新Oracle EBS投入で新宅社長の苦労は報われるか

2004/10/21

 日本オラクルは業務アプリケーションの最新版「Oracle E-Business Suite(EBS) 11i.10」(以下、11i.10)を11月30日に出荷すると10月20日に発表した。日本企業の業務に合わせて2000以上の機能を拡張。営業体制も一新し、業種別のアプローチを強化した。日本オラクルの代表取締役社長 新宅正明氏は「日本オラクルの2ケタ成長を狙うドライブ役としてEBSを打ち出していきたい」と述べ、同社のデータベースと並ぶ戦略製品にEBSを育てる考えを強調した。

日本オラクル 代表取締役社長 新宅正明氏

 オラクルでは11i.10を第3世代のERPと位置付けている。第3世代ERPで実現を狙うのは「経営環境の変化にいち早く“次の手”を打つ“リアルタイムエンタープライズ”の実現」だ。そのために11i.10で強化されたのは3点。企業活動の状況をリアルタイムに把握できるビジネス・インテリジェンス機能の本格実装と、対応業種の拡大、そして各ベンダの業務アプリケーションから顧客データを吸い上げて業種に合わせて整理する「Oracle Customer Data Hub」の導入だ。

 ビジネス・インテリジェンスの導入では、11i.8、11i.9から搭載しているBIツール「Daily Business Intelligence」(DBI)を強化した。DBIはOracle9i Databaseの機能「Materialized View」を利用し、EBSのトランザクションデータと、BIが利用するデータウェアハウスを統合。経営情報がリアルタイムにデータウェアハウスに反映され、よりビジネス価値が高いレポートを作成できる。経営者、管理者向けにKPI(key performance indicator:重要業績評価指標)や定型帳票を提供する機能があり、11i.10では日本企業のビジネスに合ったKPIを用意した。業務単位でまとめた580の帳票、254のKPI指標を利用できる。

 対応業種の拡大では、営業体制を一新する。営業とエンジニアからなる業種別の専門チームを設置する予定。専門チームはハイテク、自動車担当の第1チーム、製造、流通、公益、サービス担当の第2チーム、金融、公共、医療、通信、教育担当の第3チームを設置する。それぞれの業種に対して業種別のテンプレートなどを活用し、高品質な業務アプリケーションを提案する。3つの専門チームの総数は営業が70人、エンジニアが100人規模となる。オラクルでは特に製造、金融、医療・製薬の各業種に注力する方針。今後2年で製造は90件、金融が50件、医療・製薬で30件の獲得を狙う。別にOracle NeOを活用し、中堅企業も開拓する考えで、「EBSの全案件のうち、30%は中堅企業から獲得したい」(新宅氏)としている。

 Oracle Customer Data HubはWebサービス技術を利用して、SAPやピープルソフト、シーベル、レガシーシステムなどさまざまな業務アプリケーションのデータを吸い上げて統合するツール。リアルタイムにデータを同期させることが可能。データベースにはOracle Database 10gを使う。データをモデリングする機能と、各社の業務アプリケーションからデータを吸い上げるインターフェイス部分、データを整形するクレンジング機能の3要素で構成される。EAIツールや統合のためのアプリケーションを開発する必要がなくなり、コスト削減に役立つという。

 11i.10ではほかに日本企業向けに人事モジュールを強化した。パフォーマンス管理と報酬を連携させる機能や、学習管理と人事モジュールを連携させる機能を強化。日本オラクルのプロダクトオペレーションズ プロフェッショナルオフィサー デニス・ジョラック(Dennis Jolluck)氏は「65の人事の機能を強化した。これから1年から1年半をかけてさらに製品機能を強化していく」と述べた。パフォーマンス管理やグループ人事、自動化の機能などを強化していくという。

 新宅氏はEBSについて「マーケットの変化が速く、すごく苦労している」と心境を語った。ただ、「ビジネスの一部にERPを入れていても、全体のアーキテキチャを考慮したERPの導入は始まったところ」として「オラクルの強みが発揮できるのは(ビジネス全体のアークテキチャを提案する)第3世代のERP」と語った。

 また、新宅氏はオラクルによる買収の可能性が高まったといわれているピープルソフトについて「買収への備えはしているが、計画はしていない。ピープルソフトはいいお客を持っているので、うまくいけばいいなと思う」と希望を述べるにとどまった。

(編集局 垣内郁栄)

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