は「ITILの成功事例を分析することで導入の成功キーワードがあるはず」という考えの下、ITIL導入に成功したP&G(プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク)とインテル日本法人の事例を調査した。
不破氏の報告によると、P&GがITIL導入を決めたきっかけは、IT部門、ビジネス部門の両社から出たシステム安定化の要請。P&Gは2001年に日本、アジアで大きな組織変更があり、システムの可用性が低下。ERPの本格導入を目指していたこともあり、その前にシステムを安定させる必要があった。グローバルのP&GグループがすでにITILを導入していたこともあり、IT部門が主導する形でITILの導入が始まった。
ITILは導入したあとの評価測定がポイントになる。P&Gは以前から社内で使っていた「Quality Day Result」(月中無事故日の割り合い)、「Incident Resolution Ratio」(インシデント発生から終了までの時間)、事業部とのSLAを採用した。コスト削減や顧客満足度に関する指標は使わなかった。
ITILの導入プロジェクトを担当したのはIT部門の8〜9人のスタッフ。全員が別の業務との兼任だった。事業部からの参加はなかった。ITILの項目の中で採用したのは「サービスサポート」のサービスデスク、インシデント管理、問題管理、変更管理の各項目。「サービスデリバリ」からはサービスレベル管理の項目を導入した。外部のコンサルティングは利用しなかった。導入期間はサービスレベル管理が6カ月、変更管理が2カ月。その他の項目は特にプロジェクトを組むことはせずに日常業務中にITILを参照し改善する形で導入した。
ITIL導入の結果は定量的、定性的に表れた。定量的にはQuality Day Resultが15%向上した。ヘルプデスクへのコール数は月200件から60〜70件に削減。コスト削減の指標を設定していなかったにもかかわらず、結果としてサポートを担当する人員を9人から5人に減らすことができた。定性的な効果では各スタッフの仕事量、効率性が透明化され、部門間の連携や協力が強化された。IT部門の士気も向上したという。
不破氏はP&GのITIL導入の成功要因として「日々のシステム運用の業務を改善する方法としてITILを組み込んだ」ことをあげた。ITILを難しく考えずにスモールスタートしたのがポイントになったとして「運用の中で課題となっていることについて、ITILを参考書的に参照したのがよかった」と述べた。
もう1つの導入事例であるインテルの場合は、事業部門に対する満足度の向上と、システム運用に関するTCOの削減がITILを導入した目的だった。そのためITIL導入効果の測定指標としては事業部の満足度を採用。インテルが従来から利用してきた「ITVOC」(IT Vendor of Choice:IT部門に対する事業部の満足度)と、「電子調査カード」(グローバル・コンタクト・センターが提供するサービスに対する事業部の満足度)を使った。導入した項目はサービスデスクとインシデント管理、問題管理、変更管理、リリース管理、構成管理。
ITIL導入後、ITVOCが64%から92%にアップした。多角的な満足度に関する調査結果も90%以上に維持されているという。また、サービスデスクの一次回答率も90%程度に維持され、問い合わせの95%に対して、60秒以内に回答できているという。インテルは自社IT部門の活動をWebサイトで報告し、外部に対してオープンにしている。不破氏はインテルがITIL導入で効果を挙げた理由としてワールドワイドでITILに取り組んでいることや、レポートの公開などIT部門のモチベーションを維持する仕組みがあること、経営上層部のサポート、各プロセスでの役割、タスク、責任を明確にしていることなどを指摘した。
不破氏は事例研究分科会が出した結論として、ITIL導入を成功させる2パターンを紹介した。1つは“参考書的用法型”パターンで、ITILを参照し現場レベルで地道に改善を繰り返して運用管理を効率化していく方法。IT部門が主導し、予算やコストは少なくて済む。問題を発見し、ITILに基づき改善するPDCAサイクルの確立が鍵になる。
もう1つは“教科書的用法型”で経営トップが主導し、短期間でのITIL導入を目指す。全社的なプロジェクトになるため、その分コストはかかる。システム運用のギャップ分析、コンサルティングを行い、優先度を付けながら運用管理を改善していく。不破氏は結論として「現状を把握し、目的に合った手法で導入するのがポイント」と述べた。
(編集局 垣内郁栄)
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